「駅弁」という言葉に、何かワクワクするような響きを感じるのは筆者だけではないはずだ。それはおそらく駅弁が単なるグルメではなく、「旅行」や「行楽」といった楽しいお出かけのイメージを内包するものだからだと思う。

しかし鉄道旅行が盛んだった時代ならともかく、今の時代に駅弁を販売している場所というのは限られている。新幹線の停車する駅か、せいぜい多くの人が押し寄せる観光地至近の駅くらいだろう。

今回、筆者は兵庫県のローカル駅に知る人ぞ知る「幻の駅弁」が存在するという情報をキャッチ。絶滅危惧種といってもいいレアな駅弁を求めて、片道120kmの弾丸グルメ旅を敢行した。その全記録をお届けしよう。

・幻の駅弁

その駅弁は、兵庫県朝来市にあるJRの和田山駅で販売されている……らしい。断片的なネット上の情報によると、駅前にある福廼家という弁当屋で和牛をふんだんに使った駅弁が売られているとのこと。

確かに同駅のある但馬地方は牛肉の産地であり、和牛弁当が販売されていても不思議ではない。しかしこの和田山という駅、どうも筆者には駅弁を売っているタイプの駅には思えないのだ。

一応「こうのとり」「きのさき」「はまかぜ」といった特急列車は停車するものの、それらに乗車する人の多くは城崎温泉方面へと旅行するものと思われる。雲海で有名な竹田城は近いが、最寄駅ではない。

つまり普通のローカル駅なのだ。今の時代に駅弁が販売されているイメージが全く湧かない。しかもお店のホームページらしきものを見てみると、お知らせ欄の更新は2017年を最後に止まっているではないか。これ本当に売ってんのか!?

だが存在自体が怪しい反面、実際に食べたという人のレビューの中には「メチャメチャ美味かった」という声も。まさに幻の駅弁といった感じだ。こうなったら自ら突撃して、その正体を突き止めねばなるまい!

・西へ

午前7時前。おはようございます。眠いです。幻の駅弁を求めて出発です。

前日の夜にお店へ電話してみたものの、時間外だったのか繋がらず。マジでイチかバチかの突撃となってしまった。

筆者の住む京都市内から和田山駅までは片道120km。これで食べられなかったらと思うとゾクリとするが、その緊張感がたまらないではないか。ときとして人生にはスリルが必要である。

なお電車賃がエグいことになりそうだったので、今回はバイクで目的地を目指すことにした。どのみち弁当屋は駅の外にあるみたいだしね。

朝早くの出発。前日の夜から駅弁のことばかり考えていたこともあって、どうにも腹が減っていけない。24時間営業の吉野家が「軽く食べていかんかね」と悪魔の誘いをかけてくる。いや食べたい気持ちは山々だが、いま牛丼食ったらいろんな意味で負けだぞオイ……。

ファミレス、牛丼、朝マック。早朝から食事のできる場所は意外に多い。次々と襲い来る誘惑を振り切りながら、ひたすら国道9号線を西に進む。全ては幻の駅弁のため。そして絶好のツーリング日和やないか……

午前11時すぎ。ついに和田山駅へと到着した。

・本当にあった!

このあたりは初めて訪れる場所なのだが、メッチャええ場所である。味のある駅舎と線路に、緑豊かな山々。そこに春の柔らかな日差しが降り注ぎ、思わず伸びをしたくなってしまう。来た甲斐あったなあ……

と、たそがれている場合ではない。駅弁だよ駅弁。一刻も早く駅弁の存在を確かめねば。見たところ周辺に良さげな飲食店はなさそうである。ここまで来てコンビニ弁当じゃ洒落にならないぞ。

駅前の通りをグルリと見渡してみると……

ん?

んん?

本当にお店があった。だが営業しているのだろうか。恐る恐るドアを開けて店内に入ってみると……

か、買えたぁぁぁぁぁっ! 和牛弁当(1080円)、見事にゲットなり!!

・桜と和牛と

マジで売ってた。こういう販売スタイルの駅弁屋、全国にどれくらいあるんだろう。とってもレアなことだけは確かだ。すごい。

しかも駅前には「ここで弁当食ってください」といわんばかりの公園があり、桜が咲き誇っているではないか。なんてこったい。

さっそくベンチに腰かけ、弁当を袋から取り出す。ザ・駅弁といった感じの趣ある包装。これなんだよなあ。そしてフタを開けてみると……

お・お・お……! これもう美味しいの確定なヤツじゃん! したがって今日の食レポは省略します!!

というわけにもいかんので、とりあえず一口パクリ。

うめえ……!

正月とかにオカンが決死の覚悟で買ってくる「いっちゃんええ肉」の味がするではないか。産地とかブランドとか細かいことは筆者には分からんが、間違いなく上等な肉である。それを時雨煮風に甘辛く味付けしたものが白飯の上に敷き詰められている。

ご飯に汁が染みすぎていないのもGOOD。たっぷりツユを含んだ米も美味しいが、それを弁当でやってしまうとベチャッとなる危険性もあるからな。作り置きの弁当として完成されている。

そんな弁当を、桜を愛でながら食べる。これ以上の幸せがあるだろうか? 本当に来て良かった。イチかバチかの弾丸グルメ旅は大成功に終わった。めでたしめでたし。

いや、終わっていなかった。今から120kmもの道のりを帰らないといけないのね……トホホ……

〈完〉

(※本記事は緊急事態宣言が発令される前に取材したものです)

・今回紹介したお店の情報

店名 福廼家
住所 兵庫県朝来市和田山町東谷204
時間 8時ごろ~16時ごろ(売り切れる場合もあり)
休日 無休

参照元:駅弁の福廼家
Report:グレート室町
Photo:RocketNews24.

日本、〒669-5202 兵庫県朝来市和田山町東谷204