孫が語る「あおくんときいろちゃん」秘話 「レオ・レオーニと仲間たち」
教科書に登場する小さなさかなの話「スイミー」で知られるレオ・レオーニ(1910~99)。たくさんの絵本を残し、世界約30カ国で出版されています。最初の絵本「あおくんときいろちゃん」を制作したのは49歳の時でした。電車の中で孫たちに話しながら即興的に生まれた物語です。東京の板橋区立美術館で開催中の展覧会「レオ・レオーニと仲間たち」のために来日した孫のアニー・レオーニさんに誕生秘話や、レオの作品の魅力を聞きました。
即興で創作 絵本に込めたメッセージ
この絵本は、主人公が青と黄色のボサボサの輪郭の丸い形というちょっと風変わりな話です。友達もいろいろな色の丸い形です。あおくんときいろちゃんの2人は遊んでいるうちに、重なり合って緑色になってしまうという物語です。
レオは、2歳ぐらいだったアニーさんと5歳の兄の2人の孫を連れて電車に乗っていました。2人を退屈させないように、持っていた雑誌のページを切り取って、ちぎって丸い形を作り、即興で物語を語りました。レオは帰宅後、作業机にちぎった丸い主人公たちを並べ、孫たちとダミー本を作りました。翌日、夕食に招かれた児童書の編集者が、このダミー本を見て気に入り、絵本の出版にこぎ着けたそうです。
大人になってアニーさんは、この絵本に込められたレオの思いに気がつきます。ユダヤ系のレオは第2次世界大戦前に、ユダヤ人排斥の人種法が制定されたイタリアから米国に亡命。アートディレクターとして成功します。
58年にベルギーで開催されたブリュッセル万国博覧会では、米国の特設パビリオンのアートディレクターを務めました。冷戦下、「未完成の仕事」をテーマにして、環境破壊や人種差別など、米国の抱える諸問題や解決策を取り上げる企画に携わりました。パビリオンには、肌の色が違う7人の子どもたちが手をつなぎ、輪になって遊ぶ様子を撮った大きな写真を展示しましたが、南部の議員から人種の違う子どもたちが一緒に遊ぶ様子に異議が唱えられ、この展示全体は最終的にまったく別のものに差し替えられてしまいました。
アニーさんは、「あおくんときいろちゃん」の中にあるいろいろな色の7つの「まる」たちが輪になって遊ぶ場面と、差し替えられた7人の子どもたちが輪になって遊ぶ写真との関連性を指摘します。「私たちは、一人一人違う人間たちで共同体を作っています。違う人たちを理解し、受け入れようというメッセージが絵本に込められていると思います。レオは、パビリオンで果たせなかった『未完成の仕事』を絵本で取り組んだのではないでしょうか」と話します。
アニーさんによると、「あおくんときいろちゃん」など、レオの絵本は、学校や図書館で並べてはいけない本のリストに入れられるなど、かつて欧米の都市や州で「禁書」になったこともあったそうです。
展覧会場に来ていた米国の児童書歴史研究家のレナード・マーカスさんは「抽象的な形を絵本の主人公にした画期的な本。レオは、枠にはまらず、何にもとらわれない自由な見方で物語を生み出す才能にあふれていました。この本は、当時の米国の状況からすると、異なる人種の人たちの友情をテーマにしていると解釈できますが、時代や経験を超えて、読む人によって様々な解釈をすることができます」と話します。
アニーさんが生まれた時、レオは46歳の若いおじいちゃんでした。週末には家族で祖父母の家を訪ねるなど交流を続けていましたが、5歳になる前に祖父母は米国からイタリアに移住しました。「夏はイタリアに行き、アトリエで一緒に過ごしたり、ドライブに連れて行ってもらったりしました。おじいちゃんは海岸で完璧な丸い形の小石を探すのに夢中でしたね」。10歳の誕生日には、絵本に登場するネズミのフレデリックのコラージュで誕生日カードを作ってくれました。アニーさんが大人になってからも、刊行前の絵本を「できたよー」とうれしそうに見せてくれることもありました。
みんな違う、だから世の中は面白い
本展では、多様性を認め合う社会を願ったレオの思いが込められた作品や、影響を与え合ったアーティストたちとの交流を知ることができます。実在と想像上の人物が入り交じった「想像肖像」シリーズでは、年代や性別、髪の色も異なる様々な人たちが描かれ、立体作品の「プロフィール」シリーズでも肌や目、髪の色が違ういろいろな人たちの横顔が並びます。
絵本にも様々な個性を持った動物たちが多彩に登場します。いろんな色があるからこそ、世の中は面白い! そんなことを教えてくれるレオの作品です。アニーさんは「レオの作品は、50年後の子どもたちもきっと喜んでくれるでしょう。国も世代も年代も超えて楽しめるのが魅力です。絵本には、ネズミや鳥、ウサギなどいろんな動物たちが出てきますが、それぞれの主人公がレオだと思うんです」。
◆写真はいずれも東京都板橋区の板橋区立美術館で山根由起子撮影。
- 会場:板橋区立美術館(東京都板橋区)
- 主催:板橋区立美術館、朝日新聞社
- 会期:開催中~2025年1月13日(月・祝)
- 開館時間:午前9時30分~午後5時 ※入館は午後4時30分まで
- 休館日:月曜日、12月29日(日)~1月3日(金) ※ただし、1月13日は開館
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観覧料:一般650円、大学・高校生450円、小・中学生200円
※土曜日は小中高校生は無料で観覧できます
※65歳以上・障がい者割引あり(要証明書)
◆展示作品、会期、展示期間、開館日、入館方法等については、変更する場合がありますので、最新情報は公式サイトなどでご確認ください。
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