これがジャガー? 「タイプ00」は大変革期を見据えたマニフェスト

英国の高級車ブランドといえばジャガー。かつて8気筒や12気筒で知られたが、まもなくピュアEV専門のブランドに生まれ変わろうとしている。その象徴的な意味をこめて「タイプ00(ゼロゼロ)」が発表された。
あのシンボルは一体どこへ
私も立ち会った、2024年11月の英国ゲイドン(イングランドのストラトフォード・アポン・エイボン地区)にあるジャガーブランドのエンジニアリングセンターでのお披露目。驚いた。これがジャガー、ですか。
全長が5mを超える2ドアの2人乗りボディ。23インチの大径ロードホイールと組み合わされたタイヤが車体四隅に張り出すように配されている。キャビンはだいぶ後ろに位置する、ファストバックスタイルだ。

そこには、大きなラジエターグリルがない。かつ、ジャガーのシンボルだったリーパー(とびかかる姿勢のジャガー)が見当たらない。従来、グリルがあったところには、細いスリットが並んだ長方形のパネル。それがリアにもある。ルーフにも細いスリット。ずいぶんグラフィカルな表現だ。
しかも、ジャガーの文字まで新しいデザインになった。現場にいた担当デザイナーに聞いたところ「イグジューベラント(exuberant)」と名付けた独自フォントなんだそうだ。そして、リーパーがいました。車体側面に小さく、平たく。二次元的な表現にしたのは、スマートメディアなどで使うことを前提にしたためという。

いま、ジャガーは大変革期にある。従来のモデルをほとんど製造中止にして、2026年にピュアEVを発売し、そこから高級EVメーカーへのステップアップをするんだそう。ブランドデザインダイレクターのリチャード・スティーブンス氏によると、興味ぶかいことに「ベントレーの少し下を狙っている」のだとか。

最初に発売するのは4ドアといわれている。そのあと、いくつものモデルを発表するなかに、2ドアクーペも含まれているそうだ。ただし、とスティーブンス氏は言う。
「今回見せたのは、デザインビジョンといって、いってみれば、ピュアEVメーカーへと変身する私たちの”物理的マニフェスト”。タイプ00とは、ゼロエミッション(温室効果ガスなどの排出量ゼロ)と、ブランドがリセットする(ゼロからの再スタート)意味を込めてのものです」
ジャガーのチーフクリエイティブオフィサーを務めるジェリー・マガバーン氏は、今回のデザインの意味を語る。
「“なににも似ていないものを作る(Copy Nothing)”という創始者、サー・ウィリアム・ライオンズの言葉をモットーに、今回のタイプ00をデザインしました」
「市場の予想を裏切る」大胆な製品戦略
ジャガーは市場の期待を裏切るのが大得意です、と言うのはスティーブンス氏。例として、1961年のスポーツカー、Eタイプをあげる。当時、誰も想像もしていなかったデザインと性能で、一大センセーションを巻き起こしたモデルだ。
「私たちは少量生産メーカーです。市場での認知度を上げるには、大胆な製品戦略が必要なのです。他のブランドとは明らかに一線を画す製品を出す必要があると思ってやっています」

ジャガーは今回のタイプ00を、12月初旬に米国で開催された「マイアミ・アートウィーク2024」で一般公開。ここでセンセーションを巻き起こして、ジャガーが変わった、と話題を提供できれば、それで目的を達成できるという考えだろう。
米テスラが販売している「サイバートラック」は平面ステンレススティールをぱたぱたと組み立てた形状だし、いまデザインの世界は、昔からの審美観から離れて、大きな変革が起きているのかもしれない。
実際に、ジャガータイプ00がどんなかたちで販売されるかは不明だけれど、ジャガーファンとしては、おおいに気になる。少なくとも、今回の“マニフェスト”はたいへんおもしろい。

写真=JAGUAR
