「足首をひねったら氷水」…科学的根拠は? スポーツ科学で選手をサポート

日本大学スポーツ科学部競技スポーツ学科の小松泰喜教授

2023/09/17

■名物教授訪問@日本大学

日本大学スポーツ科学部競技スポーツ学科の小松泰喜教授は、スポーツ選手のリハビリテーション(ケガと故障後の競技復帰と競技力向上)を専門としています。スポーツ科学部では、スポーツの歴史からマネジメント、トレーニングやリハビリテーションなど幅広く学びます。トップアスリートも所属するこの学部では、どのような研究を行っているのでしょうか。小松教授は千葉ロッテマリーンズ・佐々木朗希投手の母校でもある岩手県立大船渡高校でピッチャーとして活躍し、肩を痛めた経験があります。高校生へのアドバイスも含めて小松教授に聞きました。(写真=本人提供)

足首をひねったら氷水で冷やせばいい?

サッカーやラグビーの試合で足首をひねった選手が、患部を冷やしている姿を見たことがあると思います。このアイシングは、小松教授が取り組んでいる研究テーマの一つです。

「腫れてくる前に冷やすという冷却療法は昔から当たり前のように行われてきましたが、どのくらいの温度で、何分くらい冷やすのが効果的なのかはわかっていません。氷水よりも水道水で長時間冷やしたほうが、もしかしたら治りが早いかもしれない。このように、当たり前とされてきたことに科学的根拠はあるのか、実験して数量的に明らかにしています

具体的には、病院で膝の手術を受ける患者さんに協力してもらい、冷やす温度と時間によって治るまでの過程がどう変化するかを調べようとしています。

筋肉が切れてしまう肉離れも、今までは冷やすのがいいとされてきましたが、冷やすことによって回復を促す炎症細胞の集まり方が鈍くなるという研究結果もあります。冷却療法の研究が進めば、スポーツの現場での処置は大きく変わってくるはずです。

競技復帰までの長い道のりをサポート

小松教授の専門は「アスレティック・リハビリテーション」です。トイレに行ったり、お風呂に入ったりという日常生活を支障なく行うことを目的とするメディカル・リハビリテーションに対して、アスレティック・リハビリテーションはスポーツ選手がケガをしてから競技に復帰するまでをサポートします。

「日常生活ができるようになってから競技復帰までが長いんです。競技復帰を100%とすると、日常生活ができるのはまだ40%程度の段階です。残りの60%は保険診療の範囲外になりますが、アスリートにとってはここがすごく大事だし、難しいのです」

身体の回復だけではなく、ケガをしたときと同じ動作を安全に少しずつ繰り返すことで、「またケガをするのではないか」という恐怖心を減らしていくことも大切です。

学生との陸上競技場での実験風景(写真=本人提供)
学生との陸上競技場での実験風景(写真=本人提供)

ケガをしやすい動作を調べて予防する

小松教授はケガの予防も重視しています。ケガを予防するためには、なぜケガをしたのかを綿密に調べることが必要です。

例えば、膝が内側に入るような動きをすると、ひねるような外力がかかって膝を痛めやすくなります。膝の動きには足首、股関節なども連動しているため、身体全体の動作や姿勢も見ていきます。最近の実験では、膝の靭帯を切ったことがある学生と、切ったことがない学生のジャンプの動作を比較しました。

「着地した瞬間の衝撃の吸収度に差がありました。こうした実験でケガをしやすい動作がわかったら、その動作をしないように、競技復帰までの過程で動作の反復や他の動作の習得をリハビリテーションとして行っていきます。予防に勝る治療はないと昔から言われていますから」

歴史からマネジメントまで幅広く学べるスポーツ科学部

小松教授は高校時代、千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手の出身校でもある岩手県立大船渡高校の野球部でピッチャーを務めていました。選手として自分自身が肩を痛めた経験から、スポーツ選手のケガや治療に関心を持つようになり、理学療法士の国家資格を取得しました。その後、病院勤務のかたわら、大学、大学院に入り、研究者になりました。

「私は先に理学療法士の資格を取りましたが、将来的にスポーツに関わって競技者を支援したいなら、まずはスポーツ科学部でスポーツの歴史やトレーニング、リハビリテーション、マネジメントなどを幅広く学んで、視野を広げてから資格に挑戦したほうがいいと思います」

実際、小松教授の研究室では、毎年何人かの学生が、卒業後に理学療法士の資格を取ってプロスポーツ選手のケアの仕事を目指しています。

スポーツ科学部の授業の様子(写真=本人提供)
スポーツ科学部の授業の様子(写真=本人提供)

競技者研究は多くの人の健康にも役立つ

日本大学のスポーツ科学部には、水泳の池江璃花子さん(2023年3月卒業)のようなトップアスリートが学年に数人在籍し、競技団体との接点も持ちやすい環境です。

「大学は自ら学ぶ場なので、ただ授業を聞いているだけとか、言われたことをやるだけではなく、自主的に学んでほしいですね。競技者の研究という、いわば尖った分野の研究成果は、アスリート以外の人のケガの治療にも活用されていきますから、多くの人の健康にも役立つことができます

言葉や数字で説明できない世界を解明する面白さ

では最後に、スポーツ科学の魅力はどんなところにあるのでしょうか。

「野球の大谷翔平選手が時速160キロのボールを投げたとき、ホームベース上を通過する時間はわずか約0.4秒です。バットを振るには0.5秒かかるのに、なぜ打たれるのか。実は大谷が振りかぶって投げようとしたときに、バッターの脳はもう指示を出しているんです。

このように、スポーツには言葉や数字で説明できないこと、まだわかっていないことがたくさんあります。そこを突き詰めていくのは面白いし、世の中のためにもなるのではないかと思っています」

卒業式の日にスポーツ科学部の学生と
卒業式の日にスポーツ科学部の学生と(写真=本人提供)

小松泰喜(こまつ・たいき)/日本大学スポーツ科学部競技スポーツ学科教授。専門はアスレティック・リハビリテーション。理学療法士、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。1989年、理学療法士の資格を取得。病院勤務のかたわら、信州大学大学院工学系研究科生物機能工学後期博士課程修了。その後、東京大学大学院教育学研究科特任研究員、東京工科大学教授などを経て、2016年から現職。

(文=仲宇佐ゆり)

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