はじめに
大晦日に108首の短歌を作ることが恒例行事となり、今年も、
2024年12月31日(火)5回目の完走を果たすことができました。
朝4時20分から12時10分(朝食休憩含む)完走タイムおよそ8時間です。
以下に全短歌を掲載いたしますが、その前に、仕込みについて再掲いたします。
今年の仕込み(前回のブログより)
今年は、昨年と同じ 12×9=108 を採用します。
本棚から12冊の歌集を取り出し、ランダムに1月から12月までに割り振って、それぞれの歌集から、割り振った月のイメージにある短歌を一首ずつ選び、かつ、その一首からテーマを抽出したら、あとは「月」「選んだ短歌」「抽出したテーマ」を手掛かりに9首ずつ作っていけば、12×9=108首、というわけです。
仕込みの追記
今年は上記とは別にもう一個、手がかりを増やしました。
それは、テーマとなる短歌から「ワード」を抜き取り、それを読み込むことを可としたことです。結果、手が停まることなく短歌を作っていくことができました。
完走記録
(各歌の後ろの( )がワードテーマ 時間は作った時間です。
1月『アーのようなカー』 寺井奈緒美さん 【尊厳】
<路上にはネギが一本落ちていて冬の尊さとして立て掛ける>
001 白息を吐きつつ進む霜柱蹴散らす我を破壊神とせよ( )4:21
002 屋根裏にネギ一本の気配あり照らせば消える爪と嘴(ネギが一本)4:23
003 降りてくるものと落ちてくるものに違いはなくそれは臍が証明する(落ちて)4:31
004 病院で一番寒がりな君が一番好きなのは冬だと聞いた(冬)4:37
005 尊みがヤバみの推しを東京メトロ丸ノ内線で見かけないフリ(尊さ)4:40
006 赤ちゃんが立って歩いて自転車や逆上がりや分数を諦めるまで(立つ)4:52
007 掛け算の隠れた意味に震えてた小五の冬の新幹線で(掛ける)4:55
008 狛犬が冷たい三越前のライオンも冷たい不発の魚雷( )4:57
009 アレと言えばソレと分かってくれるAIで事足りている肉体関係( )5:02
2月『悲しき玩具』 石川啄木 【顫動音】
<呼吸(いき)すれば胸の中(うち)にて鳴る音あり。凩よりもさびしきその音!>
010 第一回もっとも震えている声でもういない人を呼ぶ選手権( )5:04
011 大きく息を吸うからわたしの肺で犬や刀をつくってみせて(息)5:10
012 鳥を見て大胸筋という人がわたしの胸で泣いていた朝(胸)5:15
013 さっきまで鳴ってた鈴の音が消え中から青い蝶が飛び立つ(鳴る)5:17
014 アラームを一分刻みでセットしてそのいずれもが鳴らずに終わる(鳴る)5:22
015 屋根裏の棺に夏が逃げ込んで早すぎた埋葬の音がする(音)5:25
016 デンモクは死語? 『木枯らしに抱かれて』小泉今日子を音漏れさせて(凩)5:31
017 最近聞いた一番大きな音 階段からわたしが落ちる音(音)5:33
018 スペイン語のRみたいのが気持ちいい ロシア語のPもまあ気持ちいい( )5:40
3月『行け広野へと』 服部真理子 【秘事】
<スプリングコート・フェアが終わるまで私の中にひそやかな森>
019 身体からバネ全部出ちゃったの なのに平気なのどうして 先生?(スプリング)5:43
020 宇宙船にコートを持ち込める日のためのミネサムもこもこエコファーコート(コート)5:47
021 ウィンターアフェアと言えば困った顔してみせる長い吊り橋で(フェア)5:52
022 予告編見終えたとこで席を立つ「映画を見てた」と言うためだけの(終わる)5:56
023 あなたってバカほんとは怖い私小説 行間を読むなんて無駄なこと(私)5:59
024 霧深き真夜中の商店街でぎりぎり引き絞られていく弓(中)6:03
025 マトリョーシカみたいな鏡餅セット精密機械のようにひそやかに(ひそやか)6:05
026 たくさんの森を燃やした火が消えて眠れる森の美女覚醒す(森)6:07
027 荒野へ行けと命名された人類に最初は母がなかった話(行け)6:11
うっかりミスで4月を飛ばす
5月『ひとさらい』 笹井宏之 【目撃】
<どんなひともひかりのはやさたもってる みえたしゅんかんにみえてしまう>
028 どんな角笛でも吹きこなしてみせる牧羊神に着せたいチョッキ(どんな)6:12
029 明けきらぬ冬のひととき膝に猫寝かせて短歌密造機械(ひと)6:16
030 見よ ヒトデをコメットと呼ぶときのひかりに無数の脚が蠢く(ひかり)6:19
031 はやさとはとおさなんだとしんかんせんのぞみのしていせきにておもう(はやさ)6:21
032 頑なにワープ速度を保つ君と巡り合えたら袖をつまむね(たもつ)6:24
033 約束を破られた夜は冷え込んでゲリラ豪雨に似た流星雨(みえた)6:29
034 一瞬を見逃さないで瞬きなんてそんな怖いことはもう止めて(しゅんかん)6:32
035 箱舟が見えてきたからここからは泳いでいくねバタフライでね(みえて)6:35
036 ひとさらいみたいな顔と言われがち誰かと二人になるのは怖い(ひとさらい)6:37
朝食中断
6月『ピクニック』 宇都宮敦 【雨】
<やがて雨あしは強まり うつくしさ 遠くけぶったガードレールの>
037 この星もわたしもやがて消えゆくねモーニングセットもドリンクバーも(やがて)8:22
038 雨そしてみたこともない船が着くあれは箱舟巨大な棺(雨) 8:24
039 たくさんの脚があるってどうだろう股間がたくさんあるのは困る?(あし)8:25
040 分からない わかりません ワカラナイ 攻め込まれてもそこは平原(強まる)8:29
041 「海」という美しい言葉があってそれは実物よりうつくしい(うつくしい)8:35
042 いつだって空は見えてるけど遠い見えない海もやっぱり遠い(遠い)8:39
043 妹の修学旅行アルバムの煙れる阿蘇を密かに愛す(けぶる)8:45
044 ガードレールは案外重い 標識は意外とでかい 滅びた星の(ガードレール)8:49
7月 『月蝕書簡』 寺山修司 【血】
<血まみれの蚊帳ながれゆく夜の沖姉は縛られつつ夢の中>
045 昼食をピクニックって名付ければ秋吉台に来ているみたい( )8:51
046 逆ならば嘘をつかずに生きられた血の海でぬたくる心臓(まみれ)8:54
047 真実に塗れて生きるマユミことマミは失くしたユを探してる(蚊帳)8:56
048 帰省するたびに実家は蚊帳を吊りオープンセサミと言って迎える(流れ)8:57
049 様々な風が絡んで空を編むその一連の流れのままに(流れ)9:00
050 カーナビによればここが沖です どの国のコンビニからも一番遠い(沖)9:02
051 あんたにはわたしくらいの姉さんがいたんだ パチンコ台は激熱(姉)9:04
052 ねえどこか一か所だけをぜったいにほどけないほど縛って寝よう(縛る)9:05
053 催眠術かかり放題って夢みたい だけど絶対許さないから(夢)9:08
054 ジップロックに入れたからって未来への手紙を埋めるには海すぎる(書簡)9:10
8月 『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た』 野村日魚子 【耳鳴り】
<耳鳴りのなかで好きって聞こえたようでメロンソーダ飲み込む>
055 百舌鳥はモズ小啄木鳥はコゲラ胡頽子はグミちょっと調べてみただけだけど(百)9:17
056 救われない? 人間? だから? 輪廻する? 2025年は巳年?(何年後)9:22
057 嵐の中へあなたと犬は駆け出して行った 犬は知らない犬であなたとは知り合う前の冷めたポタージュ(嵐)9:24
058 気付くのが遅すぎたけど気づくのが遅すぎたって完治する恋(恋)9:27
059 実際の戦争を経験するため「ことりっぷ」「戦場の歩き方」をください(実際)9:30
060 時計としてはこわれたのかもしれないけど壁掛けとして混乱させて(こわれた)9:33
061 サングラスツインテール同盟は気弱で不遜なわたしたちだよ(わたしたち)9:39
062 魚とかバナナってああいう形だから丸のみされたいみたい(魚)9:42
063 耳鳴りが止まない全然客の来ない純喫茶のドアベルみたい(耳鳴り)9:45
9月 『イマジナシオン』 toron* 【永遠】
<永遠じゃない夏だった 駅前の床屋の螺旋しずかに止まる>
064 永遠のほんの一部に関わったことを誇りとして生きていく(永遠)9:48
065 じゃない方なんだと思うじゃない方ばかりが集う止まり木ですら(じゃない)9:50
066 誤って夏をトイレに流してもきれいになって海に着くから(夏)9:54
067 猿だった。蝙蝠だった。蛇だった。過去か未来かわからないけど。(だった)9:56
068 十字架が聳える駅前ロータリーをぐるぐる回る僕の思い出(駅前)10:05
069 映画館を出てきた人と床屋から出てきた人が同時に見える(床屋)10:10
070 ポンデリングを螺旋にしたら永遠に呑み込み続けられるから して(螺旋)10:15
071 だいこんが静かに沈むおでん鍋あの湖は凍ったかしら(しずか)10:24
072 止まってはいけないものが多すぎて東京インテリアで椅子を見る(止まる)10:26
10月 『たんぽるぽる』 雪舟えま 【公園】
<公園は変わった人によく出会う前世も来世もキノコのような>
073 公園に砂場の占める割合がアジア最大級 だそうだよ(公園)10:30
074 変わったとか変わらないとか死んだとか死んでないとかコメダで話す(変わった)10:35
075 人でなし となじられしかば明治から昭和の文豪たちを思ひぬ(人)10:40
076 年末のイオンモールですれ違う一人ぼっちでよく笑う人(よく)10:42
077 深海の真っ暗闇で出会ったら悩まず食うかセックスするか(出会う)10:43
078 石段の最上段と最下段両方にいる前世から殺す(前世)10:45
079 きのこには独自の情報網がある地球のためになる貪欲さ(キノコ)10:50
080 石段の最上段にいる来世わたし以外の未来を生きよ(来世)10:52
081 このへんに地球のような惑星と日本のような国はあるかな(のような)10:55
ここで11月を忘れてる
12月 『ラインマーカーズ』 穂村弘 【困り眉のマユ】
ものすごくまみは無駄なの 宇宙から直接降ってくるような雪
082 ものすごくマユがご所望なら絶対お勧めなのはこの子かわたし(ものすごく)11:01
083 諦めてマユ 無駄な抵抗はやめて あ、それはちょっと無駄じゃないかも(無駄)11:03
084 待ち針の待ち針の待ち針の待ち針の待ち針なの マユ信じて!(なの)11:05
085 常日頃肌に宇宙を触れさせて宇宙を呼吸するんだよ マユ(宇宙)11:07
086 スマホから漏れた光はマユの目に入って鼻か耳かに抜ける(から)11:10
087 マユ わたしに言いたいことがあるのなら直接文書にして焼き捨てて(直接)11:12
088 それにしてもいろんなものが降ってくる町だよねマユ 傘じゃ無理だよ(降って)11:15
089 元旦に同窓会があるんだって マユも来るよね水いらずだね(くる)11:17
090 雪が降るとシンとするのが嫌なんだ マユほんとうに嫌なんだ わたし(雪)11:20
4月『風のアンダースタディ』 鈴木美紀子 【勘違い】
<押しボタン式だとずっと気づかずに見つめ合ってた横断歩道>
091 押しても引いても開く扉が天国の入り口にある 試されている(押し)11:26
092 ジーンズがボタン式でもかまわない東京メトロのドレスコードは(ボタン式)11:29
093 信号がずっと青でも絶対に渡りきれない横断歩道(ずっと)11:30
094 マグカップ替えたことにも気づかない人と暮らしていく気軽さも(気づかない)11:32
095 見て分かるように伝えてこれは音に反応する防犯装置(見つめ合う)11:36
096 横断か縦断かの区別がつかず最高裁判所までもつれる(横断)11:40
097 あと二つあればよかった歩道橋この町もまた爆撃される(歩道)11:41
098 スペアリブならばワンチャンありそうな風が奏でる肋骨の歌(風)11:42
099 英会話教室の窓から漏れるYou should study harder than a dog.(スタディ)11:47
11月 『水上バス浅草行き』 岡本真帆 【ていねいなくらし】
<ていねいなくらしにすがりつくように、私は鍋に昆布を入れる>
100 アマゾンの緩衝材のペーパーを丁寧に丸めて捨てる日々(ていねい)11:49
101 窓の灯の数のくらしの迫りくるぶらさがるタイプのモノレール(くらし)11:51
102 懸命に誰かにすがりつくときがくるから奥歯大事にしてね(すがりつく)11:55
103 持ち寄った一人鍋用鍋二つ一人暮らしの二人で食べる(鍋)11:58
104 利尻しか知らないけれどていねいな暮らしのために昆布をひたす(昆布)11:59
105 小麦粉にイースト菌を入れるとき息を止めなきゃ死んじゃうと思う(入れる)12:00
106 しばらくは水面に浮いていたお札タイタニックみたいにゆっくり沈む(水上)12:03
107 平日は天井裏にバスがきて月水金は誰かが降りる(バス)12:06
108 浅草は混んでいるかな正月のための灯油を買いに行く午後(浅草)12:07
青色は自選歌です
おわりに
勝手にやっている遊びとはいえ、達成するのは良い気分です。クオリティーよりも、期間内で数をそろえることを重視した遊びですが、短歌の形や、自分が頼りがちな要素などが如実に顕れていて、今後の戒めにしようと思います。
今年はずっと短歌に悩み、一時的には何かつかんだような気にもなりましたが、それは珍しい自然現象や野生動物みたいなもので、出会えたことが奇跡だったのだと思います。だから、その出会った奇跡に近づこうとすることを忘れないようにしていきたいと思います。
2024年、わたしの短歌に気づいてくださった皆様、どうもありがとうございました。来年もたくさんの短歌に出会う年になればと思います。
宇祖田都子でした。