<連載> 今すぐできる終活講座

実家の片付けが家族への思いも心にしまう機会に

妻の実家が大変③

2024.12.06

 亡くなった義父の墓じまいに加え、脳梗塞(のうこうそく)に倒れた義母の入院費用をどうするかといった出来事から相続の実態を目の当たりにしたのは、終活や相続のスペシャリストの齋藤弘道さんです。今回は、思わぬ出費となる「入院セット」の支払いから、遺品整理や生前整理についてお伝えします。

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遺品整理と生前整理を自分たちの手で行うのは、なかなか大変な作業です (c)Getty Images

便利だが負担が大きい「入院セット」

  義母は医療行為が必要な状況ですので、介護施設ではなく「介護医療院(旧介護療養型医療施設)」というタイプの病院に入院しています。したがって、入院費用には介護保険ではなく、健康保険が適用されています。健康保険は本人(義母)の収入に応じて自己負担額が決まるので、収入が年金だけの義母は所得区分が一番下であり、最低額の自己負担額で済んでいます。

 ところが、パジャマ、タオル、歯磨きなどの生活用品をレンタルする「入院セット」については保険適用対象外で、全額が自己負担です。家族にとってはこうした物品を準備して病院に届けたり、持ち帰って洗濯したりする手間が省けますのでとても便利なのですが、1日あたり1,500円程度かかりますので、月間5万円近い支払いが必要となります。
 入院費+入院セット+食費を毎月、介護医療院に支払うことになりますが、義母の年金でなんとかギリギリ賄える計算です。

入院セットの現状

 ここで「入院セット」について調べてみたところ、以下のような状況であることがわかりました。

●元々はベッドシーツなどをクリーニングし貸し出すリネンサプライから発展した歴史があるようです。入院セットの提供は、特に長期入院の場合に、患者や家族の手間を省くことを目的としています。洗濯や衛生管理が病院と提携する事業者で行われるため、入院生活を送るうえでのストレスを減らす意図もあります。

●入院セットは通常、1日あたりの定額料金で提供され、月単位で請求されます。費用は1日あたり1,500円程度になることが一般的で、全入院期間にわたって加算されるため、長期になるほど費用負担が大きくなる場合があります。

●病院によっては、自前のパジャマや洗面用具を持ち込むことを認めず、入院セットの利用を事実上「強制」しているケースも見られます。感染予防の観点や衛生管理の効率化をその理由としているようです。

家を見てわかった、義母の認知機能の低下

 介護医療院の方は一段落しましたので、妻の実家の片付けに着手することになりました。ところが、妻からの話によると、次のような状況だったようです。

 妻が義母の家に足を踏み入れると、長年の生活で積み重なった物であふれており、歩くのも難しいほどの状態になっていました。特に衣類の多さが目立ち、部屋の隅々まで大小さまざまな服が山のように積まれていたのです。応接間だけは片付いていましたが、リビングや寝室、押し入れの奥、クローゼットなど、どこも衣類で埋め尽くされていました。

 義母は元々、物を大切にする人でした。物持ちがよいことはわかっていましたが、ここまで大量の衣類を抱え込んでいたとは妻も予想外だったようです。
 亡くなった義父の背広、孫であるわが家の娘たちが小さいころに来ていた服やおもちゃ、新品のままタグがついた服も多く見られ、きちんと整理されることなくただ積まれているその様子から、本人の日常生活の変化が感じられました。

 さらに整理を進めるうちに、妻は義母が似たような服を何度も買い足していたことに気づきました。デザインや色合いがほぼ同じものが複数あるのです。おそらく、何を買ったのか覚えていないのでしょう。
 義母は普通に話ができるのでこれまで気づかなかったのですが、実家のこの状況を目の当たりにして、妻は義母の認知機能が低下していたことを感じたようでした。

遺品整理と生前整理

 妻の実家には、亡くなった義父の物と義母の物が混在しており、義父の遺品整理と義母の生前整理を同時に行っているような状況です。
 片付ける物が大量にあるので、妻の体調が悪くならないか心配になり、「知り合いの遺品整理業者に依頼しよう」と提案したのですが、「ある程度は自分で片付けたい」と言うので、無理しない程度の条件付きで任せることにしました。

 私も週に1回程度、自家用車で自宅に物を運び、整理して捨てることを10回以上繰り返したのですが、終わりが見えません。やはり、来春には遺品整理業者に依頼することにしました。

 世の中には、家にあふれる物の片付けや回収を行ってくれる業者が多数ありますが、その中で「遺品整理業者」とは、遺族に代わって遺品の整理を行ってくれるプロのことを言います。業者によっては、「遺品整理士」という資格保持者が在籍しているところもあります。遺品整理だけでなく、生前整理にも対応する場合もあります。

 遺品整理業者の業務は物の片付けや仕分け、不用品の処分や回収などです。
 不用品回収業者と対応業務が似ていますが、遺品整理業者は片付ける物を不用品でなく遺品(家族の大切な物)とみなすため物の扱いが丁寧だと言われています。中には高額な追加請求を行うなどの悪質な業者もいるため、よい業者を見極めることも大切です。
 知り合いの遺品整理業者に尋ねると、次の手順で仕事を進めるそうです。

①見積もり:現場で物の状況を確認して見積書を提出。
②契約締結:遺品整理に関する契約書を作成・締結。利用者側は、「増員増量しても追加請求しない」という文言があることを確認すると安心です。
③買い取り:価値のある物は遺品整理業者に買い取りしてもらい、依頼費用を抑える。
④個人情報:溶解処理したうえで、その廃棄証明書を利用者に提示。
⑤お焚(た)き上げ:仏壇などは寺社で供養して燃やす。
⑥廃棄処分:行政のルールどおりに不用品を処分。
⑦完了報告:丁寧に拭き上げし、写真付きの作業報告書を提出。

 義実家にはこの後で遺品整理業者の手も入る予定ではありますが、妻は「まずは自分の手で片付けることができてよかった」と言っています。大量の物の中に隠れている、家族との大事な思い出の品を一つひとつ確認することで、亡くなった義父や、認知機能が低下して入院している義母に対する気持ちの整理をつけているようにも見えます。

 無理しない範囲で、妻の気が済むまで片付けができればよいと考えており、これからもできるだけサポートしていきたいと思っています。

 

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  • 齋藤弘道
  • 齋藤 弘道(さいとう・ひろみち)

    遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事

    信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の「全国レガシーギフト協会」)。2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

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