組織開発コンサルタント・勅使川原真衣=寄稿
拡大する「自己責任」が見出しについた記事
今回は「自己責任」について考えてみたい。批判を起点にしない意味で、これまでとはちょっと毛色を変えようと目論(もくろ)む。
というのも、「自己責任」は、これまで取り上げてきた「能力主義」「自立」「成長」ということばと違い、礼賛一辺倒ではない。それどころか「自己責任」を盾に公助を削減・放棄して、個人に圧をかける自己責任論というのは、少なからず批判にさらされてきた。しかし興味深いことに、いまだ正論の香りを漂わせ、一定の市民権を得ていることも事実だ。
それはつまり、私たちが今こそ問うべきは、“自己責任論の何が問題か?”ではない。そうではなく、“これほど問題もある自己責任論がいまだ消え失せないのは、いかなる理由からか?”と、問いをずらしてみたい。「自己責任」/「責任」ということば自体の解きほぐしが、手薄なのではないか?と考えている。
職場でも「自己責任」ということばや、誰を育てるべきか?/活躍しない誰は実力不足として切り捨てるか、といった「選抜」論はおなじみだ。
とあるメーカーの社員(Mさん)は、理系大学院修了後、新卒で某メーカー研究開発部門に入社し、6年間奮闘してきた。しかし本人いわく「ある日突然、頭の中がぐちゃぐちゃになった」という。ほどなくして休職、精神科でうつ病と診断された。半年間の休職を経て、別の開発部署に復職。復職後の対応を上司が心配して、私との面談がセッティングされた流れだ。プライバシーに配慮して一部創作してある。
勅使川原:復職、ドキドキしますね。
Mさん:しますねぇ。でも皆さんに気を使わせていて申し訳ないです。休職は自爆だったのに。
勅使川原:自爆?
Mさん:認めてほしかったんですよね。誰よりも仕事をしてる、できてるって。でも思うように褒められないから、あれ? もっとやんないとダメなのかな? じゃあもっともっと……なんてしてたら、あっという間にさばききれない仕事の山に。逃げるように休職に入ることになってしまいました。情けないです。
勅使川原:いやいや、ご自分とよく向き合っていらっしゃるんですね。
Mさん:そんな。仕事なんだから「自己責任」です。私がもっとちゃんと自己管理できていたらこんなことには。私の問題です。
出た。この、「責任はひとえに私にあります」と言ったときのすがすがしさ。しかしこの一見した潔さの半面、責任の所在や「本当に悪いのは誰か?」のような犯人捜しに拘泥している点で、そこから打開策は編み出されにくい。これを言い切っている限り、意外かもしれないが、「自己責任」の内実を解きほぐす途(みち)は遠のく。
諦めちゃいない。現行の個人の…