大人の余裕で過ごす、オリンピック直前のパリ 人々を魅了し続ける理由 宇賀なつみがつづる旅(57)
フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。15年ぶりに訪れたパリはオリンピック直前。宇賀さんの事前の心配や、かつての記憶とも少し違ったそうです。
「軽やかに楽しく パリ」
またひとつ歳を重ねた。
毎年誕生日が来るなんて当たり前のことだし、
もうお祝いしてもらうような年齢ではないのかもしれない。
でも今年は、たくさんの人に、そして自分でも祝うことができた気がする。
オリンピック開幕直前のパリ。
道路は渋滞しているし、治安も悪化していると聞いていた。
それでも、どうしても行きたくなった。
社会人になって初めての夏休みに訪れて以来、15年ぶり。
どうしてかわからないけれど、今こそパリだと思った。
夜明けとともに着陸して外に出ると、空気がひんやり冷たかった。
まだ人はほとんどいない。
タクシーの窓を流れていく街並みが、すでに美しくて見惚(みほ)れてしまう。
15年前は、ルーヴル美術館や凱旋門、ヴェルサイユ宮殿など、
有名な観光地ばかりを巡った。
今回は、予定が何もない。
ひとまずホテルに荷物を置き、近くのカフェでコーヒーを飲んだ。
若い頃だったら、1分1秒を無駄にしたくなくて、
すぐにどこかへ出かけていただろう。
大人になると、余裕ができるのだろうか。
単純に、体力が落ちているだけなのかもしれないけれど、
焦ったり急いだりすることが減った気がする。
そう考えると、歳を重ねるのも悪くないなと思う。
しばらく散歩をしてみることにした。
パレ・ロワイヤル庭園を抜けて、国立図書館に入る。
学生たちが勉強をしている間を静かに通り抜けて、
奥のソファでしばらくぼんやりしていた。
私のような外国人でも、地元の人たちの空間にふらっと入れる気軽さが面白い。
外に出ると、急に足元が気になった。
まだ紙タバコを吸う人が多く、そこら中に吸い殻が落ちている。
それもまた味というか、不快な訳ではなく、
そういうものなのだとすんなり受け入れることができた。
そのまま気になる方へ歩いていたら、いつの間にかマレ地区に入っていた。
若者が多いエリアで活気がある。
写真を撮ろうとスマホを向けると、道ゆく人が手を振って応えてくれた。
どの店に入っても、笑顔で出迎えてくれて、最初から英語で話してくれる。
15年前に、こんなことがあっただろうか?
たった1週間の滞在で偉そうなことは言えないが、
パリの人達は、もう少しクールだったような気がする。
次の日も、その次の日も、思いのままに過ごした。
シャンパーニュに日帰りしたり、
小さな美術館巡りをしたり、
日本人シェフのフレンチを堪能したり、
やりたいことがどんどん増えて、忙しかった。
夕方を除いて、渋滞が酷いということもなかったし、
特に危ない目に遭うこともなかった。
地下鉄で迷っていると「どうしたんだ?」と4人ほど集まってきて、
行き先を教えてくれたくらいだった。
実際に行かないで、あれこれ心配しているのは勿体無い。
世界中どこにでも、優しい人がいて、怖い人もいるということだろう。
最終日には、街を見下ろせるレストランへ行った。
昼と夜の間の一番好きな時間、いわゆる「マジックアワー」を、
ゆっくり堪能したかったのだ。
青い空が少しずつピンクに染まっていく。
その色がセーヌ川に反射して、街全体がピンクのベールに包まれているようだった。
太陽が沈みはじめると、その光はオレンジに変わり、
やがて柔らかい闇へと姿を変えていった。
すぐ横でカクテルを飲んでいるカップルは、会話に夢中で、空など見ていなかった。
きっと二人にとっては、当たり前の景色なのだろう。
そのすぐ後ろでは、ピンクの鮮やかなワンピースを着たご婦人が、
ひとりでワインを飲みながら食事をしていた。
全員が、幸せそうに見えた。
パリの人達は、老若男女、皆がおしゃれだった。
流行を追うのではなく、周りを気にすることもなく、
自分のスタイルを楽しむことこそが、本当のおしゃれなのだと教えてくれた。
私はどうなのだろう?
自由を謳歌しているように見えるかもしれないけれど、
まだまだ本物ではない気がした。
やっぱり、パリは素晴らしい。
世界中の人たちを魅了し続ける理由が、やっとわかった。
次に訪れるときには、もっとおしゃれでいたい。
白髪になっても、ひとりでワインを飲みにきたい。
そのためにも、本当に大切なこと以外気にせずに、
軽やかに楽しく、生きていこうと思った。
いつも楽しく読ませています 今回もとっても良い旅のようですね パリは行った事がありません 一度行ってみたいです
いま世界中の注目が集まっているパリ。宇賀さんのエッセイを読んでいると、この美しい街並みは、大人の余裕が作り出しているのかも。なんて気持ちになりました。国立図書館のスケールにも圧倒されますね。今月も素敵な旅をありがとうございました。
私も2011年にパリに行って以来足を運んでいないのですが、宇賀さんの15年ぶりにはまだ至っていないので安心しました・・・。勝手に変わってしまったパリを見るのが嫌だから・・と遠巻きにしていたのですが、宇賀さんのエッセイを読んで少し前向きになって来ました。背中を押していただきありがとうございます!!