宇賀なつみ わたしには旅をさせよ
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佐賀の有田で運命の出会い 宇賀なつみがつづる旅(48)

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。佐賀県有田町を訪れた宇賀さんに、運命の出会いが。

「流れに身をまかせて 有田」

ようやく秋らしくなってきた。

どんなに夏が好きでも、今年の暑さには参った。
少しずつ風が冷たくなってくると、なんだか安心する。
体と心には、きっと秋がちょうど良い。
毎年秋がやってくると、その心地よさに感動してしまう。

大阪での生放送を終えて、新幹線で博多に移動した。
待ち合わせは夜、川沿いのレストランで。
それぞれのタイミングで九州入りして、ホテルも別々。
大人の遠足は、いつも自由で気楽だ。

外に出ると、すっかり冷え込んでいた。
それでも、川沿いのBARや中洲の屋台で飲む人は、
寒さなんて気にならないようで、楽しそうに笑っている。

前回ここを通った時は、コロナの影響でガラガラだった。
そんな記憶も、すっかり薄れてきている。
良くも悪くも、人間は忘れる生き物なのだと思った。

佐賀の有田で運命の出会い 宇賀なつみがつづる旅(48)

翌朝、車を借りて向かったのは、佐賀県有田町。
まずは鯉(こい)を食べに行った。

自然の中にたたずむ料亭。
少し早く着いたので、木漏れ日が差し込む庭を散策した。
川のせせらぎと鳥の声がBGMとなり、安らぎを与えてくれる。

案内された部屋で、鯉のあらいと握りをいただいた。
正直あまりなじみがない鯉料理だったけれど、
あっさりしていて歯ごたえがよく、とてもおいしく、
しょうゆや特製みそダレ、柚子胡椒(ゆずこしょう)を合わせて楽しんだ。

佐賀の有田で運命の出会い 宇賀なつみがつづる旅(48)

ここからがようやく本番。
せっかく有田に来たのだから、有田焼を買わずに帰るわけにはいかない。
アリタセラという、広大な敷地に陶磁器の専門店が軒を連ねる、
世界最大規模の有田焼ショッピングリゾートを訪れた。

繊細な絵付けが施された、これぞという伝統的な器から、
現代的で使いやすそうなデザインの器まで、多種多様。
有田焼は丈夫なので、食洗機も使用できるとのことで、
夢中になって選んでいたら、
いつの間にかかなりの時間が経っていた。

思っていたより大量に購入してしまった。
とても持ち帰れそうにないので、まとめて送ってもらうことにした。
最近面倒でサボりがちだったのに、
届いた器を並べるのが楽しみで、早く料理がしたくなった。

その後、町役場の人に案内してもらったのが、泉山磁石場(いずみやまじせきば)。
17世紀初頭、朝鮮人陶工の李参平らによって、
この場所で磁器の原料になる陶石が発見され、
日本初の磁器の大量生産に成功したらしい。

荒々しく岩がむき出しになっていて、大きな洞穴も残っている。
まるで海外にいるような、映画の撮影ができそうな、独特の雰囲気だった。
転がっている石を拾ってみると、中まで真っ白。
この白い石が、美しい器のもとになるのだ。

佐賀の有田で運命の出会い 宇賀なつみがつづる旅(48)

宿にチェックインしようと通りを歩いていると、
「陶祖 李参平窯」という看板を見つけた。
先ほど聞いた李参平だろうか?
中に入ってみると、十四代李参平さんが迎えてくれた。

入り口近くにあった茶わんと目が合う。
まさに、運命の出会いだった。

やわらかく優しく、どこにでもなじみそうなのに、
意志を感じられる強さもある。
これまで、これだという茶わんになかなか巡り合えなかったのは、
今日のためだったのだと思った。

これだけは、しっかり自分の手で持って帰ることにした。
支払いを済ませて店の外に出ると、晴れ晴れしい気分だった。

必死に探しているときには見つからなくても、
ふとしたときに見つかることがある。

無理に流れに逆らわず、身をまかせて漂っていれば良い。
人生は、必要なときに必要なことが起きるようにできているのだ。

翌朝はひとりだけ早く起きて、特急に乗り福岡空港へ向かった。
仕事があるのはありがたい。
きっと、いつまでも続くわけではないだろう。

だからこそ、今はこの流れに乗って、
必要としてもらえる場所で、咲いていこうと思った。

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