ベスト10
1位『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』
現代の邦画で最も“強い”アクションを撮れる阪元裕吾の最新作で、シリーズ三作目。
前作まではコメディ寄りで格下と戦ってきたが、本作は敵が強い。演技でもアクションでも、そこに説得力を持たせる。キャラのギャップも類型にとどまらず、寡黙で異常で素朴な、矛盾した人間性が魅力を作っている。
全編宮崎ロケで、白眉は前半の県庁戦。県庁を縦横無尽に使い、立体的に戦う。
主人公のちさととまひろ、何度も殺し合いを繰り返すうちに同調するまひろとかえと、関係性も美しい。肉弾アクションの到達点。
2位『ミッシング』
6歳の娘が行方不明になった夫婦と、それを取材する地方局の記者が描かれる。
我々が“行方不明”のニュースを見たとき、ある種「死亡よりもつらいだろう」と想像してしまうだろうが、その“つらさ”が解消されないまま、時だけが経っていく。
主人公である母親は娘が一向に見つからない状況に疲弊し、攻撃的になる。協力的な周囲にすら噛みつき、冷静になっては涙する。離婚に発展するわけでもなく、ただ悪い方向にだけ進み破滅することもなく、容疑者として扱われた人間が逆転して英雄になるようなことも、探すのを諦めて日常に戻ることもない。
最初は悲惨さ、物珍しさから特集番組を組んでいた局も、(当然ながら)進展がないのでセンセーショナルな切り口を求められるし、番組が作られなくなればただでさえか細い糸が切れ、縋る藁もなくなってしまう。
石原さとみの痛切な演技がすごかった。
3位『陪審員2番』
陪審員に選ばれた男は、その事件の真犯人が自分かもしれないことに――轢き逃げした鹿が本当は人間だったかもしれないことに――気付いてしまう。満場一致で有罪が選ばれる中、真相を知っている男はそれを止める。
自分の中の「正義」に従って動く男だが、自身が犯人だと確定しそうになると保身を願ってしまう。誰もが「正義」のために動こうとし、最後の決断も、社会の「正義」を問う。
確定しないままに自身が犯人かもしれない恐怖、そして自身に刑が執行されるかもしれない恐怖が通底し、最後まで居心地が悪い。
4位『サユリ』
命を“濃く”し、悪霊に立ち向かうアンチホラー。前半で凄惨なホラーをしっかりやる分、後半もドライブがかかる。
「サユリ」の立ち位置は分かりやすく、ヒロインも置いてデートムービーの要素もあり、万人受けのホラー映画。白石晃士×押切蓮介という鬼才同士の化学反応がなかったのは残念。
5位『フォールガイ』
スタントマンを主人公にした映画で、惜しげもなくスタントアクションが大量に盛り込まれ、火だるまになったり車で連続で横転する姿が見られる。
俳優とスタントマンの関係や現在進行形でハリウッド内外で議論されているディープフェイクといった問題へのハンドリングも上手い。
骨子は挫折からの復活、それに恋愛を主軸とした王道作品。エンドロールはスタントシーンのメイキングで、本編で使われている以上当然ではあるものの、“本当に”やっていることに驚かされる。
6位『憐れみの3章』
約1時間の中編3本からなるオムニバス。
どの物語も不条理で、愚かしい。それぞれで役者が共通し、なんとなく似たような役割を持っている。居心地の悪いじわじわと侵食する感じも、大きな一撃も、何が起こるのかという不安もないのに、厭さが通底している。意味がないような分かるような感じなのに、三本目のラストが全体を総括するかのようで気持ちよく終わる。
7位『オッペンハイマー』
戦前――原爆を開発するオッペンハイマー、戦後――聴聞会でそれを語るオッペンハイマー、5年後――複数の証人による公聴会の三つのレイヤーが入り乱れるが、語りたいことが明確なので意外に混乱しない。
人類が作った最大にして最悪の兵器である原爆を物語るために、本作では爆発を想起させる重苦しい劇伴が何種類も使われる。内なる予感として、恐怖として、苛むように、その使い方も多岐に渡ってストレスを与える。万雷の拍手と地響きのような足踏みも、醜悪に爆弾のイメージに重ねられる。
伝記映画をスペクタクルに演出している。ノーランの今までのキャリアがあったからこそ撮れた一本。
8位『侍タイムスリッパー』
“侍がタイムスリップする”という設定で欲しい笑いは全部ある、温かいコメディ。主人公の素朴さが悲観的にならず、かといって現代に完全に順応もせず、魅力であると同時に独自性も出ている。
キャラの配置も巧みで、それぞれが“一芸”にならないよう、アイデアがストーリーと絡み合っている。
クライマックスはフェイクドキュメンタリー的な“リアリティ”(というのは作中で否定されるが)があり、没入感を高めているのが面白い。
9位『悪は存在しない』
芸能事務所がコロナの助成金を目当てに、山間の集落にグランピング施設を建設しようとする。しかし、助成金のための計画ゆえに穴だらけで、そのまま進めれば住民からの反対は必至だった。そこで便利屋を営む巧が、折衝を任されることになる。
リアリズムを追求した間は独特で、三幕を物語の進行に合わせるのではなく、巧の視点と事務所の担当者の視点で大胆に切り取る。
矛盾する二面性を描くことは映画ではよくあるが(それゆえにチープにもなり得るが)、本作はタイトルで“悪は存在しない”と示すことで、二面性にベクトルを付与している。うどん屋の優しい店主が小言を言うことも、建設反対派の若者が他人のために走ることも、担当者が建設に反対することも、単純なリアリズムではなく“悪は存在しない”ことに結びつく。
中間に立ちバランサーとして動く巧は自然と重ねられる。そして、自然には善悪がないことが語られる。悪の存在しない静謐が淡々と描かれる。
10位『ゴールド・ボーイ』
殺人現場を偶然撮影した三人の中学生が、義両親を殺した大企業の婿養子を脅迫し、6000万円を手に入れようとするクライムスリラー。中国の小説が原作とはいえ、邦画には見られない重厚さがみられる。
動画による脅迫というシンプルなストーリーには多いくらいの登場人物がいるのもむしろミステリ的に丁度よく、どのキャラも善人としては描かれず異常者まみれなのでいい意味で感情移入ができないまま楽しめる。
1位『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』
2位『ミッシング』
3位『陪審員2番』
4位『サユリ』
5位『フォールガイ』
6位『憐れみの3章』
7位『オッペンハイマー』
8位『侍タイムスリッパー』
9位『悪は存在しない』
10位『ゴールド・ボーイ』
2024年は新作映画を39本(うち1本配信スルー/ホームメディア)観ました。
昨年は53本だったのですが、うち15本がホームメディアでの鑑賞だったのでほぼ同数。10~12月にCS・VODなどでその年の新作映画が観られたので喜んで観てみたけど、実はそんなに満足度がないのでは……と思い、今年は新作に重点を置かないようにしてみました。
2023年ベスト10