拡大する大学入学共通テストの試験の開始を待つ受験生たち。進学後の学費の負担は子育てする人や学生に重くのしかかる=2023年1月14日、東京都文京区の東京大
気候変動や社会保障などの課題は、世代を超えた持続可能性や世代間の分断が生じる問題でもある。過去、現在、将来の世代の「世代間正義」を研究する法哲学者の吉良貴之さん(44)に、世代間にまたがる問題をどうみるか、世代をどうとらえるか聞いた。
――世代による分断はなぜ起こると考えますか。
「世代」は単なる年齢の区切りというよりは、共通の体験といったもので特徴づけられがちです。若者言葉で、以前にはやった音楽を聴いたときに「世代だ!」ということがありますが、実はそれが典型的な用法なんですね。ただ、その体験を共有していない人からすれば怪しげに見えるし、共有している人であっても「そんなことで一緒にしないでほしい」と反発されやすい面がある。もともと不安定な言葉なのは確かです。
その上で、今の日本で世代による分断がそれほどあるのかな、という違和感はあります。むしろ「安易な世代論」が先回りして批判されるようなところがないでしょうか。
政治が高齢世代に有利になっている状況を指す言葉として「シルバー民主主義」があります。何をもって有利と考えるか、丁寧にみないと難しい問題です。人口バランスや投票率など、インプットの面ではそう言えるし、現実の政策などアウトプットの面ではそうでないかもしれない。しかし、そういう細かい話よりも「シルバー民主主義など存在しない」と言い切る論調の方が目立っているように思えます。「世代論」の何がそんなに恐れられているのでしょうか。
もちろん、心配な例はあります。経済学者・成田悠輔さんの「高齢者は老害化する前に集団自決みたいなことをすればいい」という趣旨の発言などはとても支持できません。ただ、そうした危険な考えが現代日本で広く行き渡っているとまで言える状況ではないと思います。
そうしたことをふまえると、分断より気になるのは、Z世代など若い人たちほど世代を論じることを嫌って、自分たちにかかわる社会課題を語らない傾向にあることです。
――どういったことでしょうか。
先日、小池百合子都知事が都立大の授業料免除者の所得制限を撤廃し、無償化する方針を明らかにしましたが、当事者の世代の反応はそれほどでもありませんでした。
奨学金や教育費の負担は若い人にとって身近な問題ですが、当事者からの議論が広がっていないと感じます。政府は「異次元の少子化対策」を打ち出していますが、世代にかかわる当事者運動としてある程度大きな流れになったのは、待機児童問題など子育てに関わることに限られています。
――若い世代の関心はどこにあるとみていますか。
ヨーロッパの若い世代は気候変動への関心が高いですね。あちらの若者たちは、自分たちの世代で人類が絶滅するかもしれないと本気で考えています。しかし日本では、原発問題など特定のトピックを除いて、大きな流れになっていません。ヨーロッパの環境保護運動では美術館のゴッホの絵にスープをかけるといった過激な活動がありましたが、日本では背景を理解しようという見方はなく、冷笑的な反発がほとんどだったと思います。
ただ、日本の若い世代が政治や社会問題に関心がないわけでもありません。若い人たちと実際に話したり、SNSをみたりしていると、政権批判、社会保障問題、エネルギー問題など、ナショナルなレベルの問題にはある程度の関心があるように思います。ネット上のコミュニケーションツールとして軽く消費されている面もあるかもしれませんが、それでも話題にはなるということです。ただ、いずれもグローバルというより、国単位のナショナルなテーマにとどまるのが気になります。
関心が高いナショナルな問題に…