新クルーズ船「飛鳥Ⅲ」、船籍港は横浜 2025年夏就航へ
日本郵船グループ会社の郵船クルーズ株式会社と横浜市が共同記者会見を9月14日に行い、2025年夏に就航する新造クルーズ客船の名前が「飛鳥Ⅲ」に、船籍港が「横浜港」になることを発表した。
郵船クルーズ株式会社の初代客船飛鳥(1991年就航)の名前は、当時まだ日本のレジャークルーズは黎明(れいめい)期にあったことから、日本文化の黎明期に大きく花開いた「飛鳥文化」にちなんでつけられたという。続いて2006年に就航した飛鳥Ⅱは、初代飛鳥の伝統を踏襲しつつ、日本のクルーズ文化発展に寄与してきた。同社の遠藤弘之社長は「飛鳥Ⅲという命名は従来の船名の発展的継承。新しいクルーズシップという存在にとどまらず、日本を代表する客船として、人や地域をつなぎ、日本の文化を未来へとつなげる客船になるよう願いを込めた」と語った。
山中竹春・横浜市長は「横浜港は、7隻が同時着岸できる東アジアを代表するクルーズポート。飛鳥Ⅲが船籍港に選んでくれたことをうれしく思い、万全のサポートでお迎えしたい。横浜市は2027年に園芸や環境をテーマにした万博 GREEN×EXPO 2027を開催するが、日本初のLNG(液化天然ガス)クルーズ船であり、環境に配慮した飛鳥Ⅲは、そのテーマにも合致する。今後、国際的に活躍する飛鳥Ⅲが世界に横浜港の名も知らしめてくれることにも期待している」とあいさつした。
飛鳥Ⅲを建造するのはドイツのマイヤー造船所。クルーズ客船づくりにかけては、世界有数の造船所で、この10年間だけでも30隻以上の実績をもち、加えて、世界最大級の屋内ドックを持っている。8月に、マイヤー造船所のベルナルド・マイヤー会長と会う機会があったが、飛鳥Ⅲについて聞いてみると「いよいよ、日本の客船をつくる時がきた。郵船クルーズとは、とても良いパートナーシップを結べているので、日本の方々の期待に応えるような素晴らしい客船ができ上がると思っている。どうぞお楽しみに!」とのことだった。
そして9月21日、最初の鋼材を切り出すスチール・カッティングセレモニーが行われ、いよいよ実際の建造が始まった。その後、2025年早春進水、同年春ドイツから日本に回航、同年夏ごろ就航予定という計画だ。なお、現在運航中の飛鳥Ⅱは引退することなく、2隻体制での運航となる。
総トン5万2000トン 定員減り、さらにゆとりある空間
それでは、日本船籍最大の新造クルーズ客船としてデビューする飛鳥Ⅲとはどんな船なのだろうか。総トンは5万2000トン、乗客定員740人となる予定で、飛鳥Ⅱの5万444トン、872人と比べると、より大きくなるが、乗客定員は100人以上少ない。つまり、乗客にとって、今まで以上に広々とゆとりのあるクルーズが実現できる。また、15ものレストラン、カフェ、バーなどを設け、飲食も一段と多彩で豊かになる。
また、時代にあわせ、個々の乗客のプライベート感覚を重視し、知的好奇心を満たすプログラム、様々なエンターテインメント、ゴルフやヨガのプライベートレッスンなども企画。ラグジュアリーなリゾートビーチを思わせるプールサイドやプールバー、動く海景色をめでる露天風呂なども魅力的だ。さらに、これまで積み上げてきた和の心を持つ上質なおもてなしも乗客に珠玉の時間をもたらしてくれるだろう。
かつて、日本郵船の客船「照国丸」と「靖国丸」は、漆芸家で、のちに人間国宝となる松田権六氏の蒔絵(まきえ)を採用するなど、日本芸術の素晴らしさを広く世界にひろめてきた。飛鳥Ⅲでは、その弟子で人間国宝の室瀬和美氏の9メートルにも及ぶ漆芸のモニュメントをアトリウムに飾る予定だ。さらに、千住博氏、田村能里子氏をはじめ、日本を代表する作家の美術品・工芸作品を展示し、まるで動く洋上美術館で暮らすような唯一無二の船旅も楽しめるだろう。
飛鳥Ⅲの船名板の揮毫(きごう)は書家・矢萩春恵氏によるもの。文化庁長官表彰、ハーバード大学客員教授など国内外で活躍する矢萩氏の書が飛鳥Ⅲの船体を飾り、世界の海を堂々と航海する姿がみものだ。
日本のクルーズ文化、横浜から世界へ
このように、最新鋭のエコシップであり、なおかつ、文化、人、伝統をつなぎ、未来へとはばたく飛鳥Ⅲは、横浜に経済効果やにぎわいをもたらすことも期待されている。日本郵船と横浜港の絆は深く、現在も氷川丸が係留されているが、2025年の夏、新旧の客船氷川丸、飛鳥Ⅱ、飛鳥Ⅲの3隻が横浜港に並ぶ日が実現すれば、まさに、日本の客船史を次世代へとつなぐ記念すべき瞬間となるだろう。そして、ドイツ生まれで、日本船籍の客船飛鳥Ⅲは日本と世界をつなぐ架け橋となり、日本の洋上文化を国内外に伝える親善大使のようなクルーズを実現してくれるに違いない。