宇賀なつみ わたしには旅をさせよ
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富良野の森に迷い込んで見つけた楽園 宇賀なつみがつづる旅(58)

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。今回の旅は北海道の富良野。旅の前に、富良野を舞台にしたドラマ「北の国から」シリーズを全話視聴したそうです。

「ゆっくり時を刻む 富良野」

旭川空港に着いてすぐに、タクシーに乗った。

窓を開けると、心地よい風が流れてくる。
大雪山系をぼんやり眺めながら、大きく深呼吸をした。

ラベンダーの季節に訪れたときには、
たくさんの車が走っていたような気がするけれど、
この時期、一本道はほぼ貸し切り状態だった。

ホテルにチェックインする前に、
富良野駅近くの回転寿司に寄った。
まだ17時前だというのに、すでに地元客で賑わっている。

まずは、今が旬だという生サンマや活ホタテ。
ホッキのひも、特選カキ、トロタク巻きも外せない。
一気に頼みすぎてしまって、30分も経つとおなかが満たされてきた。

隣は家族連れだった。
まだ小学校に入る前であろう女の子が、
父親が食べている数の子に興味を持ったようで、
一口欲しいとせがんでいた。
大人が思っているよりも、彼女は大人なのかもしれない。

最後に富良野産のメロンもいただいて、外に出た。
いつの間にか雨が降り出していた。

新富良野プリンスホテルまでは、そこから10分もかからなかった。
部屋に荷物を置いて、急いで「富良野・ドラマ館」へ向かう。

実は、今回富良野を訪れるにあたって、
1981年から放送されたドラマシリーズ「北の国から」を、全話観た。
なんとなくストーリーは知っていたものの、
続けて全て観てたのは初めてだった。

自然の中で生きるという豊かさと厳しさ。
家族や友人、地域の人たちとの深い絆。

夢中になって観ていると、いつの間にか心が洗われている。
東京で生まれ育った私が、人間としてやり損ねてきたことを、
埋めてくれるようなドラマだと思った。

そんなドラマ作品のオリジナル商品を販売しているということで、
「ドラマ館」に行ってみたかったのだ。

かの有名な主題歌が流れる店内で、
倉本聰先生の本や画集、はがきなどを選び、
満足して外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。

すぐそこに、森の中へ入っていく道があった。
せっかくだから、少し散歩をしてみよう。
そんな軽い気持ちで10メートルほど進んだら、
すっかり森に包まれてしまった。

夜の森。道の先に光が見える写真

木々が揺れ、川の水が流れる音。
雨水がたっぷり染み込んだ土の匂い。
久しぶりに思い出したような気がした。

カサカサと、すぐ近くで何かが動いた。
少し怖くなったけれど、まだ戻る気にはならない。
そのまま奥に進んでいくと、看板を見つけた。
どうやらバーがあるらしい。

5分ほど歩いて辿り着いたのは、重厚な石積みの建物だった。
扉を開け中に入ってみると、薄暗く大人な雰囲気。
一枚板のカウンター席に座ると、目の前にはライトアップされた森が広がり、
まるで巨大な絵画のようだった。

バー内部の写真。大きな窓の外に森が見える

雨のせいなのか、他にお客さんはいなかった。
そのおかげで、バーテンダーとたくさん話をすることができた。

この辺りでもキツネが見られるということ。
冬にはスキー客があふれ、そのほとんどが外国人だということ。
富良野の地価が上がってきていること。
そして、このバーは倉本先生がプロデュースしたということ。

うっかり迷い込んだ森の中に楽園を見つけた気分で、
ついつい長居をしてしまった。

何杯目だろうか、最後にオリジナルカクテルをいただき、
ホテルまで戻ると、まだ22時になっていなかった。
日付が変わっていてもおかしくないと思ったのに…。

「森の時計は ゆっくり時を刻む」

先ほど店内で見つけた、倉本先生の言葉。
まさにその通りだった。

翌朝、早く起きてもう一度同じ道を歩いた。
木漏れ日が優しく降り注いでいて、
音も匂いも、昨夜とは随分違っていた。

またすぐに東京に戻らなければいけない。
今まで当たり前だと思っていたけれど、
もしかしたら、私の時計は狂っているのかもしれない。

考えてみれば、生きるために必要なものは全て森の中にある。
いつかまた、この森に戻ってこよう。
北の国は、いつまでも待っていてくれるような気がする。

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