バイオリンの路上ライブで広がるカナダ留学 もっと自由な進路へ

2023/08/24

■海外へはばたく・つながる

関西学院大学の石原華さん(社会学部3年)は、大学の「英語中期留学プログラム」を利用して約4カ月間、カナダのクイーンズ大学で学びました。特技を生かしながら過ごした留学生活で得たものは、英語力だけではなかったようです。石原さんに聞きました。(写真=本人提供。右が石原さん)

「違う星に来たみたい」多文化主義の洗礼

――石原さんがカナダへの留学を決めた理由を教えてください。

幼少期から海外に憧れがあり、高校時代にドイツへ短期留学しました。カナダは多文化の国と言われています。英語力を伸ばしたかったのはもちろん、私は社会学部でメディア・コミュニケーション学を専攻しているので、そうした国で多様なものの見方を知ることは、学部の学びともつながると思いました。

1841年に設立されたカナダの名門、クイーンズ大学。オンタリオ湖畔にあり、豊かな自然も美しい(写真=本人提供)

――カナダは政策として多文化主義を打ち出していますね。留学先のクイーンズ大学はオンタリオ州キングストンにありますが、現地に行ってみてどうでしたか。

「街なかでは英語が飛び交っているんだろうな」と想像していたのですが、英語以外にもびっくりするぐらいたくさんの種類の言語が聞こえてきて、あまりの複雑さに最初は気分が悪くなってしまうぐらいでした(笑)。ホームステイ先はインド人ご夫婦の家で、食事はカレーなど、毎日インド料理。私のほかにウクライナ人留学生もいたので、家の中ではヒンディー語とウクライナ語、英語が入り交じっていて。「外国どころか違う星に来たみたい」と感じました。

――想像以上の多様性の中で、どんな日々を過ごしたのでしょう。

留学中はなるべく外に出て、いろいろな人と交流しようと決めていました。友達づくりは留学の大きな課題ですが、メキシコ人の学生とは親友と呼べるぐらい仲良くなりました。でも彼女が急きょ、帰国することになったのです。せっかく友達ができたのにと落ち込みましたが、これも意味があることかもしれないと思い直して、さらに交流を広げようと街に出ました。ダウンタウンでピアノやギターの路上ライブをしていたグループに「私はバイオリンが弾けるけど、一緒にやらない?」と声をかけたのです。

メキシコ人の親友と、クイーンズ大学のショーで演奏したときの様子。彼女とは今もビデオ通話でよく話している(写真=本人提供)

時差13時間に負けず、日本の生活も大切に

――バイオリンは石原さんの人生で重要なものの一つなのですね。

8歳から続けていて、大学でも部活動としてオーケストラ(関西学院交響楽団)に所属しています。カナダに楽器を持参していたこともあって、路上ライブを見かけるたびに気になっていました。快く仲間に入れてくれた彼らが偶然にもクイーンズ大学の学生で、そこからまた一気にコミュニティーが広がっていきました。ライブ仲間と一緒にプロが演奏するレストランに行ったとき、「私も加わりたい」と手を挙げて、即興で演奏させてもらったのもいい思い出です。

カナダの学生と即興で演奏。「Just the Two of Us」や「Let It Be」など親しみやすい曲目に、通行人が歌やダンスで参加することも(写真=本人提供)

――留学中は楽団の活動はどうしていたのですか。

楽団は休部していましたが、ミーティングにはビデオ通話で参加していました。13時間の時差があるのでカナダは夜中でした。バイオリンの練習はずっと続けていて、帰国して2週間後には演奏会に参加しました。今は次期部長として、約120人の部員とのコミュニケーションも大切にしています。

――カナダと日本の二重生活は、さぞ大変だったのでは。

留学もしたいし、部活動も頑張りたい。私はすべてをつかみたいというか、欲張りなんです(笑)。ただ、これは大学進学や留学を考える人に伝えたいことでもあります。大学には多くの選択肢や可能性がありますが、それは自分でつかみにいかないといけないものです。たとえ挫折してもあきらめる必要はないし、それが今後の人生の基盤になると思います。

――留学で得た「今後の人生の基盤になる」ことはどんなことですか。

私は留学前には、多文化に触れることで自分がおおらかになって帰ってくるのかなと想像していました。でも実際に留学を終えてみると、それだけではなくむしろ自分の軸ができて、言動に責任を持つことの重要さをより実感するようになりました。

これは実は、今回の留学の最大の目標でもありました。高校生の時のドイツ留学では、戦争のことや社会課題について話を振られても何も発言できず、それが悔しくて恥ずかしかったのです。そこで「英語力向上だけでなく、そうした議論を英語で躊躇(ちゅうちょ)なくできるようになること」を目指していました。まだまだ勉強中ですが、積極的なコミュニケーションを心がけてきたおかげで、気持ちの面ではだいぶ克服できたのではないかと感じています。

共に学ぶ学生の国籍や人種もさまざま。「若い人たちと過ごすとき、差別を感じることはありませんでした」と石原さん(写真=本人提供)

現地で気づいた、もっと自由なありのままの自分

――これからの進路についてはどう考えていますか。

カナダの学生と日本の学生との一番の違いは、描いている将来の可能性の幅広さです。日本では、大学を卒業したら就職か大学院進学かなど、わりと決まったルートがあります。でもカナダで出会った人たちの進路はもっと自由で、卒業したら旅行するという人もいました。私もありのままの自分でいいんだと感じたり、生きていくうえで大事なことは何かを考え直したりして、将来についての考え方にも影響を受けました。

帰国直前にも友人と一緒に路上ライブを敢行(写真=本人提供)

今は就職活動をしていますが、仕事をする上でも、新しい場所に順応する力や多様な立場で物事を考える視点など、留学経験で培ったものが役立つと思います。国籍や人種、性別はその人の本質には関係ないと実感しました。社会にはいろいろな考え方や立場があり、ぶつかることがあったとしても、そのことを自分の学びとして吸収できるようになったかなと思います。

それにカナダの多様なコミュニティーのなかで、世界中に友達ができました。この5月には、現地で仲良くなったタイ人の友人が私の実家に遊びに来てくれて、両親も一緒に楽しい時間を過ごしました。ほかにも再会を誓う約束がたくさんあって、これから先の未来も楽しみです。

(文=鈴木絢子)

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