医療を目指すあなたへ 大学の選び方 「建学の精神・理念」を参考に
ほか先生の医療のススメ #36
桜の開花の知らせはまだ届きませんが、一足先にモクレンが開き始めました。受験生にとって3月は締めくくりの月です。合否が決まり、よろこびもかなしみも、くやしさもあるでしょうが、「人間万事塞翁(さいおう)が馬」の精神で春を迎えてください。
さて、医療を目指して大学に進学しようとする皆さんは、大学をどのように決めるのでしょうか。夢をかなえてくれる大学、教育内容や教授陣が充実している大学、国家試験合格率の高い大学、家から近い大学、学費が安い大学、自分の学力でいける大学など、いろんな理由があると思います。
大学にはそれぞれ特徴があります。その一つが建学の精神です。学校が目指すものは何か、設立の理念を表す言葉です。憲法の前文のようなものです。具体的な教育指針ではなく、気風のようなものです。学生が大学で日々を過ごすうちに、自然とその気風に染まっていきます。歴史を刻む講堂や校舎にも、校庭や樹木にも、その気風が沁(し)み込み、建学の精神にふさわしい人間になれと促されます。
たとえば古い大学では、東京慈恵会医科大学には「病気を診ずして病人を診よ」という言葉があり、創立者の高木兼寛(宮崎県出身)が掲げた「医学的力量のみならず人間的力量をも兼備した医師の養成」を目指しています。順天堂大学には「仁」(慈しむ心)と「不断前進」(努力を続ける)が学是と理念に書かれています。
私がかつて赴任した北里大学の建学の精神は、「開拓、報恩、叡智(えいち)と実践、不撓不屈(ふとうふくつ)」でした。換言すれば「チャレンジ精神、感謝する心、勉学と行動、くじけず負けない心」です。北里柴三郎(熊本県出身)が生涯にわたって貫いた精神が脈々とつながっています。
新しい大学としては、日本初の医療福祉の総合大学として1995年に高木邦格(福岡県出身)が開設した国際医療福祉大学の建学の精神は、「病める人も、障害を持つ人も、健常な人も、互いを認め合って暮らせる 『共に生きる社会』 の実現をめざす」というものです。互いを認め合うとは、自分と違うものを拒まないということです。互いの「いのちの尊厳を、いたわりと愛情を持って」認め合うということです。
建学の精神あるいは理念は、高い理想ですが、揺るがない信条であり、教育だけでなく生活や行動の規範にもなります。学校選びでぜひ参考にしてほしいです。
そして、建学の精神に染まるためには、素直な純真な気持ちで学生生活を始めることです。白モクレンのように、純白な心で、上を向いて、自分を開けば、自分の精神の幹まで建学の精神が沁みわたってくるでしょう。