深煎りコーヒーとともに。澄んだ光と冬の空を眺める珈琲店「み空」
冬の澄んだ光と、ストーブの上のやかんの湯気、コーヒーの香り。そんな情景が心地よく、気がつくと長居してしまう珈琲店が、左京区・北白川にあります。地元の人の散歩道でもある白川疎水沿いの小道、「かかん京都店」と同じ建物の地下に昨年4月オープンした、珈琲店「み空」が今回の散歩の行き先。窓の外の景色や光のうつろいを眺めながら、思い思いに時を過ごす穏やかな場所です。
■京都から毎月、季節の便りを出すように。連載「京都ゆるり休日さんぽ」では、いま訪ねたい今昔の人気店、季節の味覚や風景を、さんぽのみやげ話とともにお届けします。
シンプルな空間に少しの不調和、うつろう景色が心地よい
正方形に切り取られた窓に映る、疏水沿いの桜の木と空の色。半地下になった空間から眺める外の景色は少し見上げるようなアングルで、その日の空模様がよく見えます。白壁と白木の什器(じゅうき)を基調とした内装は、クリーンでシンプル。そこに、ブロックガラスや白タイル、剥き出しの配管や継ぎはぎの天井など、要所要所に生かされた建物の個性が、心地よさの中に絶妙な「外し」のリズムを生んでいます。
日ごとにうつろう景色を静かに見つめながら、カウンターの向こうで淡々とコーヒーをいれるのは、店主の石倉源太さん。ここをオープンする前から、知人の店での間借り営業という形で「み空」としてコーヒーをいれていました。石倉さんが自家焙煎(ばいせん)するコク深いコーヒーと独特の居心地の良さは、口コミで評判に。広々とした空間をイメージして実店舗の物件を探すうちに、白川疎水のほとりにぽっかりと開いた半地下のこの場所に出会いました。
「作り込みすぎない、ちょっと隙があるような場所が落ち着くような気がして。本を読んだり、ぼんやりしたり、考えごとをしたりしゃべったり、好きなように過ごしてもらいたいと思っています」(石倉さん)
それぞれの自由な過ごし方に寄り添って
手回しの焙煎機で自家焙煎するコーヒーは、シングルオリジンの中〜深煎りを3種類ほど常備。メニューでは「濃いめ」「かるめ」「デミタス」から、好みの飲み口を選ぶことができます。「濃いめ」はネル、「かるめ」はペーパーフィルターを使い、それぞれ湯の落とし方も変えることで異なる味わいに。香りと風味がしっかりと立ちつつも、飲みやすく柔らかな後味で、毎日でも飲みたくなるコーヒーです。
カウンターの隣にある壁一面のレコードは、音楽好きな石倉さんのコレクション。会話を楽しんでいる人が多い時、一人客や読書をしている人がいる時など、その日その時の店の雰囲気に合わせて、手が空いていれば流す音楽も変えているのだそう。そんなところも居心地の良さにつながっています。
「誰もが気軽に来られる珈琲店がいい」と話す石倉さん。ルールがあったり、入るのに気後れするような店ではなく、さまざまな人に開かれた場でありたいと考えています。ミニマムなメニューやシンプルな空間、力の抜けた「隙」のあるムードは、ここで過ごす人がそれぞれに受け止め、それぞれの心地よさを重ねるための「余白」になります。
春になれば、白川疎水沿いの桜並木がうららかに「み空」の窓を彩るでしょう。けれど、冬枯れの木々とひんやりとした空を見上げながら過ごす時間は、冬ならではの静けさと穏やかさに満ちています。散歩や旅の途中に、日々の隙間に、少しの間、一杯のコーヒーとうつろう景色に癒やされてください。
【取材協力】み空
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BOOK
大橋知沙さんの著書「もっと、京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2024年1月に出版されました。「京都のいいとこ。」の続編。ひとり旅でも、満たされる、自然体の京都の楽しみかたを提案。定番からひみつの場所まで、選りすぐりの約100軒をご案内します。&Travel「京都ゆるり休日さんぽ」の中から厳選、加筆修正、新たに取材しました。「京都のいいとこ。」に引き続き、この本が京都への旅の一助になれば幸いです。1430円(税込み)。