弾けるスペインの泡、カヴァの世界へ③
「世界3大スパークリングワイン」の一角を占めるカヴァの世界を紹介する4回シリーズ。前回に続いて特色のあるボデガ(ワイナリー)と、それらが造る卓越したプレミアム・カヴァを紹介する。
写真:浮田泰幸
取材協力:カバ原産地呼称統制委員会(Consejo Regulador de la Denominacion de Origen CAVA)
マグロ料理に合わせて酒質設計されたカヴァ
「ヴァルフォルモサ」はカタルーニャ州内の資本のみの造り手の中で出荷量No.1のボデガである。1865年創業、1904年にスペイン国王アルフォンソ13世来訪の栄誉に浴したことでプレステージを得た。2024年12月に東京でアンドレス・イニエスタ選手の引退試合として開催されたバルセロナとレアル・マドリードのレジェンド・マッチ「EL CLÁSICO in TOKYO」ではビバレッジ・スポンサーを務めた。
この造り手の大きな特徴は自社畑を所有していないこと。州内の400軒の栽培農家と契約を結び、原料ブドウを調達している。契約農家の畑は標高500m以上の高地に開かれ(昼夜の寒暖差があることで良質のブドウが得られる)、ブドウ木の樹齢は30年以上(古木に実るブドウのワインはなめらかで味わいが精妙になる)、7割以上が有機認証を受けている。
生産規模の大きな企業に社会的な責任が伴うのはワインの世界も同じことだ。このボデガはサステナビリティーの推進に熱心で、水の利用を他社平均の半分以下に抑える、廃棄物のリサイクルを進める(2025年にはゼロウェストを実現する見込み)、原料ブドウの買い取り価格を標準よりも高めに設定することで、パートナーである契約農家を支える等さまざまな取り組みを行っている。24年3月には「Bコープ認証」(注①)をスペインで初めて得たワイン生産者となった。
幅広いラインアップの中から2本を紹介しよう。
「ブルー・フィン」(参考価格3800円〈税込〉)は、マグロ料理に合わせて酒質設計されたアイテム。開発にはシェフ、ソムリエ、デザイナーが関わっている。青リンゴと白い花の爽やかな香りに、酵母由来のブリオッシュのような香りが混じる。後口に残るアニスのトーンがマグロとの好相性を予感させる。
「150 グラン・レセルバ」(参考価格5800円〈税込〉)は、創業150周年を記念して造られたアイコン・ワイン的なアイテム。チャレロ100%、澱(おり)引き前の熟成期間は30カ月以上。黒地に金文字のシックな盛装のような外観を裏切らぬ優美で複雑な香りと泡立ち。味わいに厚みがあるので、肉料理にも十分合わせられそう。
高級ブランデーの蒸留からカヴァ造りに転進
「ジロ・リボ」はサンタ・フェ・デル・ペネデス(サン・サドゥルニ・ダノイアの南西)に拠点を構えるボデガ。フランス、コニャックの老舗「レミーマルタン」と縁があり、蒸留酒を造っていた時代もあったが、80年代にカヴァを主体に高品質ワインを造る方向に大きく舵(かじ)を切った。巧みな品種構成、熟成樽(だる)の使い分けなど、細部にこだわった造り。低温浸漬(しんし、注②)から始める丁寧な醸造で、カヴァはいずれもピュアでデリケートな味わいとなっている。
「ウマ ブルット グラン・レセルバ 2020」(3300円前後、価格はネットショップでの実勢価格)は、ピノノワール、チャレロ、シャルドネのブレンド。澱引き前の熟成期間は50カ月。乾いた小麦を思わせる酵母香に焼き栗、洋梨の果皮のような香りが混じる。ウマ(UMa)はおおぐま座のこと。宇宙の闇を思わせるブルーのボトルのイメージそのものの、神秘的な味わい。
「アンプラグド・ロゼ ブルット レセルバ 2019」(4400円前後)は、ピノノワールを主体にシャルドネをブレンド。一部のベースワインの熟成にアカシアの樽を使うことで、フローラルな香りを強調している。ロゼと言うよりもオロ(黄金)と呼びたいような高貴な色合い。桜桃や白い花の香り。口に含むと梅ジュースのような風味がする。「アンプラグド」とは、エレキギターではなく、アンプに繋がないアコースティックギターで演奏すること。気取らずに楽しみたい。
格付け最高位のブドウ畑を擁する海沿いの造り手
ここまでモンセラートの南に広がる盆地のペネデス地区のボデガを紹介してきたが、最後に登場する「アルタ・アレーリャ」はバルセロナに近い沿岸の地、アレーリャにある。気候(海風が吹き、寒暖差は小さい)も土壌(砂地に花崗岩〈かこうがん〉が混じる)もペネデスとは異なり、当然カヴァのスタイルも違ってくる。アレーリャのカヴァは味わいまろやかで塩のミネラルを感じさせる。
ベルモットで有名なイタリアの「マルティーニ・エ・ロッシ」でスパークリングワインの製造を担当していたジョゼップ・マリア・プジョル=ブスケッツ氏がこの地にボデガを構え、最初のワインをリリースしたのは2001年。畑では最初から有機栽培を実践。この地方でパンサ・ブランカと呼ばれるチャレロとシャルドネを主体に、ガストロノミーのテーブルにふさわしい優美で瑞々(みずみず)しいカヴァを造る。6社10区画しか認定されていないカヴァの最高位の格付け、「パラヘ・カリフィカード」に認定された区画を持つ生産者でもある。
「ミルジン・オプス パラヘ・カリフィカード ヴァルシレラ ブルット・ナチューレ 2019」(38ユーロ/日本未輸入)は、パンサ・ブランカ60%、シャルドネ40%。澱引き前の熟成期間は36カ月。熟れた洋ナシ、リンゴ、アーモンド、バニラの香りに白檀(びゃくだん)のようなトーンが混じる。うま味を伴った余韻が長く続く。
「ライエタ グラン・レセルバ ブルット・ナチューレ ロゼ 2017」(25.50ユーロ/日本未輸入)は、マタロ(モナストレル)100%。淡いサーモンピンクの風雅な色合い。スミレの花と赤い果実の香りにドライフラワーのトーンが混じる。口に含むと、泡の奥からトマトのような風味が覗(のぞ)き、食欲を催させる。
【注】
① Bコープ認証
アメリカの非営利団体B Labによる国際認証制度で、環境や社会に配慮し公益性において高い評価を得た企業に与えられる。
② 低温浸漬
収穫後破砕したブドウを一定時間8℃以下の低温で果汁の中に浸すことで、ゆっくりと発酵をスタートさせる製法。香りが華やかになる、味わいが複雑みを増す等のメリットがある。
【ワインに関する問い合わせ先】
ヴァルフォルモサ
輸入元:東酒類株式会社
ジロ・リボ
輸入元:ミリオン商事株式会社
アルタ・アレーリャ
輸入元:株式会社ラヴニール ※記事で取り上げた2アイテムは未輸入(2024年12月時点)
本連載は全4回の予定です。最終回は1月13日(月)掲載予定です。