いしわたり淳治のWORD HUNT
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サブカル的とは何か。歌詞における、ありそうでなさそうなストーリー

音楽バラエティー番組『EIGHT-JAM』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の5本。

 1 “校庭ぐるっと10周まわって頭冷やすの”(先生たすけて『バースデーコンプレックス』作詞:先生たすけて)
 2 “店前に咲く花” 
 3 “すべて素晴らしい”(伊集院光)
 4 “デコピン”
 5 “スタッドレスタイヤ”

退屈と妄想にスパイス程度の本音

サブカル的とは何か。歌詞における、ありそうでなさそうなストーリー

時代は巡るもので、最近はバンド『相対性理論』 みたいな音楽が新鮮に聴こえるなあと、ぼんやり思っていたところに、「先生たすけて」という若いアーティストを見つけた。

相対性理論が『シフォン主義』というアルバムをリリースしたのが2007年のこと。そこに収録された『LOVEずっきゅん』という曲を初めて聴いた時の衝撃は、今も鮮明に覚えている。独特なサブカル感が全面に溢れた歌詞とサウンドは、それまでに聴いたどの音楽とも違っていて、とにかく新鮮だった。急いで下北沢の小さなライブハウスに彼らのライブを見に行くと、その時はまだ客は10人もいなかったが、それから彼らが大ブレイクするまでに時間はかからなかった。相対性理論のメンバーはそれぞれに今も第一線で活躍していて、彼らはとんでもないクリエーター集団だったのだなと、改めて思う。

先生たすけてはシンガーソングライター藍哀(あい)さんによるソロプロジェクトなのだそう。相対性理論好きを公言しているだけあって、完璧なサブカル的サウンドと歌詞が素晴らしい。リリースはまだこの1曲だけのようだけれど、SNSにはしろねこ堂の『水金地火木土天アーメン』のカバー動画なども上がっていて、センスの良さを感じる。

サブカル的というのが、何をもってそう感じるのか、説明するのはとても難しいのだけれど、歌詞だけで言うと、おおよそ一般的な歌詞では使われないような言葉がさらりと使われながら、ひょうひょうと、ありそうでなさそうなストーリーを、少しの本音とセンチメンタルを混ぜながら歌う、みたいな感じかなと思う。退屈と妄想にスパイス程度の本音、みたいな感じというか。この歌では先生との叶わない恋を「校庭ぐるっと10周まわって頭冷やすの」と表現して、気だるそうに歌う。とてもセンスよくサブカルマナーを踏襲しているなと思う。

美味しい店の見つけ方

サブカル的とは何か。歌詞における、ありそうでなさそうなストーリー

1月8日放送の中京テレビ『やりかたのウタ~気になるHOW to ウタいまSHOW~』でのこと。同局の人気番組『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』のスタッフが、オモウマい店の独自の見つけ方を紹介していた。

オモウマい店にはいくつかの法則があるらしく、例えば、「オモウマい店の店主は、もれなくみんなやさしい」→「やさしい人は花を大切にする」→「店前に咲く花を探す」といった具合に、連想ゲームのようにして見つけているらしい。他にも、「オモウマい店の店主は、味にとことんこだわっている」→「水にもこだわっている」→「天然水の源泉で張り込んで水を汲みに来る店主を探す」とか、「オモウマい店は、大勢のお客さんに愛されている」→「客の出入りが多い」→「駐車場の白線が消えて薄くなっている店を探す」といった法則があるらしい。

なるほど。安くて美味(おい)しい店は誰もが探しているもの。その見つけ方を教えてくれるのは非常にありがたいことである。さすがに山奥の源泉で張り込むのはしんどいから、まずは店前の花と駐車場の線が薄い店を探してみたいと思う。言われてみれば、うちの近所にある美味しい寿司屋の駐車場の白線はやけに薄い気がする。なるほど。これはいい手掛かりになるかもしれない。

またいつか、落ちる時が来たとしても

サブカル的とは何か。歌詞における、ありそうでなさそうなストーリー

12月31日深夜 放送のテレビ東京『あちこちオードリー』でのこと。ミドルエイジクライシス、いわゆる中年の危機について、パンサーの向井慧さん、伊集院光さん、オードリーの二人が話していた。

向井さんが、色んなことに魂を燃やしてやってきたけど、朝の帯番組含めラジオを週5本やるような生活になって、燃え尽き症候群のような状態で次に何をやったらいいか分からなくなってきたと話すと、オードリーの若林正恭さんも自分もそれはあったと同調して、「頭の同じところを何年も使い続けると、興奮もしなくなってくる。火のように仕事すると、燃え尽きちゃう。(相方の)春日は水が流れるようにテレビに出てるから大丈夫なのよ」と笑った。

伊集院さんの話も印象的だった。

「自分も一番デカいやつがラジオの中期にあって、タリー(ラジオ収録でマイクのオン・オフを示すランプ)が点いてないと、プライベートでも何も喋れない。そしたら、当時の彼女(今の奥さん)が、おもちゃのマイクを買って来て、それで“夜ご飯、何食べますか”みたいに聞いてくれて会話してた。1ヶ月くらい喋りのイップスみたいな状態」

「これって鬱(うつ)が抜ける時によくあることらしいんだけど、今度はそこから大逆流が始まるわけ。“すべて素晴らしい”ってなる。信号を見て、“青進め、赤止まれ”これ考えたやつ天才だな……とか思う。すべてがいい感じになる。だから、あの体験をもう一回できるなら、また落ちる波が来ても大丈夫だと思ったら、もう来なくなった」と話していた。

このやりとりを興味深く聞きながら、こういう話はメディアでどんどんされるべきだなと改めて思った。心のことは自分でもよく分からないし、だからこそ他人にも相談しにくいものだ。私自身の人生を振り返った時、鬱だった時期があるかというと、なかったような気が自分ではしているのだけれど、それでも30歳くらいの頃、「この世のすべてが素晴らしい!」と感じていた謎の期間があったことは鮮明に覚えている。つまりそれは、その直前まで自分の気持ちが落ちていたということなのかもしれない。

またいつか、落ちる時が来たとしても、すべてが素晴らしいと感じる最高の瞬間が必ず来て、抜け出せる。この言葉を頭の片隅に置いて暮らそうと思った。そして、火のように働くのではなく、水のようになめらかに働くのだ。時には氷のように固い意思を持つことも大事だけれど、それすらも誰かの熱い情熱に出会った時は溶かしてもいいのだ。そんな柔軟さで、暮らしたいものである。

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  • 4nBgoHUyBd3d

     運勢や占いはなくならない。未来を予測するだけでなくて、じぶんへの問いかけを見直すから。
     仮に、『駄目な男に引っかかてばかりいる』が口癖ならば、言葉と脳のはたらきが現実を引き寄せる。
     ことしはネガティブな言葉を減らしていこうとわたしは意識する。

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