弦楽四重奏曲 第16番 変ホ長調 K.428(421b) (ハイドン・セット第3番)
現在、ハイドン・セット第3番として広く知られる「弦楽四重奏曲 第16番 変ホ長調 K.428(421b)」には、その作曲順序および同セットにおける位置付けに関して、別の見解があります。
まず、作曲された時期について言うと、これを明に示す資料が欠けているため定かではないものの、概ね「第15番 ニ短調 K.421」とほぼ同時、1783年の6月から7月のことと考えられていますが、楽譜に使用された用紙に基づく年代研究で有名なアラン・タイソンは、ニ短調より前に書かれたと主張しています。
しかしいずれのせよ、両者が同時期に成ったことはほぼ間違いないようです。
一方、ハイドン・セットにおけるこの変ホ長調の位置付けについては、モーツァルト自ら自筆譜に「第4番」と書き入れているのです。
もっとも、1783年の時点で完成されていたのは全六曲中まだ三曲のみで、現在の第4番「変ロ長調 K.458 "狩"」の書かれるのは翌年、したがって、ハイドンへの献呈の際にモーツァルトが一連の作品の特質を考慮した上で順序を変更したことになります。
この事実を重視し、ケッヘル目録(モーツァルト全作品年代順主題目録)も初版では変ホ長調を第4番、変ロ長調の方を第3番としており、国際モーツァルテウム財団が編纂してベーレンライター社により出版された新モーツァルト全集(Neue Mozart-Ausgabe=NMA)もこれを踏襲しています。
さて、この変ホ長調四重奏曲の特質ですが、個人的にはその朝靄の如きニュアンスに代表されるように思います。
これに通ずる情調はモーツァルトの他の作品にも折に触れて見られ、真っ先に思い浮かぶのは「交響曲 第29番 イ長調 K.201(186a)」の主題旋律。
しかし、こちらが陽の光を含んで黄金色に輝き、やがてすっきりと晴れ渡るのに対し、変ホ長調四重奏曲の呈するのは沈んだ色合いで、しかも全曲を通じて漂い続けるという相違があります。
また、同じハイドン・セットの一曲である「第18番 イ長調 K.464」も、この点に関し看過すべきではないでしょう。
これらを念頭に置き、作品集としてのハイドン・セットにおける楽曲の並びを考えると、確かに作曲者自身の指示した次の順序の方が適切な印象を受けます。
ト長調(K.387)の高らかなファンファーレによりこのジャンルの新たな扉を開いた後、まず痛切なニ短調(K.421)を提示。それを明朗な変ロ長調(K.458)で中和した上で、美妙なニュアンスを具えた変ロ長調(K.428)とイ長調(K.464)を並べ、最後に不協和音のアクセントを置いたハ長調(K.465)により清澄な高みへと飛翔する……
もっとも、これほど粒の揃った秀作のセットなので、仮に現行の配列が採られたとしても、大きな劣化となるならないはず。
白状すれば、私などこの内の二曲を続けて聴くには、相当な気構えを要します。
我が聴取力・集中力の貧弱さはあるにせよ、その主因はやはり作品の充実度にあると言うべきでしょう。
☆弦楽四重奏曲 第16番 変ホ長調 K.428(421b) (ハイドン・セット第3番)
第1楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ(Allegro ma non troppo)
第2楽章 アンダンテ・コン・モート(Andante con moto)
第3楽章 メヌエット:アレグレット(Menuetto: Allegretto)
第4楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ(Allegro vivace)
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