【東野圭吾】『変身』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『変身』を紹介します。

変身

変身

著者:東野圭吾

出版社:講談社

ページ数:382ページ

読了日:2024年10月4日

満足度:★★★☆☆

 

東野圭吾さんの『変身』。

2005年に玉木宏さん主演で映画化されている。

またWOWOWで2014年に神木隆之介さん主演で映像化されている。

『HE∀DS』というタイトルで漫画化されている。

 

あらすじ

青年・成瀬純一が偶然入った不動産屋に強盗が入り、

純一は女の子をかばって、強盗犯に拳銃で頭を打たれてしまう。

しかし、純一の頭に世界初の脳移植手術が行われ、純一は命を救われる。

だが、その手術のあと純一の性格は日を追うごとに変貌していった。

まるで、別の人格に心が乗っ取られていくように。

何より純一を苦しませたのは、

恋人・葉村恵への気持ちがどんどん冷めていくことだった。

自分の心が消失していく恐怖に駆られた純一は、

この原因が自分に移植された脳のドナー(臓器提供者)にあると考え、

そのドナーを探し始める。

 

登場人物

・成瀬純一:産業機器メーカーのサービス工場勤務。24歳。

・葉村恵:成瀬純一の恋人。画材ショップ『新光堂』の店員。

 

・堂元:東和大学医学部脳神経外科の教授。

・橘直子:東和大学医学部堂元教室の助手。

・若生:東和大学医学部堂元教室の助手。

 

・関谷時雄:故人。成瀬純一のドナー。学生。22歳。

・臼井悠紀夫:大学生。成瀬純一の隣に住んでいる。

・葛西三郎:成瀬純一の同僚。

・芝田:成瀬純一の同僚。

・矢部則夫:成瀬純一の同僚。

・酒井:成瀬純一の同僚。

・倉田謙三:捜査一課の刑事。

・京極瞬介:故人。事件の犯人。音楽家志望だった。

・京極亮子:京極瞬介の二卵性双生児の妹。似顔絵描きをしている。

・番場晢夫:バンバ不動産の社長。京極瞬介と京極亮子の実父。

・嵯峨道彦:弁護士。法律事務所経営者。

・嵯峨典子:嵯峨道彦の娘。

・光国:心理学者。堂元の友人。

 

ネタバレなしの感想

脳移植手術がテーマになっている作品で、

脳移植により元の人格が失われていく様が描かれている。

脳移植された主人公・成瀬純一視点で物語は展開していくが、

合間合間に他の登場人物の日記やノート、メモが描かれていて、

他者視点からの純一の「変身」が客観的に分かるようになっている。

ということで従来型の殺人事件が起きて、

その犯人探しや関連する謎について

真相を解き明かしていくというミステリーとは趣が異なっている。

ミステリー要素もあるとはいえ、どちらかというと科学サスペンスになっている。

 

実際には現在の医療技術では不可能な脳移植の話だけれど、

設定そのものは個人的にはすんなりと受け入れることができた。

本書は過去に読んだことがあったけれど、

物語冒頭の手術と不動産屋での事件、

純一の「変身」、真相究明、そしてラストへと続く展開は、

テンポも良く、中だるみも少なく一気に読むことができた。

ストーリーに関しては読書慣れしている方ならば、

ある程度予想がしやすいストーリーになっているが、

一方で純一の「変身」の描写に関しては圧巻で、

しかも他者からの視点も交える構成の巧さも光っている。

かなりシリアスなストーリーではあるけれど、

脳科学を取り入れた大胆な一冊になっている。

91年に発売した本ではあるけれど、

今読んでも色褪せないテーマなので、今読んでも十分楽しめる一冊になっている。

 

 

ネタバレありの感想

ストーリーはかなりストレートで東野さんらしい終盤の捻りがないのが特徴といえば、

特徴かもしれない。

もっとも、これはストーリー的に捻りようがなかったからだとは思うが。

 

成瀬純一は気が弱く、無口でおとなしく人見知りタイプで、絵を描くのが趣味

京極瞬介は精神的に不安定で、過激な上に衝動的で、音楽の才能があった。

主語がいつの間にか「僕」から「俺」になっていたりと、

かなり対照的な人格への「変身」というのも分かりやすくて良かった。

最後の最後に純一が葉村恵の絵を描くというのも物語的には素晴らしかった。

 

主人公の成瀬純一は、不動産屋の強盗事件で嵯峨典子を救おうとして撃たれて、

その結果脳移植を受けるという、完全な被害者ということを考えると

あまりにも救いのない結末に思える。

一方で、恋人の葉村恵は一度は故郷に帰るも、純一のことを思い、

再び純一のもとに戻ってきて、

最後まで純一と一緒にいたりと献身的愛情があるのが唯一の救い。

 

作中で殺される橘直子に関しては、純一を騙しているし、

堂元たちは明らかに狂ってる要素があるので彼らに共感する余地がなかった。

 

「生きているというのは、(中略)それは足跡を残すってことなんだ。」

(256Pと257P)と純一が堂元に言うように、

それまでの自分が失われていく恐怖というものを考えたら、

純一の最後の選択もかなり理解はできる。

 

あまりにもシリアスすぎるのと結末が救いがないので、

今の東野さんの作風からはかけ離れているけれど、

それでも構成の巧さや脳を扱っているという理系要素もあるので

東野さんらしさはあるので読んで損はない一冊。

  翻译: