これまでに、本サイトでは「自ら命を絶ったデス・ブラックメタラー」や「殺害されたデス・ブラックメタラー」を紹介してきた。おっかない格好をしていたり、神秘的なイメージを貫いている彼らも人の子。生まれた時は赤ん坊で、いつかは死ぬのである。
今回は、事故死したデス・ブラックメタラーを取り上げたい。“事故死” というと、メタル界ではツアー中のバスの転落によって亡くなった「Metallica」のクリフ・バートンや、飛行機の墜落事故で命を落としたランディ・ローズなどが挙げられるが……デス・ブラックメタラーは?
ジャンル名自体が「死」を意味するデスメタルや、ダークなイメージが付きまとうブラックメタル。これらは呪われているのか、不慮による死、つまり事故死の事例には事欠かない。その中から、代表的だったり、特に印象的な死を遂げた12人を以下で紹介しよう。
・Vitek
デビュー当初、ポーランドの代表的デスメタル「Vader」の後を継ぐ若手のホープとして期待された「Decapitated」のドラマー。2007年、東欧ツアー中にベラルーシでツアーバスが木材を積んだトラックと激突し、Vitekは頭に重症を負う。
ただちにロシアの病院に移送され、一命を取りとめたと報道されるも数日後、さらにポーランドの病院に移送された後に死亡。享年23歳、将来を嘱望されていたVitek。ボーカルのCovanも重症を負っており、現在も車椅子の生活を余儀なくされている。
また、Vitekの実兄Wacławは2009年にバンドを再始動させ、現在も同国を代表するデスメタルバンドとして活躍中。なお、「Decapitated」を訳すと「首切り」を意味する。頭に木材が激突したVitekの死に方は、呪われているように感じられる。
・Mieszko Talarczyk
ポーランド生まれで、世界的に人気のスウェーデンのグラインドコアバンド「Nasum」。その主要メンバーだったMieszkoは、2005年に休暇で訪れていたタイのピピ島で、スマトラ島沖地震の津波に襲われ死亡した。享年30歳。
バンドはMieszkoの死亡の報を受けて、解散を表明。彼はこのバンドだけでなく他のバンドでも活動しており、レコーディングスタジオも経営していた。スウェーデンのラウドミュージックの人気者だったため、その死は衝撃をもって報じられた。
・Mitch Lucker
カリフォルニアの人気デスコアバンド「Suicide Silence」のボーカリスト。甘いルックスとスタイリッシュなファッションで、カリスマ的人気を誇る存在だった。
2012年、28歳の時にハンティントンビーチで、ハーレーダビッドソンを運転していた彼は電柱に激突。すぐに病院に運ばれたが、翌朝死亡がアナウンスされた。飲酒運転だったとされている。デスコアというジャンルを代表するだけでなく、アメリカのラウドミュージック界でも人気絶頂期に急死。彼は今でも神格化された存在だ。
・Brian Redman
カナダを代表するヘヴィメタル「3 Inches of Blood」のベーシスト。Brian自身はアメリカのワシントン出身。このバンド以外に、ニュースクールハードコア「Trial」でも活動していた。2009年にワシントン州タコマをスクーターで運転していたところ、衝突して死亡。享年31歳。
・Fan Minghan(范明汉)
北京を代表するブルータルデスメタルバンド「Corpse Cook(中国語の綴は「尸厨」)のボーカリスト。2010年からバンドに加わっていた。2013年に交通事故に遭い、その後の感染症によって死亡。享年27歳。バンドは彼の死亡後も、精力的に活動を継続している。
・Zhang Ju(张炬)
中国で最も有名なヘヴィメタルバンド「Tang Dynasty(中国語の綴は「唐朝」)のオリジナルメンバーでベーシスト。1995年に北京の高速道路でトラックと激突して死亡。享年25歳。死去から10年後に彼を追悼したオムニバスアルバム『礼物』がリリースされるほど、中国のロック界では愛された人物であった。
・Dmitriy Donskoy
Dmitriyは、必ずしも世界的に有名なメタルバンドのメンバーではないが、紹介しておきたい。過去の記事「日本から最も近い白人文化圏「サハリン」のメタル事情」で取り上げた、サハリン出身のデスメタルバンド「Deathonator」のドラマーだ。2003年にヘリコプターの墜落事故によって29歳の若さで死亡。バンドのドラムは、実の兄Denisが継いでいる。
・Oleg Klimchenko
ベラルーシの代表的なフォークメタルバンド「Litvintroll」のベーシスト。ライブ中にステージで感電して死亡。享年35歳。フォークメタルとは全く異なるスタイルのブルータルデスメタルバンド「Ossuary」でもベーシストとして活動していた。メタラーとしてステージ上で死ぬのは殉職のようにも見えるが、まだまだ活躍して欲しかっただけに残念である。
・Marcos Rigoli / Robson Van Der Ham
ブラジル、リオ・グランデ出身のヘヴィーメタルバンド「Excellence」のドラマーMarcosと、ベーシストのRobson。2013年1月27日、サンタマリアにあるナイトクラブのコンサート中に発生した火災事故で死亡。他のバンドが演奏中に、演出用として発煙筒に点火したところ火災が発生したという。犠牲者は237人にのぼり、ブラジルの火災史上最悪の被害者数となった。
・Tom Richardsen
バンド活動時の名前は「Jerv」。2017年4月29日に交通事故で死亡。享年40歳。ノルウェーのバンド「Ragnarok」に、1994年から2007年まで在籍していた。このバンドはノルウェーのブラックメタルが盛り上がってきた90年台中期から、シーンの中心的なバンドのひとつとして活躍していた。
・Keith Alexander
ニューヨークのクロスオーバー「Carnivore」や「Primal Scream」といったバンドでギタリストとして活動してたKeithは、2005年に自転車を運転していて子どもを避けようとしたところフェンスに激突して死亡。享年41歳。ボディピアサーとしても有名で、映画『ボディーピアス』のコンサルタントとしても活躍していた。
・死のイメージがつきまとうが……
さて、実は自殺者や殺人事件被害者に比べて、事故で死んだデス・ブラックメタラーはかなり多く、まだまだ他にも例がある。
例えばインドネシアのベテランブルータルデスメタル「Grausig」のボーカルJamesも、今年の5月に事故で亡くなったばかり。ここでは特に有名だったり、記憶に残るデス・ブラックメタルで事故死したミュージシャンを取り上げた。
「Death Metal」というジャンルは “死” を表わしているが、世間の良識に対する反抗心やアンチなイメージを喚起しようとしているだけで、デスメタラーみんなが死にたがっている訳ではない。
突然の死に見舞われたデスメタラーのバンドメンバーや友人達によって、哀悼の意を表すサイトが開設されたり、トリビュートコンサートが開かれたりもする。デスメタラーだって突然死んだら不幸だし、周りの者も悲しいのである。
執筆:ハマザキカク
イラスト:Rocketnews24
▼10年前の動画なのであまり鮮明ではないが、あの「Sick Drummer Magazine」がトリビュートを作るほど超絶上手い「Decapitated」のVitekのドラミング。
▼100万回も再生されている「Suicide Silence」のカリスマボーカルMitcjh Luckerのドキュメンタリー。両親も登場して思い出を語る
▼日本では「ナズム」と呼ぶ人が多いが「ネイサム」という発音のグラインドコア「Nasum」