#27 あのパーティーをもう一度。
カラッと晴れた日曜日。
こんなに気持ちがいい青空はいつぶりだろう。
太陽の光が降り注ぎ、遠くでセミの声が聞こえる。
空は高くて、ときどき気持ちのいい風が吹く。
去年と同じだけれど、違う。
長かった梅雨のせいもあるけれど、
今年の夏はとにかくなんだか、とても特別な気がする。
怒濤(どとう)のように忙しかった7月を乗り切って、
ようやくひと息つけた週末。
久しぶりに自分のために料理を作る時間がもてた。
お昼には遅いし、夕飯にはちょっと早い時間。
何を作ろうかと思ったとき、
食器棚にある小さなアルミパンと目があった。
直径15cmほどの両手パン。
以前に友人からプレゼントでもらったもので、
コンロにかけて直火で調理できるのがいい。
器としてそのままテーブルに出しても様になるので
ホームパーティーでは、これでアヒージョを作って
パンと一緒に出すのが定番だった。
思えば最近の忙しさと、まだ大勢で集まりづらい時勢もあって、
友人たちと集まって食事をする機会も減った。
アルミパンがまだ熱々のうちに食卓に運んで、
みんな我先にとパンをつかんで、オイルにディップ。
あちち、と言いながら頰張る時間が好きだったな。
そんな楽しい瞬間を思い出していたら、
なんだか急にアヒージョが食べたくなって、
冷蔵庫に中途半端に残っている食材をとりあえず出してみる。
タコ、冷凍のエビ、ミニトマト。
風味のいいオリーブオイルと少しのにんにくさえあれば
だいたいアヒージョはおいしくなる。
そのおおらかさもまた、いいんだなあ。
ひとくちサイズに切った食材をアルミパンに入れて
エクストラバージンのオリーブオイルをたっぷりと。
そのまま火にかけて、じわじわと火を入れるだけ。
にんにくの香ばしい匂いがしてきたら、できあがり。
そのままでもおいしいのだけれど、
今日は仕上げにローズマリーとタイムをのせてみる。
オイルの熱がハーブに伝わって、
爽やかな香りが部屋に満ちていく。
夏の空気にはハーブの香りがよく似合う。
次にみんなで集まるときには、
この「サマー・アヒージョ」を振る舞おうと思う。
まだまだ明るい17時。
冷やしておいた白ワインを取り出して、
グラスに注ぐ。
あちち。ひとりなのに、やっぱり声が出る。
いつもはパンをオイルに浸しながら食べるけれど
今日はパンに具材をのせてかじってみる。
おつまみとは違って、オープンサンドみたいな感じ。
この食べ方も、おいしいなあ。
ふだん大勢で食べる料理を、ひとりで食べてみる。
普通なら「寂しいなあ」と思いそうだけれど、
今日はちっとも寂しくなくて、
次に友人を招くときはあれを作ろう、これを食べよう、
楽しみな想像が膨らんでくる。
それはきっと、この清々(すがすが)しい夏空と
これまでの思い出が詰まったアルミパンのおかげ。
すぐに願いが叶(かな)わないとしても
楽しかった時間の積み重ねのなかに、希望を感じられる。
そんな風に思えるようになった自分は
なんだか少しだけ強くなった気がして、
夏を迎えるまでの日々は無駄じゃなかったと
今たしかに、そう思っている。
今日のうつわ
〈バッラリーニ〉のサービングパン
イタリアを代表する老舗クックウエアブランドのミニサービングパン。友人にプレゼントしてもらったものなのですが、その美しいたたずまい、直火にガンガンかけられるタフさ、使い勝手のよさから、手放せないアイテムのひとつになっています。高温のオーブンにも入れられるので、焼きリンゴやオーブンで仕上げるハンバーグなどにも。熱々をそのまま食卓に出せるので、ホームパーティーにもおすすめです。
(写真 相馬ミナ 構成 小林百合子)