新しい学校に入ったり、進級でクラス替えがあったり…これまでとは違う生活の中で不安を感じている中高生も少なくないでしょう。「学校に行きたくない」など、「5月病」にならないよう、親の声かけも重要になります。心療内科医の芦原睦さんに、親が言うべきではない「NGワード」についてお聞きしました。(写真=Getty Images)
「友だちはできたの?」と聞かないで
内向的な子どもを持つ親は、心配してつい、「新しい友だちはできた?」などと質問してしまいがちです。しかし、この問いかけは子どもにプレッシャーをかけているのではないかと私は思います。
不安定な道を進んでいる最中の子どもは、友だちはできたのか、まだできていないのかなど、イエスかノーでしか答えられないような質問を何度もされると、追い詰められてしまいます。心配する気持ちはとてもよくわかりますが、少し離れた位置から温かい目で新しい生活を見守ってほしいと思います
人に気を使いすぎると、友だちができにくい
新しい環境に入っていくときは、誰しも緊張するものです。人間は緊張しながらも、あいさつから始まって、日常的な雑談をするようになり、やがて個人的な話を交わすというふうに、徐々に対人距離を縮めて、関係を作っていきます。
しかし、そのプロセスやスピードにはかなり個人差があります。初対面でもどんどん声をかけてたくさんの友だちができる子もいれば、うまく人の輪に入ることができない子もいます。ざっくり言えば、社交的な人と内向的な人がいるということです。このことを心理学の面から少し掘り下げてみましょう。
心理学には、人づきあいをする際の自分の行動パターンを知るための「交流分析(エゴグラム)」という手法があります。「相手に好かれようとするとき」にとる行動には、心の中にある「FC:Free Child(自由な子ども)」の部分と、「AC:Adapted Child(適応した子ども)」の部分が出るとされています。
FCは、天真爛漫(てんしんらんまん)な子どものごとく明るく好奇心にあふれ、感情をストレートに出して、相手に注目してもらおうとするポジション。FCが高い人は、活動的で、「おはよう!」などと自分から周囲に声をかけることができます。一方、ACが高い人は、相手の顔色をうかがい、相手に合わせることで嫌われまいとするポジション。「すみません」が口癖の人は、ACが高い可能性があります。
FCが高い人は社交的ですが、ACが高い人はいわゆる奥手で、なかなか人となじめません。FCには我(が)が強いといった短所があるし、ACには従順で協調性があるなど長所もあって、どちらが良い・悪いではないのですが、友だちを作るということに関してはFCが高い人のほうが有利です。
「観察」がヒントになる
奥手だったり、他人に対してすごく気を使ったりするタイプの人は、実はたくさんいます。新しい環境で緊張する、なかなか友だちができないなどと我が子が悩んでいる場合、「自分の周りにいる人をまずは観察してみては」というアドバイスが有益です。
交流分析における「観察」は、冷静で客観的な心にスイッチを入れるということ。すぐに環境になじめる人や友だちを作れる人はどういう行動をとっているかを観察していると、大きな声で「おはよう! 元気?」とあいさつをしながら教室に入ってきたり、率先して自己紹介していたり……自分にはない、なるほどと思えるような行動をしているものです。
その行動の中から、自分にもできそうなことを取り入れてみるのです。いろいろまねしようとしても無理ですから、「ちょっとだけ」でOK。たとえば大きな声で全員に「おはよう! 元気?」と声をかけるのは難しくても、普通のトーンで周囲に「おはよう」と言うくらいなら、できるのではないでしょうか。この方法は、変わりたいけどどうしていいかわからない、人の輪の中になかなか入っていけないという子にとってはヒントになると思います。
ちなみに、うつ病や不安症のようにストレスが一因になって起きるメンタル不調で病院を受診してくるのは、周囲に気を使いがちな、ACが高い人が多い傾向にあります。AC、FCというのは「生き方の癖」みたいなものですから、うまく付き合っていきたいものです。
ただし、保護者としては「我が子の様子が、いつもとなんだか違う」という兆候は見逃さないでほしい。日常での単純なミスが多発する、勉強の能率が下がる、やめたい・休みたいといった言葉が出てくる……そんなときは危険信号です。躊躇(ちゅうちょ)せずにスクールカウンセラーや心療内科医などの専門家を頼ってみてほしいと思います。
【回答者】
芦原 睦(あしはら・むつみ)医師/芦原内科・心療内科院長、藤田医科大学客員教授。1987年藤田保健衛生大学大学院を修了後、東邦大学心療内科、中部労災病院心療内科部長、勤労者メンタルヘルスセンター長などを経て現職。著書に『心療内科がわかる本』ほか多数。
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