■就職に役立つ大学選び

商社は就活生にとっては人気の業界で、入るのは狭き門です。商社のビジネスはトレーディングだけでなく、最近は事業投資、イノベーション創出へと進化し、求められる人材も変わっています。各大学の商社への就職状況を調べ、大学選びのヒントを探りました。(写真=国際教養大学提供)

秋田県の国際教養大学(AIU)が商社部門2位に 

5大商社といわれる三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅の就職者の出身大学は、東大、京大、一橋大、早稲田大、慶應義塾大の5大学で6割を占めています。この傾向は20年以上変わっていませんが、卒業生に占める「商社への実就職率」という指標で見ると顔ぶれが少し変わります。

2022年の「著名400社 業種別実就職率」(大学院進学者を除いた卒業生、修了者のうち何人が就職したかを示すデータ。大学通信調べ)ランキングの商社部門で2位となったのが秋田市にある公立大学の国際教養大学(AIU)です。

世界ではローカルこそがメジャー

同大学では授業はすべて英語で行い、1年間の留学を義務づけています。4人に1人が留学生という国際色豊かなキャンパスは、「世界の縮図」ともいえる多文化共生空間です。複雑さが増す世界でリーダーシップを発揮できる人材を育てるため、学生には語学力だけでなく、幅広い分野を複合的に学ぶことを大学側は推奨しています。

また、特徴的なのが、実践の「場」の多さです。

大学での学びを表層的なものにとどめることなく、学んだ知識や技術を複合的に関連・応用させ、実社会に新たな価値を創造できる力を身につける「応用国際教養教育(Applied International Liberal Arts:AILA)」という教育手法を導入しています。

地元企業と連携して企業の問題解決を図る場や、海外提携校との課題解決型プロジェクト、国内外でのボランティア活動なども準備されており、多彩な実践の場がそろっています。こうした「場」が学生に与える影響について、キャリア開発センター長の三栗谷俊明さんはこう話します。

「秋田県は少子高齢化が顕著で、課題先進県ともいわれています。一方で、世界最大規模の洋上風力発電に取り組む最先端の県でもあります。東京へインターンに行くのもいいですが、秋田ならではの課題に向き合うことで学生は成長することができます」

世界を見渡せば、東京のような大都市は珍しく、課題が山積するローカルのほうが一般的といえます。世界を舞台にビジネスをする上では、ローカルの課題に向き合う経験は強みになるのです。

小規模な大学でコミュニケーション力を磨く

 三栗谷センター長は、最近の商社が求める人材像を「ロジカルに物事を考えられる人、多様性を受け入れられる人、そしてイノベーションの起爆剤となりうる人」と捉えています。そして国際教養大学には、多様な人とコミュニケーションをとり、新しい芽を育てるイノベーションの土壌があると言います。

その理由には、大学の規模も関係しています。同大学は1学年200人足らずで、学生の9割近くがキャンパス内の学生寮・宿舎で生活しているため、おのずとコミュニケーションが濃密になります。「仲のいい、悪いに関係なく、学生同士が接する機会の多い環境だからこそ、人といい距離感を保ってコミュニケーションすることが得意な学生が多い」というのが三栗谷センター長の分析です。

「異文化理解があり、語学力に優れた学生は、東京都内の名門大学にもたくさんいるはずです。しかし、同じ大学の卒業生ばかりを企業が採用していたら、組織は活性化しないでしょう。硬直した組織からはイノベーションは生まれません。個性のある人材として、本学の学生が企業には面白く見えているのかもしれないですね」

大学通信 情報調査・編集部の井沢秀部長は、小規模な大学の利点について次のように話します。

「一般的に小規模な大学であるほどST比(※)が低くなります。つまり、学生一人ひとりに教員の目が届きやすい環境になります。学生数の多い総合大学に魅力を感じる学生も多いと思いますが、勉学や就職活動に対する面倒見のよさや、充実した学生サポートなども小規模な大学ならではの強みでしょう」

※ST比=教員1人あたりの学生の割合

(写真=国際教養大学提供)

 

同大学が商社部門で実就職率2位となった背景には、「英語で学び、英語で考える力」を養うだけでなく、「国際色豊かな環境での濃密なコミュニケーション」や「社会課題解決を目指す実践的な取り組み」など、社会と関わる学びの機会があるからなのでしょう。

グローバル人材を育てる大学は、国際教養大学だけではありません。早稲田大学には国際教養学部があるほか、グローバルエデュケーションセンターでは、実践を通じてグローバルリーダーを育成する「実践型教育プログラム」を展開しています。またローカルな環境にありながら、企業の評価が高い大学には、立命館アジア太平洋大学(APU)があります。大学通信の井沢部長はこう話します。

「大分県別府市にキャンパスのあるAPUは、大都市から離れた場所でグローバルかつ複合的な学びを展開するという点で、国際教養大学に似た環境ともいえます。もちろん両大学にそれぞれの魅力がありますが、今後、より国際性や柔軟性が求められる商社への就職で、APUも注目の大学になりそうです」

都市部の大学を中心にした就職実績や大学の偏差値、ブランドイメージだけにとらわれると、大学選びの幅が狭まってしまいます。固定観念に縛られず、その大学で何を学べるのかという観点から、さまざまな大学を調べることが大切です。

 

2022年 著名400社 業種別実就職率 商社編(13社)

大学通信「大学探しランキングブック2023」から「2022年 著名400社 業種別実就職率」を一部引用。

 

【就職に役立つ大学選び】商社に強い大学(後編)はこちらから

 

(文=外山武史)

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