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バラ育種家・木村卓功さんが語る「次世代のバラ」(後編)

「次世代のバラ」を世に出す育種家・木村卓功さん

秋のバラは、日ごとに涼しくなる気候の中でゆっくりと花が咲くために花もちもよく、色合いが鮮明で大輪の花を咲かせるのが魅力です。埼玉県杉戸町のバラ専門店「バラの家」を経営し、育種家でもある木村卓功さん(51)が世に出すバラは、バラ愛好家らの庭先などで元気に咲いています。高温多湿の気候でも良く育ち、四季咲き性で美しく豊かな香りを持つ上に耐病性も備えるという「次世代のバラ」です。美しさと強さを兼ね備え、誰もが楽しめるバラを追求し続ける木村さんに、バラとの出会いから育種の仕事、そしてバラへの思いなどを語ってもらいました。 〈前編はこちらから

年間10万粒以上の交配した種をまく

2023年は11品種、2024年は16品種の新品種を発表しました。毎年、普通の育種家と比べて数倍ぐらいの新品種を発表できているのは、分母が全然違うからです。他の育種家は多くても2、3万粒、または数千粒で育種されている方もいますが、私は年間10万粒以上の交配した種をまいています。ヨーロッパは育種が盛んですが、日本の環境にも合うのは少ないので、発表そのものも少ないです。

バラ育種家・木村卓功さんが語る「次世代のバラ」(後編)
2024年秋の新品種。左上から、パルミラ、サシェ、葵の上。左下から、風姿花伝 山吹、ムーンライトソナタ、紫の上=バラの家提供

また、何品種を発表するのかは育種家が決めることです。例えば播種(はしゅ)数が1万粒でも、10品種出してもいいわけです。でも、品種を出すということは、品種登録料がかかりますし、品種登録の書類作成も大変です。また、発表しても売れなければラベル代にもならないです。私の場合、幸いにも発表した品種が人気になって売れ続けているので、それらの経費がある程度、回収できています。

今の時代で、これだけの数を出し、愛好家に受け入れられているのは「美しさと耐病性が共存したバラ」を出しているからで、それは長年育種をやってきた積み重ねなのかなと思っています。

日本のバラの育種家で個人で楽しんでいる方も含めると、恐らく、30~40人ぐらいはいるのではと思っています。ある程度、自分の技量を試そうとコンテストやコンクールに出展している人や、(新品種の)発表をやめてしまった人を含めると15~20人ぐらいだと思います。職業として収入を得て生活できる人は、片手ぐらいしかいないと思います。

バラ育種家・木村卓功さんが語る「次世代のバラ」(後編)
2024年春、新苗の販売が始まったハウス内。ゴールデンウィークごろは大勢の愛好家たちで賑わう

バラの育種はまず、父親と母親を決めます。母親は実をつける方、父親は花粉を使う方です。父親と母親の良い部分を兼ね備えたバラを目指すことになります。バラの交配は5月の一番花のときで、一番きれいに花が咲いているときに交配します。母親の花びらや花粉を取りのぞき、1〜2日後に父親の花粉を交配します。5~6月ごろの1カ月間、当社の場合は5人ぐらいのチームで作業をします。

例年、10月中旬には実がオレンジ色や黄色になり熟してきます。それを全部カットして、紙袋に入れて冷蔵庫で保管します。植物は、冬の寒さを感じた後に発芽するので、早目に寒さを感じさせて12月に実からタネを取り出します。

バラ育種家・木村卓功さんが語る「次世代のバラ」(後編)
花粉を採取するために摘んだ色とりどりの父親の花=木村さん提供

交配してから発表するまで7、8年

実の大きさで異なりますが、平均で30粒ぐらいのタネが入っています。年内から1月上旬ぐらいに苗床に播種し、1、2カ月ぐらいで発芽します。バラは双子葉植物なので双葉になります。

4月になると一番花が咲き始め、6月までの3カ月間は美しさと香りだけの選抜をします。ハウスで育てているので、まだ耐病性はわかりません。種をまくのは10万粒ぐらいですが、その中から発芽するのは4万粒ぐらいです。

バラ育種家・木村卓功さんが語る「次世代のバラ」(後編)
3月ごろに発芽して双葉が開いたバラの赤ちゃん苗=木村さん提供

気の遠くなるような作業ですが、毎日、花を見続け、そのうち7千苗ぐらいが一次選抜に合格。二次選抜用として苗床からポット上げして、梅雨明けごろに露地におろします。殺虫剤は春と秋に1回ずつで、それ以外は何の消毒もしない環境の悪い状態で3年間、見続けます。二次選抜で耐病性や樹勢、三次選抜で平均的な花形、全体的な育ち方などをみながら商品化できるかどうか検討していきます。

その中からさらに良い苗を接ぎ木して、1本を20本、20本を50本に増やし、より良いものだけを残していきます。発表まで最短で5年間、最長では10年間ぐらいかかり、交配してから発表まで7、8年ぐらいかかります。その間は、耐病性、美しさ、香り、樹形、四季咲き性などを見続けます。

バラ育種家・木村卓功さんが語る「次世代のバラ」(後編)
第二次選抜で耐病性や樹勢、第三次選抜では平均的な花形や全体的な育ち具合をみる。第三次選抜の時点で商品化への目安もつくという=木村さん提供

肥料は植物が光合成をする上での補助的なものです。基本的に栄養は光合成をして作るので、それを効率よく作るために肥料があるわけです。葉を残すことで樹勢が良くなり、美しい花がついてきます。葉がなければどんなに肥料をあげても無理なので「葉を維持すればバラは咲いてしまうものだ」っていうことを意識して伝えています。

昔のバラは週に1回、殺菌剤を散布して維持していました。これからは、耐病性を圧倒的に向上させて、無農薬もしくは低農薬でも葉を維持できるバラを次々と作りたい。そうすれば、街にバラを植えてくれる家庭が増えて、街もきれいになっていくような好循環を目指しています。

NEXT PAGE多くの人たちにバラを育てる楽しみを

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