圧倒的にバズるカピバラ動画 TikTokで世界とつながった長崎の動物園
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全国の他の動物園に先駆けて「TikTok(ティックトック)」にショートムービーを投稿し、幅広い層のファンを獲得している長崎バイオパーク(長崎県西海市)。カピバラやモルモット、アライグマなど、かわいらしい動物の日常を映した姿が、海外からも大人気です。動画の企画や撮影などを担当するバイオパーク取締役CMO(最高マーケティング責任者)神近公孝さんに、「TikTok」の導入効果や投稿のコツなどについてお聞きしました。
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長崎バイオパーク取締役CMO。1975年生まれ。2008年に入社し、飼育担当、営業などを経て、現在はマーケティング全般の責任者。広報やSNS・動画プラットフォームなどの業務を受け持ち、自らスマホで動画の撮影も行っている。
「TikTok」は2019年に個人で運用を始め、公式アカウントに昇格した。お気に入りの動物はキツネザルとナマケモノ。
「お客様の層が変わった。園内で声を掛けられることも」
――長崎バイオパークはどんな動物園ですか?
お客さまが動物の暮らす環境の中に歩いて入り、自由に動物とふれあえるスタイルの動物園です。人間も地球上の生物の一員として、どのように動物たちと共存していくかを学べる動物園を目指しており、動物たちは檻の中ではなく、自分のペースで自由に生活しています。最も人気がある動物は13頭のカピバラ。エサをあげたり、なでたりする体験ができます。
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――コロナ禍の影響は大変だったのでは?
2020年4月から5月に臨時休園をして苦しい時期もありましたが、再開後はお客さまの数も持ち直して好調です。今年は、ここ十数年でも最高のペースで入場者数が増えています。
――人気の要因の一つが、「TikTok」などによる効果です。
大学生や20代ぐらいの友達同士やカップルで来られている方が増えて、今までは家族連れの方が中心だったのに比べて、お客さまの層が変わった印象があります。今までと違う手ごたえも感じています。
動画によく登場する飼育員は、お客さまから「いつも見ています」と園内で声を掛けられたり、差し入れをいただいたりすることもあります。私は基本的に撮影役なので、画面に出る機会は少ないのですが、わかる人には私だと気付かれているようです(笑)。
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――TikTokを積極的に活用されているのは集客が目的でしょうか?
元々は集客を考えてイベント告知などを主にしていましたが、今はコミュニティを運用しているような雰囲気ですね。フォロワーなどが増えていくにつれ、お客さまとの距離が非常に近くなり、内容もだんだん変わってきています。バイオパークの「TikTok」は動物や動物園が好きな方々がコミュニケーションを取る場所になっていて、我々は運営側でもあり動物好きのメンバーの一人でもあるという感覚で参加しています。
――「TikTok」のフォロワーの方々の特徴は?
海外のフォロワーさんが非常に多いですね。英語でのコメントのやり取りが勉強になります。特に「TikTok LIVE」は今までとは違うファンの方々にも見ていただき、アクションもわかりやすい。同時接続で1万人以上集まることもあります。ライブは週1、2回の頻度で、冬の間はカピバラの露天風呂が人気なので増やしていきたいと思います。
「動物は主体的にアクションを起こしてくれない。そんなに頑張らなくてもいいんだな」
――動画の撮影や編集は、どなたが担当されていますか?
私と飼育員の春岡(俊彦さん)の2人でやっています。いろいろと撮影して面白い絵が撮れたら動画をあげるのが私で、「TikTok」のミーム(ユーザーが真似やアレンジをしながら広がっていくコンテンツ) を使って最新の流行に当てはめることが多いのが春岡。編集はそこまで必要ない場合が多く、ほとんどはスマホだけで十分です。「TikTok」の編集機能は私が使い始めた4年前から飛躍的に向上していて、音に合わせるのも簡単になっていますね。
――被写体が動物ということで気を付けている点は?
人間だったら自分でパフォーマンスや動画内容にあったアクションを起こせばいいのですけど、動物はそうしてはくれません(笑)。こちらの期待を超えて仕事をしてくれる日もあれば、全然動いてくれない日もあります。パターンに当てはまらない自然な様子を、見た方にどう楽しんでいただくか。そこを「TikTok」のスタイルに合わせていきながら考えています。
――投稿した動画で印象に残っているものをお聞かせください、
少し前だと、カピバラの毛を拾って呪文を唱えている動画が4800万回再生とバズっていますね。映画「ハリー・ポッター」シリーズに登場するヴォルデモートを真似した動画が元の音源だったのですが、カピバラだと意外にも反響が大きくて。流行っているし簡単だからと我々もやってみたものが、こんなにも楽しんでいただいているのはありがたいです。
――やはりカピバラの動画が一番人気なのでしょうか。
カバがスイカを食べる動画も非常に再生回数が多いですが、カピバラは安定して人気を集めています。バイオパークという動物園がカピバラで認知されているにしても、なぜか圧倒的ですね。カピバラも入り口の一つとして活用しながら、ファンとの信頼関係を築いたうえで、他の動物やバイオパークのさまざまな魅力をお伝えしていくことが大切だと考えています。我々の目線からすると、森の中で完全に放し飼いになっているキツネザルの映像も見せたいのですが、まずはファンの期待に応えることが大切。柔軟に考えることが必要です。
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――定番のコンテンツを続けることが大事なのですね。
カピバラがお風呂に入っているTikTok LIVEはほとんど定点の映像で、何日繰り返したとしても、視聴人数はそんなに変わらないんです。そこはやっぱり人気のものを安定してお客さまに見せることで、ファンのロイヤルティー(愛着や信頼感)が増すのだと思います。我々も、いつも新しい企画を考えないと、という気持ちでしたが、そんなに頑張らなくてもいいんだなということを学びました。
「飼育員と同じような映像が撮れ、お客さまもバズれる」
――ご自身が「TikTok」に初めて投稿されたのが40代になってからでしたが、中高年の方でも始められますか?
若者が踊っているというイメージを「TikTok」にお持ちの方も多いでしょう。私のスマホには今、そういう動画はほとんど流れてきません。私が見ているものは偏っているのかもしれませんが、法律などの専門的な分野も、メディアとして楽しめます。話の要点だけを短時間でまとめて、それが自分の趣味の傾向に合わせて流れてくるので、退屈は全然しません。
見るだけでなく動画を投稿する立場でも、中高年はブルーオーシャン(未開拓の市場)です。ご自身の人生やお仕事の経験が生かせるので、チャンスはむしろいっぱいあると思います。
――今後の「TikTok」の活用について、目標を教えてください。
コミュニティを通じて、より多くの人たちとつながることです。今までの動物園は、行った瞬間にしかお客さまの人生には存在しませんでした。常につながることができるのは、動物園の新しいあり方ではないかと考えています。さらに、お客さま自身が「TikTok」に投稿すればバズりやすいのも、バイオパークの魅力です。動物のすぐ近くに行って、飼育員が撮るのと同じような映像が撮れるわけですから。お客さまもバズれる動物園になればいいですね。
――来園者もコミュニティに参加しやすそうです。動画やライブがバズるコツは何でしょうか?
カピバラの露天風呂を撮れば、とりあえずは間違いないです。あとは動物次第で、オナラをしたりケンカをしたり、特別な瞬間が映れば面白いですよ。「TikTok」で流行っているミームなどをバイオパークにうまく当てはめれば、バズりやすいと思います。ぜひ動物たちと直接ふれあって、私たちよりも面白い動画にチャレンジしてください!
その他の長崎バイオパークさんのTikTok動画はこちら
文:北林のぶお
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