市民の心動かした中国前首相の急逝 追悼言論から見える中国社会の今
投稿「私の視点」 聶莉莉・東京女子大学名誉教授(文化人類学者)
10月27日に中国の李克強(リーコーチアン)前総理が死去した後、中国の各地で市民の自発的な追悼活動が広がった。安徽省の故郷や赴任地などゆかりのある地域ではおびただしい数の花束が供えられ、SNSには追悼の詩や回想文があふれた。親しみを込めて「克強総理」と呼んで強い連帯感を示し、別れを惜しむ感情がにじみ出ていたことが大きな特徴だ。
きちんとした国葬さえ行われないというような政治状況のもとで、「蒼山五岳為碑、億万国民心祭」(祖国の山々や大地は彼の記念碑であり、民の心の中で祭祀(さいし)が行われている)と悲壮感あふれる詩も詠まれている。
なぜこれほどまでに李氏への追悼が広がったのか、民の心を動かしたものは何だったのだろうか。
SNSの投稿やコメント、花束につけられたメッセージなどが人々の心の声を伝えている。一参加者の立場から追悼活動を分析するような文章も少なくなく、市民自らが彼を追悼する意味を考えている。
多くの文章やメッセージには、李氏の言葉が引用されている。ある追悼詩に書かれた通り、「生前言語身後碑」(自身の言葉そのものが死後の記念碑)となっている。
冷遇された姿に重ねる自身の境遇
李氏は共産党ナンバー2の立場にありながら、中央政局の中で周縁化された。冷遇された李氏に対して、民衆はいたわりの念を抱き、「隠忍自重して重責を持ちこたえた精神」に敬服の念を持っているのである。
「涙は、克強総理を哀れむも…