若松真平
東北地方で複数の美容院を経営する女性(42)には、忘れられない1枚のレシートがある。
6年前の2016年7月下旬、当時7歳だった長男が初めて1人でおつかいに行った時のものだ。
夫と一緒にオープンさせた1店舗目が、ようやく軌道に乗り始めたころ。
それまでは家計が苦しく、家族4人の1食の食費が、1人あたり176円だった時期もある。
長男の6歳の誕生日プレゼントは100円ショップの商品だった。「好きなものを買いなさい」と言ったら、車と恐竜、カエルとおもちゃを三つ持ってきた。
その時の申し訳なさもあって、初めてのおつかいでは千円を渡した。何か買うものを頼んだわけではなく、「好きなものを買ってきていいよ」と伝えた。
帰宅した長男が買い物袋の中から出したものを見て驚いた。
カツオの刺し身、韓国のり、イカの燻製(くんせい)、炭酸水。
確かにカツオとイカは長男の好物だが、お菓子やジュースを選ばないなんてシブいな。
「ママと一緒に食べようと思って選んだんだ」
韓国のりと炭酸水は母が好きだと思って買ってきたのだという。
その笑顔を見て、思わず抱きしめたくなった。
ところが、渡されたレシートに記されていた1行に気づいた瞬間、今度はぶわっと涙があふれてきた。
合計金額983円の個別の項目…