第2回がれきの中で挙式 あれから30年、「何もない」ことこそ尊かった

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永井靖二
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 26歳の藤井春美は、結婚式を挙げるため、電車とバスを乗り継ぎ、教会に向かっていた。抱えた白い箱にはウェディングドレスが入っていた。

 車窓からは倒壊したビルや焼け野原が見えた。

 神戸市中央区にある教会に着くと、テニスサークルで知り合った6歳年上の飯田啓二が待っていた。教会の三角屋根は崩れ落ち、白い壁には太い亀裂が入っていた。

 ステンドグラスから青と黄と白の光が差し込む聖堂で、神父が2人に語りかけた。

 「破壊された神戸市の中で、お二人は生きる希望と力と愛を失いませんでした。未来に向かってその歩く姿は光であり、私たちの未来であることを忘れないでください」

30年前、突然の大地震で肉親や住まいを失いながら、懸命に生きた人々がいた。当時、朝日新聞記者の取材に応じた家族を再び訪ね、30年の歳月をたどった。

 結婚式の1カ月前、阪神・淡路大震災が起きた。春美の実家は全壊。2人が新居にする予定だった啓二の実家は屋根から下がぺしゃんこになった。向かいの阪神高速神戸線は635メートルもの区間にわたって倒壊していた。啓二には犠牲になった親族もいた。

 被災直後は挙式をあきらめて…

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    大川千寿
    (神奈川大学法学部教授)
    2024年12月6日4時28分 投稿
    【視点】

    「あなた方の間にいつも神がいるのだということを忘れないでください」。 私たちも教会で結婚式を挙げました。その時に司式してくださった司教様から言われたことばです。 「私はいつもお前と一緒に歩いている」「あの時、私はお前を背負って歩いていたの

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