面倒を見てくれた大阪のアニキに 楽しかった思い出を振り返り感謝を

フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
中島隆さん(仮名)59歳
会社員
大阪府在住
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私が地方の大学を卒業して大阪の会社に就職したとき、その会社の社員寮で出会ったのが私より3歳年上で地元関西出身のSさんでした。
田舎からぽっと出てきた私がよっぽど頼りなかったのか、会社でも寮でも何かと面倒を見てくれました。当時の社員寮は、寮対抗の社内運動会に備えて、朝練や夜錬を強いられるような男くさい4人部屋。そんな体育会系の環境のなかで苦楽を共にするうちに、私にとってSさんは関西弁を駆使する、頼りになる大阪のアニキになっていきました。
またSさんはスキーが得意で、まるっきり初心者の私をスキーに誘ってリフトの乗り方から教えてくれて、関西から行きやすかった白馬の八方や栂池などにもよく一緒にでかけました。学生時代はハンドボール選手だったというSさんはがっちりした体格で、ゲレンデを真っ白いスキーウエアに身を包んだSさんが、雪煙を上げて豪快に滑り降りてきたカッコいい姿が忘れられません。
なかでも、遠方のためお金を貯めてみんなで行った志賀高原のスキー場には、Sさんは新婚の奥さまを同伴。初めてのコースを思う存分滑って、最高のスキー旅行だったことを覚えています。
そんな日々から時は流れ、社内でSさんが早期退職されたと聞いたのは3年前のことです。久しぶりに連絡を取ったところ、ご家族から体調を崩してリハビリ中とうかがい、話をするのはむずかしいけれど、手紙やメールは読めると聞いて、ときどきお便りをするようになりました。ところがしばらくして奥さまから、急に容体が悪化して亡くなられたとお電話があり、呆然となりました。
あの頃は、みんな若くて元気で。今振り返ると思い浮かぶのは、楽しかった思い出ばかりです。お互いすっかり歳を取った今だからこそ、あの頃のことやこれからのことをもっと話したかった。感謝の気持ちをきちんと言葉で伝えたかったのに、私がグズグズしている間にそれも叶わぬこととなりました。
大阪のアニキに、東さんのお花に添えてあらためてこの気持ちを伝えたい。そんな思いから応募しました。

花束をつくった東さんのコメント
職場の先輩へ、スキーの思い出をイメージした白のアレンジメントです。
お花のイメージは、スキーのときのエピソードから。Sさんがパウダースノーを舞いあがらせながら、豪快にスキーを滑り降りたイメージでお作りしました。一番上に使ったお花はダリア。そのなかでも、“雪音”という品種を選んでいます。ピンポンマムは雪だるまに見たてて。足元には、香りもいいローズマリーを入れました。
いつか昔話をしようと思っていたのに、とうとう話せなかった……そんな投稿者さまの思いが、胸に迫りました。花を贈る人生の時間は、思ったより長くないのかもしれません。




文:福光恵
写真:椎木俊介
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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