旅行中、東京・浅草の仲見世通りからホテルへと向かうタクシーの中だった。

 「兄弟は?」

 ハンドルをにぎる運転手の男性が話しかけてきた。

 「一人っ子はさみしいね」

 悪気はなかったんだろう。何げない世間話だったと思う。

 でも、後部座席にいた能美になさん(10)は、隣に座っていた母(39)の表情が忘れられない。

 困ったような、何とも言えない顔。

 母は旅行に行けば、積極的に現地の人とコミュニケーションをとる人だ。負けず嫌いなところもあるから、議論の場では反論したり、自分の意見をはっきり言ったりすることもある。

 その母が言葉を濁した。

 そんなに答えにくい質問だったのかな――。

 になさんは北九州市で母と2人で暮らす。それまでも母と出かけると、「2人だとおうちの中も静かでしょう」と声をかけられることがあった。

 もしかしたら、母はそのたびにあんな表情をしていたのかもしれない。でも、あまり気にしたことはなかった。

「一人っ子の私って、さみしいの?かわいそうなの?」

になさんは自分の気持ちを作文にまとめ、その作文はコンクールで最優秀賞を受賞しました。記事の後半で全文紹介します。

 実は、2023年3月に行った…

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