子どもをはぐくむ

~ビジネス書の考えを絵本に(上)~ メジャーリーガー・菊池雄星に「フィードフォワード」を教えたコーチングのプロが、絵本の監修に挑戦したわけ

2024.10.15

author
川口敦子
Main Image

物ごとを過去に遡って振り返り改善点を探す「フィードバック」に対し、ビジネスの世界には「フィードフォワード」というコミュニケーションの考え方があります。仕事がうまくいかなかったとき、「ほんとうはどうしたいのか」と上司が部下に問いかけ、未来に向けて考え合う発想です。この考えをテーマにした子ども向けの絵本が、このほど誕生しました。ふだんは企業で講演したりビジネス書を書いたりしている久野和禎さんがビジョンを説明し、絵本作家の由美村嬉々さんがストーリーや構成を考えました。絵本ができた経緯やビジネス書との違いについて2人に聞きました。今回は久野さんへのインタビューです。

久野和禎

話を聞いた人

久野和禎さん

実業家、エグゼクティブコーチ

ひさの・かずよし/神奈川県生まれ。プロフェッショナルコーチ・作家。東京大経済学部卒業。筑波大MBA、一般社団法人・フィードフォワード協会代表理事。
認知科学を土台としたコーチングを学び、自ら考案した「CEOコーチング」「ゴールドビジョンメソッド」、そして「フィードフォワード」の普及を行っている。著書に「思い描いた未来が現実になる ゴールドビジョン』(PHP研究所)、「いつも結果を出す部下に育てるフィードフォワード」(フォレスト出版)などがある。

ビジネスの考えを親子で学ぶのも「アリかも」

――絵本のタイトルが「ほんとうは、どうしたいの?」です。この問いかけがまさに、過去にとらわれてしまいがちな人に、未来に意識を向けた行動を促す技術「フィードフォワード」ですね。

物ごとを振り返って「こうすべきだった」「ああすれば良かった」と改善点を探すフィードバックは大事なことですが、欠点への指摘を伴うという弊害があります。これに対し「フィードフォワード」は、未来に目を向けた具体的な変化を起こすことに重点を置くコミュニケーション手法です。

私は2018年ごろから、フィードフォワードについて企業で講演をしたり本を出したりしています。以前から「この発想は子育てで使いたい」と思い、子どもにどうやって伝えるのがいいのかを考えていました。

そんな中の18年12月に、都内の幼稚園で、親子のコミュニケーションに関する体験会を開く機会がありました。

フィードフォワードの考えを具体的にした質問を書いたカードを保護者が見せて、子どもが答えるという形式でした。

「今夜、何を食べたい?」「次の休み、どこへ行きたい?」 そんな感じの簡単な質問です。それをきっかけに会話をしていくのですが、最初こそ会話をせずに走り回っていた子どもたちが、未来に対する自分の思いを伝えようと真剣に会話に取り組んでいく姿を見て、「親子で学ぶというのはアリかも」と私自身が本気で思うようになりました。

――親子の会話を通じて、早いうちからフィードフォワードを知るのはいいことだと。

そうです。

確信したのは、メジャーリーガー菊池雄星選手に、試合後の気持ちの切り替え方に関するコーチングを始めたときでした。選手は、試合での結果がよいときには、その後の数日間を気持ちよく過ごし、結果が芳しくなかったときは数日間を悶々(もんもん)と過ごす、というのが一般的なようです。ですが、過ぎ去った過去は二度とやってこないのですから、私は終わった試合のことは一切忘れて次に向かった方がいいのではないかと思っていました。そこで、私は結果が良くても、そうでなくても、その試合を通して得られた成果についてだけ話をするようにしています。

次の試合に向かうために、どんなことを学ぶことができたかだけを話題にしているのです。

続きを見る
バックナンバー
新着記事
新着一覧
新着一覧

ページトップ

  翻译: