まるでお店のような家。51㎡のコンパクトなスペースがおもてなしの空間に〈266〉

Mさんご夫婦(夫・妻50代、長男20歳)
東京都新宿区 / 築56年/51.10㎡ / 総工費約1850万円(税込み)
◇
東京・神楽坂に近いコンパクトなマンションをリノベーションしたMさんご夫婦。前に住んでいたマンションは設備や間取りが使いにくかったので、息子さんの大学入学を機に住み替えることにしました。
神楽坂はおいしいお店が集まっている場所。お店に行くことを楽しみにこの街に住む人も多いのですが、Mさんご夫婦はそんな街に割烹料理屋さんを作ってしまいました。まるでお店のような家、それが今回のコンセプトです。人を招くこと、そして、料理や食べることが大好きなお二人だからこその、思い切ったリノベーション。一般的な住宅の常識は一旦取り払い、Mさんご夫婦らしい家にするためのプランを考えました。

家のメインは、大きなカウンターテーブルがあるキッチンです。玄関を入って暖簾(のれん)をくぐると、明るいキッチンが出迎えてくれます。キッチンの入り口に洗面台があり、お客さまがすぐに手が洗えるような動線になっています。

シンクを囲むようにカウンターテーブルが配置され、ホストとおしゃべりをしながら食事ができる、本当の割烹料理屋さんのよう。背面の棚は食器や調理器具を飾りながら収納し、インテリアとしての役割も果たしています。
家の中でキッチン以外の場所は、必要最小限にしました。寝室は造作ベッドとカーテンで仕切ったシンプルなクローゼットだけのスペースに。リビングはラウンジと称し、カウンターで食事をしたお客さまが移動し、コーヒーなどを飲んだりできる場所も兼ねています。

こんなふうに、おもてなしの空間にしたMさん宅ですが、実は広さは51㎡しかありません。お客さまも住んでいる人も狭さを感じないような、設計上の工夫を施しています。まずは、コンパクトなお宅には珍しく、廊下を作りました。通常は、廊下をなくして居住エリアを広くしますが、逆の発想です。廊下を通って寝室にたどり着くと、遠回りをした感覚になり、家が広く感じられます。ただの通路ではなく、机と椅子を置いたり本棚を設置したりし、寄り道ができるシーンを作ってさらに距離が長く感じるようにしました。

それから、キッチンのカウンターテーブルはよく見ると、天板が斜めにカットされています。カウンターにガスレンジと洗面台を対面に設置したかったので、その部分はどうしても大きく取る必要がありましたが、カウンター全体をそのサイズにすると圧迫感に。そこで、カウンターのサイズを少しずつ小さくするために斜めに。圧迫感をなくして床面積を広くしました。お客さまにとっても、足元が広くなってゆったりできます。
住む人の「こんなふうに暮らしたい」をかなえるのが、リノベーションです。住宅はこうあるべきだという常識を取り払うと、アイデアが生まれます。51㎡というコンパクトなスペースが、大きなカウンターテーブルがあるおもてなしの空間になりました。
間取りとリノベーションの写真(写真をクリックすると、次々とご覧いただけます)
Mさんご夫婦に聞く
リノベーションQ&A
Q1 リノベーションでこだわったことは?
スキーが趣味で、住み込みで働いていたこともあり、大人数の料理を作るのは慣れていました。それまでも知人を招く機会は多かったのですが、以前のマンションは招きたくなるような空間ではなかったです。だから、今回は人を招きたくなるような家にしたかった。今では、多いときで12~13人来ることがあります。近隣に飲食店が多いのですが、家飯が増えました。
家具がなくても住めるような家にしたかったので、造作の棚を活用できる間取りを希望しました。

Q2 リノベーションのプロセスで楽しかったことは?
リノベーションのプランを、夫婦で色々考えながら決めていくのは楽しかったです。古いマンションなので、スケルトンにしないとわからないこと(天井から不要な配管が出てきたなど)がありました。それも、古い建物だからこその面白さかなと考え、楽しみました。
Q3 想像していた以上のことはありましたか?
上の階の配管が天井に突き出していて、壁の位置を変更することになりました。壁を斜めにするというプランをブルースタジオさんから提案されたときは驚きましたが、今はとても気に入っています。
キッチンのカウンターテーブルの色は「緑がいいかな」と思っていましたが、黄色を提案されました。思い切って黄色にしたら、キッチンが明るい印象になりました。
構成・大橋史子
