脚本家・古沢良太が描く、世界を舞台にした“コン・ゲーム”アニメ『GREAT PRETENDER』制作の裏側と志向に迫る
世界を舞台に、壮大な「コン・ゲーム」を描いた物語が、今夏スタートする。アニメ『GREAT PRETENDER(グレートプリテンダー)』だ。
コン・ゲームとは、信用詐欺師(=コンフィデンスマン)を軸に物語が展開されるミステリージャンルの一つ。近年では、コン・ゲームを描いたドラマシリーズ『コンフィデンスマンJP(2018年放送)』が大ヒットしている。
コン・ゲームの魅力は何といっても“痛快さ”にある。だましだまされの予想がつかない展開、大どんでん返しのラスト……視聴する側が驚かされる、まさにエンターテインメント。アニメ『GREAT PRETENDER』もまた、最高のクライム・エンターテインメント作品となっている。
本作の脚本を手掛けるのは『コンフィデンスマンJP』で見事なまでに痛快なコン・ゲームを描いた古沢良太さん。テレビアニメの脚本を書き下ろしたのは、本作が初めてのこと。それだけでなく、『コンフィデンスマンJP』よりも前、初めて筆を執ったコン・ゲーム作品が『GREAT PRETENDER』だった。
初のアニメ脚本「プロデューサーの熱意にあてられて」
古沢さんはこれまで映画『ALWAYS 三丁目の夕日』や『探偵はBARにいる』、ドラマ『相棒』シリーズ、『リーガル・ハイ』と幅広いジャンルの脚本を書いてきた。そんな古沢さん、幼少期はテレビっ子で、(1970~80代に)放送されていたアニメはジャンル問わず片っ端から見ていたほどのアニメ好き。以前より、アニメの脚本を書いてみたい気持ちはありつつ、機を逃していた。
『GREAT PRETENDER』の脚本を手掛けるキッカケとなったのは、今から8年前の2012年。本作のアニメ制作を担当するWIT STUDIO代表取締役社長であり、プロデューサーでもある和田丈嗣さんからの熱烈なラブコールが始まりだった。和田さんは、古沢さん宅の近所にあるカフェへ足しげく通い、「一緒にオリジナルアニメがつくりたい」と思いを綴(つづ)った手紙と、手掛けていたアニメ『進撃の巨人』の映像を送り続けた。古沢さんは「和田さんの意外と野心家なところに魅力を感じました」と当時を振り返る。
「『日本のアニメは世界中にファンがいるから幅広いお客さんが楽しめる作品を』と、常に世界を意識されていることに心が動きました。和田さんがかなりしつこかったのもありますが(笑)、そんな話を聞いていたら、徐々にやらないといけないかもな……という気持ちになっていきましたね」
「僕がアニメの脚本を書いてみたいと思っていた大きな理由の一つが、世界中に日本のアニメファンがいるということ。世界中の人に見てもらえる作品がつくれることに魅力を感じていたし、勉強してみたいと思っていました」
そして、『GREAT PRETENDER』の制作がスタート。本作のテーマであるコン・ゲームは古沢さんからの提案だった。
社会のルールやモラルを吹き飛ばす作品に
以前から「詐欺師の物語を書いてみたい」という思いが古沢さんにはあった。ドラマ『コンフィデンスマンJP』でも描かれている、“詐欺師が悪党からお金をだまし取る”といった痛快なストーリーは、『GREAT PRETENDER』の脚本をつくり上げていく際に生まれた設定だ。このような設定を生み出した背景には、いまの世の中に対する古沢さんなりの思いが反映されている。
「いまの世の中は、ルールやモラルに厳しすぎる。だから、フィクションの世界くらい、ルールやモラルを吹き飛ばしてくれる人たちを書きたいと思いました」
「いろいろな人がいていい、いろいろな価値観があっていい。いっときの快楽のために築き上げてきたものを失う人がいたとして、それを馬鹿だと言う人がいます。でも、築き上げてきたものより、いっときの快楽の方が大事だと思っているから、その人はそういった行動を取るわけで。世間からどう見られているかは関係なく、自分の価値観で生きている人に、僕は魅力を感じるんです」
『GREAT PRETENDER』に登場するキャラクターは、世間一般的に見て社会から逸脱している人(コンフィデンスマン)たちだ。しかし、なぜか共感してしまう部分や憎めない魅力を持っている。たとえば、主人公の枝村真人(通称・エダマメ)は、人をだます才能があるものの、お人よしな一面がある。逸脱している側面だけでなく、ルールやモラルに従っている側面が描かれているのだ。この矛盾こそが、共感してしまうポイントではないだろうか。
「調子に乗りやすくて、だまされやすい詐欺師ってかわいいかなと考えて、エダマメの設定をつくりましたね。詐欺師だからといって、嫌われないような、愛してもらえるキャラクターにすることは一番意識していました」
本作では4人のキャラクター(エダマメ、ローラン・ティエリー、アビゲイル・ジョーンズ、ポーラ・ディキンス)が主人公だ。国籍・生い立ちがバラバラな4人を物語の軸に置き、数話ごとに一人ひとりのドラマを深く掘り下げていく構成になっている。これは、世界中の視聴者に向けた古沢さんの“とある”思いからだった。
「世界中の人たちが自分に近いキャラクターを見つけて、『自分の代表はこいつだ』となってほしかったんです」
本作の脚本では、「ストーリーやキャラクターの人間ドラマから視聴者を感動させること」を意識している様子がうかがえた。
アニメの脚本は、自由度が高いからこそ難しい
同時に「コン・ゲームのギミック(仕掛け)から鮮やかに視聴者をだますこと」も意識されている。ギミックは、映画『スティング』を教科書として下敷きするほか、多くの作品を見て学び、生かしているそうだ。とはいえ、ギミックづくりは苦労するポイントだという。
「こうすれば思いつく、上手に書けるとかはなくて。ただ頑張っているとしか言いようがないです(笑)。毎回たくさん考えて、書いて、没にして、直して……そうやって作業しています。でも、最初はすごいものを!と目指していたはずなのに、脚本を書いている途中で、この程度のものになってしまったと毎回思う。制作者の方たちに脚本を見せるときはいつも、これが限界です……となっています」
さらに、古沢さんにとってオリジナルアニメの脚本は本作が初だ。アニメは、ロケの制約がないなど表現の自由度が高い分、難しさもあった。
「アニメならどこまで成立するのだろう?と、自分の中で判断がつかない部分が多くて。そこは、監督の鏑木(ひろ)さんと都度意見を交換して直してを繰り返していきました。監督も細かいアイデアを出してくださったので、ありがたいなと」
たとえば、1話でエダマメが自分でコーヒーを入れて飲むシーンが描かれているのだが、これは「エダマメの趣味」として鏑木監督が出したアイデアだった。古沢さんは「アニメ制作の人たちはディテール好き」と語る。
「一つひとつ絵として描いていくからでしょうね。ありものを集めてくるわけではないので、どんな服を着て、どんな小物を使って……と細かく考えているし、そういう話で盛り上がっている。不思議でした。僕は何でもいいんですけど……と思っていたので(笑)」
細かいポーズやセリフが知らないうちに変更されていたこともあったそう。変更されている細かいポイントを見つける作業を「楽しんでいた」と古沢さんは語る。
完成したアニメ映像に「意外なほどイメージ通り」
実写のドラマや映画と比較し、アニメは制作時間が「より長い」と話す。
「ようやく出来上がったな、という印象でした。『GREAT PRETENDER』のプロジェクトは特別贅沢(ぜいたく)に時間を使わせてもらったとは思っています。脚本づくりもお尻をたたかれず時間をかけましたし、ある程度最後まで完成してから作画に進んでいただいて。連続ドラマだと放送中にも脚本づくりをするので、追いかけられるように書いていますからね」
古沢さんは脚本を渡した時点で「自分の仕事は終わり」と考えている。そのため、完成された映像は別の作品として見ているという。「自身の脚本が映像として出来上がったのを見て、どう思いましたか?」といった質問にはいつも悩まされるそうだが――。
「実写は演じられる俳優さんを知っているし、セットも見られるので、ある程度のイメージが湧きます。一方、アニメは作り手にすべてゆだねられるから、どんなものが出来上がってくるか想像できなかった。そしたら、意外なほどイメージ通りだったんですよ」
古沢さん曰く、実写は必ずイメージ通りにならない。なぜなら、天候やロケ地の都合などで、毎回予想外の出来事が起こるからだ。そういったハプニングが、作品を予想以上に良い方向へ導く場合もある。
「ドラマは撮影環境の変化などでイメージしていないことが表現される場合もあるけど、アニメは作り手がイメージしていないことは表現できない。逆に作り手がイメージしていれば、全て表現できてしまうんです。もちろんスタジオに力がないとできませんが、本作はそれがちゃんとできるチームでした。鏑木監督がこんなに僕とイメージを共有していたんだ……と驚いてしまいました(笑)」
『GREAT PRETENDER』は、アニメーションのクオリティーも見どころの一つ。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の貞本義行さんがキャラクターデザインを担当。やわらかさとスタイリッシュさを兼ね備えた魅力あふれるキャラクターとなっている。また、アニメ制作を担当するWIT STUDIOの描く映像の美しさも本作を魅力的に映すポイントだ。
「貞本さんは大物なので腰を低くしながら(笑)、どういったキャラクターなのかと何回かやり取りしました。出来上がったデザインを見たときはさすがだなと。カッコいいけど、親近感が持てる魅力的なキャラクターです」
「背景もすごくカッコよくて綺麗(きれい)でオシャレ。『GREAT PRETENDER』は世界の人にも楽しんでもらいたい思いがあったので、ハイセンスなイメージが必要だと自分の中で思っていました。分かってくれているなという気持ちになりましたね(笑)。さまざまな国が舞台になっているため、旅行気分を味わえるのではないでしょうか。とても気に入っています」
そんな本作について、古沢さんは「普段アニメを見ないような人にも楽しんでもらえる間口の広い作品」と語ってくれた。
「映像、キャラクター、音楽……とっても素晴らしいクオリティーになっているのは間違いないと思います。普段実写しか見ないという人たちにも楽しんでもらえるのではないでしょうか」
「狭い間口へ向けて、深く突き刺す作品に挑戦したい」
2020年7月は『GREAT PRETENDER』のテレビ放送だけでなく、劇場版『コンフィデンスマンJP』の公開も予定されている。ドラマ、映画、アニメなど枠にとらわれない古沢さんの、今後の活躍も楽しみだ。
「僕は脚本づくりにすぐ飽きてしまうんですよ。書き始める前は楽しいのに、書き始めると飽きている(笑)。そして、次は全然違うことをしたいと思ってしまう。だから、毎回全く違うテイストの作品がつくれるのだと思います」
「脚本を書いている途中で、次のアイデアが思い浮かぶ」と話す古沢さん。今後どのような脚本を届けてくれるのだろうか。
「自分のやりたいことを中心に置いて、視聴者へいかに深く突き刺さるものをつくるか、という方向に行くと思います。テレビドラマの脚本をつくっていると、不特定多数の人に不快感を与えずに見てもらえるかをすぐに考えてしまう。でも、嫌われたりそっぽ向かれたりすることを恐れてはいけないなと」
「“ヒットさせるため”の手段はどんどんどうでもよくなっていて。それより、これをつくりたい、こういうことを届けたいという作り手の熱量や思いが一番大切。『GREAT PRETENDER』はできるだけ幅広い人たちに見てもらいたいと思って書きましたけど、もしまたアニメをやる機会があれば、もっと狭い間口の人たちに向けて、深く突き刺さる作品に挑戦したい。それは実写でも同じです。本作は、そういうことを学ばせてもらえる仕事でした」
(取材・文=阿部裕華 写真=かさこ)
プロフィール
古沢良太(こさわ・りょうた)
脚本家、戯曲家、イラストレーター。デビュー作『アシ!』でテレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞受賞。『ALWAYS 三丁目の夕日』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞(監督と共同執筆)、『ゴンゾウ 伝説の刑事』で向田邦子賞、ほか受賞多数。主な作品にドラマ『相棒』『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』、映画『キサラギ』『探偵はBARにいる』ほか。『GREAT PRETENDER』はテレビアニメ初の脚本となる。
作品情報
<放送スケジュール>
【TV放送】2020年7月8日(水)~ フジテレビ「+Ultra」にて毎週水曜日24時55分から放送、ほか各局にて放送(関西テレビ/東海テレビ/テレビ西日本/北海道文化放送/BSフジ)※放送日時は変更の可能性があります。
【配信】Netflix にて好評配信中(日本先行)
<キャスト>
枝村真人(エダマメ):小林千晃
ローラン・ティエリー:諏訪部順一
アビゲイル・ジョーンズ(アビー):藤原夏海
ポーラ・ディキンス:園崎未恵
<スタッフ>
監督:鏑木ひろ
脚本・シリーズ構成:古沢良太
キャラクターデザイン:貞本義行
サブキャラクターデザイン・総作画監督:加藤寛崇
コンセプトデザイン:丹地陽子
美術監督:竹田悠介
撮影監督:出水田和人
音楽:やまだ豊
音響監督:はたしょう二
アニメーション制作:WIT STUDIO
(C)WIT STUDIO/Great Pretenders