歴史
刺し身の普及とともに
加工わさびの原点となる粉わさびは、大正初期に考案された。静岡の茶仲買人が、生わさびをお茶のように乾かし、粉にして売ることを思いついた。だが、辛みや風味が飛んでしまう短所があり、辛みを補うために洋からしを混ぜて販売していた。
粉わさびは、料亭や旅館だけではなく家庭用も売れ行きを伸ばした。参入する業者が増え、1955年には全国粉わさび協会が設立された。洋からしを混ぜない粉わさびも69年に初めて発売された。
スーパーなどの量販店が増えると、刺し身がパック詰めされて売り場に並ぶようになっていた。すぐ食べられるように、あらかじめ粉わさびを水で練った「ねりわさび」の開発が進むようになった。
チューブ入りわさびを最初に売り出したのはエスビー食品だった。粉わさびを水で溶くと、普通の状態では2、3日しか風味が持たない。そこで、香料を副次的に配合しつつ、常温でも風味を数カ月保つ技術を独自開発して特許も取得した。
そして、87年にはエスビーが本わさびを使ったチューブわさびを発売した。より本物の本わさびに近づけて色やかたさの改良を進めている。エスビーはさらに、わさび原料を100%本わさびとした「本生 本わさび」を2009年に発売した。
技術
揮発しやすい辛みをいかに封じ込めるか。工夫を重ねる生産現場を訪ねた。
風味を閉じ込める
「これが液体窒素で冷やした容器です」。金印のオホーツク工場長、岡田貴裕さんが指さした直径約2メートルの金属容器は冷気の白い煙で覆われていた。金印が1973年に開発した、超低温すりおろし製法だ。マイナス196度の超低温ですりおろすことで酵素反応を止めて風味を閉じ込める。
原料の西洋わさびはサイコロ状にカットし、洗浄する。辛みを出来るだけ維持するために、洗い方にもノウハウがある。すりおろし方でも、消費者に好まれる「繊維感」を出そうと工夫している。岡田さんは「西洋わさびの良さを発揮して、辛みだけではなく、味・甘み・うまみを引き出す製品作りを目指しています」と話した。