ボンドの官能、流れる黒 元具体美術協会・松谷武判さんの抽象は冗舌

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田中ゑれ奈
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 ドン、ドン、と木の棒で床を突きながら、松谷武判(たけさだ)さん(87)が歩いてくる。白い布に向かい、墨汁を含ませたはけで、真横にぐぐっと線を描く。内覧会でのパフォーマンスは、一本の線という制作の最小単位を通して、そこから始まる無限の時間を感じさせた。

 1963年に具体美術協会の会員となった松谷さんは具体第2世代の一人として、木工用ボンドを使ったレリーフ状の作品で知られた。66年の渡仏後はハード・エッジと呼ばれる平面的で色鮮やかな抽象表現を経て、平面や立体の表面を鉛筆で塗り込める黒い作品に移行。東京・初台の東京オペラシティアートギャラリーで開催中の個展は、具体参加前の初期から最新作まで網羅した、過去最大規模の回顧展だ。

具体美術協会(具体)

 1954~72年に関西を拠点に活動し、戦後日本の前衛芸術を率いた前衛芸術集団。近年、国際的にその再評価が進んでいる。

ぷっくり膨らみ、ぱっくり開く

 時代ごとに変遷する表現は多彩で、一見バラバラにも思える。だが、「根底には生命的、有機的、官能的なものへの鋭敏な感覚が一貫してある」と、同ギャラリーの福士理(おさむ)シニア・キュレーターは指摘する。

 その特徴は、60年代前半当…

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この記事を書いた人
田中ゑれ奈
文化部
専門・関心分野
美術、ファッション、ジェンダー