水産庁が近く、商業捕鯨の対象拡大を正式決定する。業界の要望に沿ってナガスクジラを加えるが、決める過程は極めて不透明だった。捕鯨には様々な課題があり、開かれた議論を避けるようでは、広い理解はおぼつかない。姿勢を改めるべきだ。

 ナガスクジラは体長が約20メートルで、シロナガスクジラに次ぎ大きい。水産庁は領海と排他的経済水域内で今年分として59頭の捕獲枠を設ける。日本は19年に国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し商業捕鯨を再開しており、従来のミンククジラなどと合わせ、これで計4種類が対象になる。

 水産庁は、最近の調査で推定したナガスクジラの資源量をもとに、IWCが定めた方式で「予防的かつ控えめな捕獲可能量を算出した」と説明する。海外の専門家の意見も聞き、勧告に従ったという。

 だが、これまでの進め方は閉鎖的で、問題が多い。5月にナガスクジラの追加方針を示し、意見を公募したが、その時点では推定資源量や調査・評価手法などの基本情報を示していなかった。1千件以上寄せられた意見の全容や回答を公表する前に、捕獲枠決定の手続きを進めた。

 基本情報の公開は、新方針を議題にした6月の審議会当日で、その日のわずか1時間の議論で、捕獲枠が承認された。IWC脱退や商業捕鯨再開時も、強引で透明性を欠く決め方が目立ったが、今回も繰り返された。

 十分な情報をもとに、時間をかけて多角的に検討するという本来のあり方から、かけ離れた姿勢と言うしかない。

 資源調査や評価にも、疑問の声が残る。捕獲枠にお墨付きを与えた海外専門家も、日本近海の資源量が「望ましくない減少率」になる可能性を指摘し、4年以内の再評価を求めた。政府には、資源状況を入念に監視し、捕りすぎを防ぐ責任がある。

 国連海洋法条約は、鯨の保存や管理について「適当な国際機関を通じて活動する」と定めている。日本はIWC脱退後もオブザーバーとして参加しているが、協力義務を十分に果たさなければ、日本の捕鯨への批判の再燃も懸念される。政府はIWC会合などで説明を尽くす必要がある。

 産業としての持続性と政策支援の意義も問われる。商業捕鯨再開から5年たっても、鯨肉需要は低迷が続き、ピーク時の1%ほどの水準にとどまる。毎年50億円ほどの財政支援に頼っており、「商業」とは名ばかりだ。

 枠拡大後にどんな展望があるのか。政府と業界は自立の道筋を具体的に示すべきだ。