■親のための学部・学科講座

2000年代に全国で薬科大学や薬学部の新設が相次ぎました。薬剤師の数も増加し、近い将来、薬剤師過剰時代が来ると言われています。しかし、地方では相変わらず薬剤師が不足しており、薬剤師の偏在が課題になっています。そうしたなか、地方の薬科系大学は地元で働く薬剤師を育てようとしています。地元で勤務すれば、奨学金の返済が免除される制度もあります(写真=青森大学提供)

青森県など12県は、将来も薬剤師が不足

薬学部が急増したことで薬剤師が余る恐れがあり、文部科学省は2025年度以降の6年制薬学部の新設や定員増加を認めない方針を出しています。ただし、例外として、薬剤師不足の県は、新設・定員増が認められます。

厚生労働省が公表した「地域別薬剤師偏在指標」によると、36年度に薬剤師が不足すると予測されるのは、青森、山形、群馬、富山、福井、愛知、岐阜、三重、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の12県です。このうち青森と、群馬(高崎健康福祉大学)、富山(富山大学)、愛知(名古屋市立大学など)、岐阜(岐阜薬科大学など)、三重(鈴鹿医療科学大学)、宮崎(九州保健福祉大学)には、薬学部を持つ大学があります。

36年度に薬剤師が不足すると予測される県の一つ、青森県にキャンパスがある青森大学薬学部の水野憲一学部長はこう説明します。

「現段階で病院の薬剤師は全国的に不足していますが、47都道府県中、青森県は最下位です。青森県は病院よりも就職希望者が多い薬局の薬剤師も不足していて、『36年度も不足している状況は続く』と予測されています」

東北地方には、宮城県は東北大学と東北医科薬科大学に、福島県は奥羽大学と医療創生大学に薬学部がありますが、北部は青森大学と岩手医科大学のみ。秋田県と山形県にはありません。

「東京など都会の大学を卒業した薬剤師が地方に就職することはほとんど期待できません。地方の薬剤師不足の最も効果的な解決策は、地元の大学で薬剤師を育てて地元に根付いてもらうことだと考えています。本学が04年に薬学部を新設した理由の一つが、地元の薬剤師不足を解消することでした」(水野学部長)

青森大学薬学部の学生は約7割が青森県内出身者で、残りの3割も近県の出身者が多くを占めています。

問題解決力のある薬剤師を養成

06年度入学者から、薬剤師試験を受験するために必要な修業年限が4年から6年に延長されました。国立大学を中心に研究者養成のための4年制課程を併設している大学もありますが、私立大学の多くは6年制に一本化しています。

青森大学も4年制の医療薬学科を6年制の薬学科に改組し、国家試験に向けて補習講義などさまざまな受験対策を盛り込み、薬剤師養成に力を入れてきました。薬剤師免許を取得した卒業生のほとんどは薬局や病院に就職しています。

一方で研究活動も重視し、4年次から全員が研究室に所属して卒業論文を完成させます。水野学部長は「研究活動は、研究者をめざす人だけでなく、薬剤師として働く人にとっても欠かせない」と話します。

「卒業研究は何かを発見するというよりも、『研究活動を通して論理的な思考力や問題解決能力を身につける』という意味合いが強いです。研究活動を経験することで、薬剤師として働く現場で何かトラブルが起きたときやわからないことが出てきたときには、自ら調べ、解決につなげる行動をとれるようになっていきます」

高校生を対象とした薬剤師体験セミナーの様子(写真=青森大学提供)

6年間学び続けるには手厚いサポートが不可欠

薬学部は通常の学部よりも学ぶ期間が長く、学ばなければならない分野が多岐にわたります。薬剤師試験に向けた勉強や研究など、学生の負担は少なくありません。青森大学では、「1学年の定員が全国の私立薬科系大学の中で最少の50人」という特徴を生かし、一人ひとりに応じたきめ細かなサポートを行っています。

担任制を取り入れていることもその一つです。教員1人が7~8人の学生を担当し、学力到達度の確認だけでなく、学生生活の支援もしています。また、学習を総合的に支援する薬学教育センターを設置し支援態勢を整えています。

「最近は学校推薦型選抜や総合型選抜など、一般選抜を経験せずに入学してくる学生も増えています。そうした学生は、薬剤師になりたいという思いが強く、まじめで一生懸命勉強する人が多いですが、一般選抜で入った学生に比べると効率的な勉強法がわからなかったり、要領よく理解できなかったりすることが少なくありません。入学時の成績よりも2年までの低学年のうちにどれだけ伸びるかが、国家試験の結果に結びついているので、早い段階からしっかりサポートするようにしています」(水野学部長)

少人数教育ならではのきめ細かな対応や教員との距離の近さは、学生にも好評です。県外の薬科大学から青森大学に編入した学生は、こう話します。

「前に通っていた大学は1学年の学生が200人以上いたので、先生に自分の名前を覚えてもらうこともなかったし、声をかけられることもありませんでした。青森大学は先生との距離が近く、気軽に声をかけてくれるので、親しみを感じています」

また、高校時代にあまり理系科目が得意ではなかったものの、薬剤師をめざして入学した女子学生は、薬剤師試験に合格して無事に卒業しました。「理系科目を修得するのに苦労しましたが、手厚いサポートがあったので、何とか6年間を乗り越えられたと思っています」

7割以上が地元の薬局や病院に就職

青森大学薬学部の卒業生は、北東北の出身者の7割以上、北海道や南東北の出身者も約7割が地元へ戻って就職しています。

地方の薬剤師不足は深刻で、薬局や病院は何とか薬剤師を集めようと給与を高めに設定していることが多いです。また、6年制なので学費の負担が大きくなりがちですが、卒業後にその地の病院や薬局に勤務すれば返済が免除される奨学金制度を設けている地域もあり、本学の学生も利用している人が多いようです」と水野学部長は語り、次のように続けます。

「地方ではまだまだ薬剤師が活躍する場はたくさんあります。しかし親に勧められたからとか、文系よりも就職が有利そうだからといった理由で入学すると、勉強を続けるのが難しくなってしまいます。なぜ薬剤師になりたいのか、どういう薬剤師になりたいのかを自分自身でしっかり考えて、薬学部を選んでほしいと思います」

(文=熊谷わこ、写真=青森大学提供)

 

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