拡大する写真・図版イラスト・ふくいのりこ

 今回のエピソードは、認知症の新薬を使った最近の出来事であるため、いつもよりいっそう、個人情報の保護に注意して、仮名でお送りします。

 アルツハイマー型認知症の人向けの薬はこれまでも複数ありました。このところ話題になっている薬は、脳に蓄積するたんぱく質・アミロイドβを減らし、認知症の進行を抑える効果が期待されているものです。

 この薬に限らず、新薬が出る際には新聞やテレビで報道され、世間の期待が大きく膨らむ傾向があります。病気が難しければ難しいほど、特効薬を求める人々の思いが強くなるからでしょう。

 今回の薬も大きく報道され、人びとの期待は一気に高まりました。定期的に点滴をくり返すなど、これまでの薬と異なりますが、私に入ってくる情報からは、適応する患者さんや家族が満足する、手ごたえのある薬だと今のところ、感じています。

置き去りにされたような落胆

 一方で、この薬を使うと、まれに脳に小さな出血や浮腫という副作用がおきます。一定以上の大きさの脳出血の跡がある人らには使うことができません。また、症状が進行した人も対象にはなりません。

 期待が大きくなればなるほど、その薬が使えないと一部の人には「何か置き去りにされたような落胆」がありました。

 小川麻衣子さん(67)は保険会社に長く勤め、「やり手」として活躍した人でした。何度も困難に立ち向かい、仲間とともに克服してきたからこそ、定年時には役員になっていました。そんな小川さんが職場でのミスを指摘されるようになり、退職後には「うっかり物忘れ」が自分でも気になるようになりました。

 小川さんは、内科の主治医に悩みを打ち明け、その内科医から私のクリニックに紹介されてきました。

「将来は絶望的」

 新しい薬のことをよく調べてき…

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