宇賀なつみ わたしには旅をさせよ
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カナダの湖畔で見たオーロラと夜明け 宇賀なつみがつづる旅(54)

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。どうしてもオーロラが見たいと、宇賀さんはカナダのイエローナイフで暗い空を見つめました。

「もうひとつの世界 イエローナイフ」

飛行機を降りて外に出た。
17時を過ぎていたけれど空は明るく、想像していたほど寒くない。

よかった。これなら大丈夫そうだ。
寒さが大の苦手なのに、平均気温が氷点下の都市にやってきたのは、
どうしてもオーロラを見たかったから。
カナダのイエローナイフは、4月の晴天率が高く、
3泊すれば99%見られると聞いたからだった。

「やっと春がきたよ!」
タクシーの運転手は、うれしそうに話していた。
まだあたり一面雪景色なのに、
氷点下を抜け出せば、もう春なのだという。

宿泊先は、湖畔のB&Bを選んだ。
何も予定を立てずにのんびりと過ごしながら、
現れるかわからないオーロラを待つことにした。

カナダの湖畔で見たオーロラと夜明け 宇賀なつみがつづる旅(54)

斜めに沈んでいく太陽を眺めながら、
スーパーで買い込んできた食材をつまんで、ワインを飲んだ。
ようやく暗くなってきたのは、22時頃。
本を読みながら空を見上げて、その時を待つ。

なかなか変化のない暗い空。
やはり簡単に見られるものではないのだろう。
そう諦めかけていた時、一筋の白い線が見えた。

もしかして!
急いでニットとダウンを着込んで、湖の方へ下りていく。
木々の間を抜けて見上げると、
大きな空に、ゆらゆらと巨大な光が浮かんでいた。

カナダの湖畔で見たオーロラと夜明け 宇賀なつみがつづる旅(54)

驚いたのは、次々に形が変わっていくこと。
カメラのシャッターを押して、また見上げると、
さっきとは違っている。
生き物のように、動き続けるのだ。

そのまま湖の上に寝そべった。
いつの間にか、視界に収まりきらないくらい、
緑の線がゆらめいている。
いきなり渦をまき出したと思ったら、ピンクの光も見えた。

「すごい! すごい!」
興奮して、何度も叫んだ。

30分ほど経った頃だろうか。
少しずつ線が薄く短くなり、ある時すっと消えてしまった。
部屋に戻って時計をみると、2時になっていた。

翌朝、目が覚めると12時を過ぎていた。
もちろん時差の関係もあるだろうけど、
こんなにぐっすり眠ったのは、久しぶりだった。

ゆっくりシャワーを浴びて、気がついた。
何もすることがない。
オーロラを見にきただけなので、昼間の予定がないのだ。

とりあえず散歩をしてみることにした。
できるだけたくさん着込んで、
ダウンタウンまで30分ほど歩き、カフェに入った。

観光客もいるけれど、地元の人が多いようだった。
パーカー1枚の人や、Tシャツ姿の人もいる。
新聞を読んだり、パソコンで仕事をしたり、熱心に話し込んだり……。
誰かが入ってくると、皆が順番にあいさつを交わす。
そんな様子を眺めながら、
1杯のコーヒーで、2時間以上ぼんやりしていた。

そろそろ戻ろうと歩いていると、今度はビアバーを見つけた。
扉を開けると、大にぎわい。
先ほどと同じように、皆が仲間のように見えた。
私のような観光客にも、当たり前のように声をかけてくれる。
ビールを飲みながらチキンとポテトをつまんで、
こちらでも、ただぼんやり過ごした。

19時を過ぎて日が傾いて来たので店を出ると、
遠くに、湖の上で犬の散歩をしている人が見えた。
そうだ、私も湖を歩いて帰ろう。

カナダの湖畔で見たオーロラと夜明け 宇賀なつみがつづる旅(54)

湖の上を歩いたのは初めてだった。
凍った湖の上にさらに雪が積もり、
その上を人が歩いたり、スノーモービルが通ったりすることで、
固まって歩きやすくなっていた。

途中で、スケート靴を持った女性たちとすれ違った。
これから湖の奥に滑りにいくのだという。
何もすることがないのは私だけで、
この場所に生まれ育った人は、何をするべきか知っているのだと思った。

その日の夜は、1時頃に少しだけ見えた。
そして、最後の夜は、全く見えなかった。
でも、一晩中待ち続けたおかげで、朝を迎えることができた。

カナダの湖畔で見たオーロラと夜明け 宇賀なつみがつづる旅(54)

息をするのも忘れるほど、美しい景色だった。
風も動かない、音のない世界で、太陽だけが確かに動いていた。

私たちは、どうして生まれてきたのだろう?
何のために生きていくのだろう?
もしかしたら、難しく考え過ぎているのかもしれない。

この地球という星に暮らしているのなら、
本当は誰しもが、何をするべきか知っているのかもしれない。

悩んだり迷ったりした時には、この朝を思い出そう。

カレンダーや時計に刻まれた日常とは全く違う、
もうひとつの世界を、初めて知った。

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