楽園ビーチ探訪
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ザトウクジラに出会い、ともに泳ぐ 冬の沖縄・チービシ

ブリーチング(ジャンプ)は、見てみたいアクションのナンバー1=沖縄県渡嘉敷村

ザトウクジラが日本の南の海に回遊してくる季節が到来しました! 毎年12月下旬から4月上旬、ザトウクジラたちは北方の海から長旅を経て沖縄や小笠原へ帰ってきます。今回はウォッチングではなくてスイム。沖縄本島沖のチービシ(慶伊干瀬または慶伊瀬島〈けいせしま〉)でクジラと泳いだお話です。

連載「楽園ビーチ探訪」は、リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信する筆者が訪れた、各地の美しいビーチや、海のある街や島を紹介いたします。

冬に北から帰ってくるザトウクジラ

長い胸びれで海面をたたくペックスラップ。あたりにはブローによる水煙が
長い胸びれで海面をたたくペックスラップ。あたりにはブローによる水煙が

大きいものは体長15メートル、体重25~30トンにもなるザトウクジラ。アタマのごつごつしたこぶと、体長の3分の1ほどもある長い胸ビレが特徴です。名前の由来は盲目の琵琶法師の「座頭」から。クジラが潜水する時に背中を丸める様子が琵琶法師の後ろ姿に似ていることから。あるいは琵琶法師の奏でる楽器の琵琶と体形が似ているからという説があります。ちなみに英語名は「humpback(猫背)whale(クジラ)」です。

ザトウクジラの一年のライフサイクルは、夏はアリューシャンやアラスカといった北方の豊穣(ほうじょう)の海でオキアミや小魚などをたっぷり食べて脂肪を付けます。冬になると、南下して日本の南部やハワイなど南方の海で繁殖、出産、子育てを行います。実に年間の移動距離は、数千キロにもおよぶそうです。

クジラが回遊してくるエリアではウォッチングツアーが人気です
クジラが回遊してくるエリアではウォッチングツアーが人気です

ザトウクジラが現れるエリアでは、シーズンになるとホエールウォッチングツアーがさかんに開催されます。慶良間(けらま)諸島や小笠原では、30年ほど前からホエールウォッチングに関して自主ルールを定めて、クジラたちとの共存を図っています。

人間の指紋のように、ザトウクジラは尾ビレで個体を識別します。毎年やってくる個体も。また、個体情報はネット上でシェアされることで、クジラがどの海域に出没したかなどがわかります
人間の指紋のように、ザトウクジラは尾ビレで個体を識別します。毎年やってくる個体も。また、個体情報はネット上でシェアされることで、クジラがどの海域に出没したかなどがわかります

日本では歴史浅いホエールスイム

一方、トンガのババウ島やタヒチのルルツ島ではかねて行われていたものの、日本では最近になって行われるようになったのがホエールスイム。はじまりは約10年前の鹿児島・沖永良部島(おきのえらぶじま)や奄美大島だったのではといわれています。それが6~7年前から沖縄本島でも開催されるようになりました。

私自身、過去にタヒチ島や沖永良部島でホエールスイムを体験したものの、はるか遠くでウォッチだけ、あるいは残像を拝んだだけ。そして昨年、ベストシーズンの2月中旬の沖縄・チービシへ。3度目のチャレンジです。

乗り合いボートで出港して約20分、那覇の西沖に浮かぶ無人島チービシへ。緑の小山をのせた神山島、サンゴと貝のかけらで覆われたクエフ島、白砂ビーチにガゼボが立つナガンヌ島、サンゴ礁でできた三つの島からなります。クエフ島とナガンヌ島は日帰りツアーで訪れることもできます。「チービシ」とは地元の方言の呼び名で、正式には「慶伊瀬島」、また、慶良間諸島と那覇の間に位置することから「前ケラマ」とも呼ばれているとか。

数隻のウォッチングボートが海域に
数隻のウォッチングボートが海域に

那覇・浦添沖で訪れた「出会い」

空を見上げれば、離着陸を繰り返す米軍機、船の航路を振り返れば浦添市のビル群。那覇からすぐの、こんな街の近くにクジラがやってくるのでしょうか? そんな思いを抱えながらも、船上の全員で水面に目を凝らしてクジラを探します。インストラクターも他の船と情報交換をしながら、探しています。

那覇の沖約12キロに浮かぶ、三つの島からなる無人島のチービシ
那覇の沖約12キロに浮かぶ、三つの島からなる無人島のチービシ
陸を見れば、ビル群。最初はこんな街の近くにクジラがやってくるのかと、いぶかしむけれど……
陸を見れば、ビル群。最初はこんな街の近くにクジラがやってくるのかと、いぶかしむけれど……

そして誰かの「クジラ!」の声。慌ててあたりを探すと、ザトウクジラの背中を発見。丸まった背中がゆっくりと水面から浮かびあがって沈んでいく、まるでスローモーションのように背骨のひとつひとつの動きまで見えたような気がしました。大きな背中に続いて、小さな背中も。母親と子供の2頭のようです。

指さす先にクジラの背中とブローの水しぶきが
指さす先にクジラの背中とブローの水しぶきが
母親に寄り添う小さな背中からブローが
母親に寄り添う小さな背中からブローが

「入りましょう!」いざ仲間と海中へ

それからインストラクターの指示に従い、船上の全員が素早く行動。インストラクターがクジラの様子を観察している間に、参加者たちはマスク、スノーケル、フィンを装着、船尾で合図を待ちます。そしてインストラクターの「入りましょう」の声に、船尾からそろりそろりと音を立てずに、前の人と距離を空けることなく海へ。足ヒレを動かさないように垂直に浮かび、グループが広がらないよう一カ所にまとまります。

そして足下を見ると、寄り添う母子クジラの姿が。母親のダンプカーのような巨体に圧倒されつつも、太陽光が反射する白砂の海底をゆっくりと尾ビレを動かし、悠然と泳ぐ二頭の姿は、神々しいばかり。その光景の前では、世界から音が消え、時間の速度も変わったように思えたほどです。

好奇心いっぱい、元気いっぱいの子クジラ。母はどっしりと、まるでダンプカーのよう
好奇心いっぱい、元気いっぱいの子クジラ。母はどっしりと、まるでダンプカーのよう
親子クジラが泳ぐ姿をみると、彼らが安心して過ごせる海を守らねばと、改めて思います
親子クジラが泳ぐ姿をみると、彼らが安心して過ごせる海を守らねばと、改めて思います

クジラたちが通り過ぎていったら、そのまま船に戻って小休止。今見た光景を興奮冷めやらぬままに参加者同士で口にしていると、初対面にもかかわらず、いつの間にか船の上に連帯感が生まれていました。そして船上で休んでいると、インストラクターの「準備しましょう!」の声に、ふたたび船尾へ、合図を待って海中へ。そして、感動。この日はこの一連の流れを10回以上、繰り返したと思います。

海に入って、感動して、船に上がって、を10回以上繰り返したでしょうか。帰りは誰もが充足感に満たされていました
海に入って、感動して、船に上がって、を10回以上繰り返したでしょうか。帰りは誰もが充足感に満たされていました

中でも印象的だった光景は、やんちゃ盛りな子クジラと母クジラとの親子バトル。好奇心いっぱいの子クジラは人のいる水面に近づきたい、一方、母はそれを阻止しようとあごで我が子を押さえ込みます。が、一瞬の隙をついて、子クジラはあごをすり抜けて、水面へ。母クジラの「仕方ないわね」というあきらめた気持ちが、全身からにじみ出ていました。ひょっとしたら親子関係は人間も動物も、変わりはないのかもしれません。

水面に行きたい子供と阻止したい母の攻防戦。子も母も譲りません
水面に行きたい子供と阻止したい母の攻防戦。子も母も譲りません

さて、今年はどんなクジラたちのドラマが待っているのでしょう。スイムもウォッチングも、ベストシーズンは2月中旬です。

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