リンさんの 台湾茶・聖地巡礼
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世界で評価される台湾紅茶の故郷、日月潭

年中霧に包まれる日月潭とその周辺の里山

南投県の日月潭(リーユエタン)エリアは、観光地としてのみならず、台湾紅茶の生産地としてもその名を世界に知られています。この地域は多様な地理的条件を持ち、年間を通じて涼しい平均気温と高湿度が特徴です。こうした自然環境に加え、世代を超えた生産者たちの努力と茶葉改良場の研究成果が結集したことで、日月潭紅茶は世界的にも評価される紅茶となりました。特にアッサム種の紅茶は標高600~800メートルの茶園で栽培され、その香りと味わいは標高2,000メートル級の高地茶にも匹敵すると専門家から高く評価されています。

静かなブームが続く台湾茶。いま、本場・台湾では新しい品種や製法が次々に生み出され、その楽しみ方もどんどん進化しています。宜蘭で台湾料理教室を営み、台湾茶コンテストの審査員課程も修めた林品君(リン・ピンチュン)さんが、日本人の知らない台湾茶の世界をご案内します。全10回の予定です。

日月潭紅茶の歴史

台湾で紅茶の本格的な生産が始まったのは1903年、日本統治時代のことです。日本本土の需要に応えるためでしたが、当初は技術不足により品質が低く、市場の評価も芳しくありませんでした。

転機は1925年、日本人がインドからアッサム種の茶樹を導入したことで訪れました。台湾の中部は、インドのアッサム州に近い緯度に位置しており、試験栽培の結果、湿度の高い日月潭周辺がアッサム茶の栽培に適していることが判明。ここで生産された紅茶は鮮やかな赤色と豊かな味わいが特徴で、ロンドンの茶葉オークションでも高い評価を受けました。日本の官僚はこの紅茶を高官や貴族への贈答品、さらには天皇への献上品として用いたそうです。

台湾総督府は日月潭に魚池紅茶試験支所(現・茶業改良場魚池分場)を設立し、アッサム紅茶の計画的な生産を推進。その中心人物で「台湾紅茶の父」と呼ばれる新井耕吉郎は、セイロン式の機械化された紅茶工場を設立し、台湾紅茶の基盤を築きました。当時は第2次世界大戦の直前であり、日本はイギリスが独占していた紅茶市場に挑戦するため台湾での紅茶生産を強化。これにより日月潭の栽培面積は急速に拡大して1939年には3,000ヘクタールに達し、台湾紅茶の輸出量の93%を占めるまでに成長しました。

世界で評価される台湾紅茶の故郷、日月潭
アッサム種の茶畑


戦後、人件費の上昇などにより日月潭紅茶産業は衰退しましたが、一部の茶農家は伝統を守り続けました。その努力のかいあって、近年では地域産業への注目が高まり、政府と民間企業の協力によるプロモーションにより、日月潭紅茶の高品質が再び評価されています。

日月潭紅茶の主な品種には、伝統的なアッサム種のほか、スパイスやミント、シナモンの香りを持つ「台茶18号・紅玉(ホンユー)」、マッシュルームやアーモンド、コーヒーの香りが特徴の「台湾山茶(タイワンサンチャ)」、シトラスの花の香りがする「紅韻 (ホンユン) 」などがあります。特に1999年に発表された台茶18号・紅玉は、アッサム種と台湾山茶を掛け合わせた独特な品種で、甘くまろやかな香りが特徴。台湾紅茶の代表として、国内外で高い人気を誇っています。

世界で評価される台湾紅茶の故郷、日月潭
台茶18号・紅玉の茶畑

また、近年は紅茶だけでなく、白茶(バイチャ)の製造も少しずつ進められています。白茶は茶葉を加熱・焙煎(ばいせん)せず、自然乾燥させる加工法が特徴で、茶葉そのものの香りや味わいを最大限に引き出します。日月潭の茶畑では、特殊な品種や樹齢の長い実生(みしょう)茶、さらには野生の山茶も栽培されており、他では味わえない茶葉が揃っています。

世界で評価される台湾紅茶の故郷、日月潭
台茶18号・紅玉で作られた白茶

ドラマの聖地「日月老茶廠」でタイムスリップ

1959年設立の「日月老茶廠(リーユエラウチャチャン)」は、紅茶製造に専念してきた歴史ある茶工場です。現在も稼働中の大型萎凋(いちょう)槽を利用し、自然通気や強制対流による伝統的な製茶技術が守られています。この工場で製造される紅茶は無農薬茶葉を使用しており、台湾で初めて有機認証を取得したアッサム茶畑を保有しています。

世界で評価される台湾紅茶の故郷、日月潭
歴史を感じさせる日月老茶廠の建物

また、大河ドラマ「茶金(Gold Leaf)」のロケ地としても知られ、今も多くの人々を魅了しています。施設の一部は売店として改装されており、訪問客が紅茶やお菓子などを購入することもできます。

世界で評価される台湾紅茶の故郷、日月潭
日月老茶廠の製茶工場。古い紅茶揉捻(じゅうねん)機は現在も使われている
世界で評価される台湾紅茶の故郷、日月潭
荘記茶業の製茶工場。「特等奨」の横額が所狭しと並んでいる(写真提供:荘鎔璞)

荘記茶業(ツアンチーチャイエ)の荘鎔璞(ツアン・ロンプー)氏は、日月潭紅茶のコンテストで8年連続特等奨(最優秀賞)を受賞するなど、その実力から「日月潭茶王」と呼ばれています。紅玉紅茶を専門とする一方で、台湾各地の茶葉を研究し、独自の製法を次々と生み出しています。

ここでは、高山で作られた白毫(びゃくごう)烏龍茶や暖冬の年にしかとれない冬片美人白茶(白茶と東方美人茶の製法をミックスした希少なお茶)、樹齢100年の実生山茶の紅茶など、他では見られない個性的な台湾茶を堪能することができます。日月潭を訪ねた折には、足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

※次回は1月6日(月)に掲載予定です

世界で評価される台湾紅茶の故郷、日月潭
荘記茶業で丁寧に淹(い)れたお茶をいただく
フォトギャラリー(クリックすると、写真を次々とご覧いただけます)

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