関西学院大学は5年後に新キャンパスを開設 大学改革は今後、どうなる? 森康俊学長に聞く

2024/05/24

■学長インタビュー 「リーダーが語る10年後の大学」

大学のキャンパスを再編や移転する動きは、関東では中央大学や法政大学など様々な大学が取り組んでいます。そんな中、関西学院大学は、創立140周年に合わせた新キャンパスの開設や、既存キャンパスの整備を相次いで発表しました。2024年度の入試では志願者数がほぼ半世紀ぶりに5万人の大台を超えて、学生数も増加しています。今後はキャンパスや学部をどう再編しようとしているのか、入試戦略をどうとらえているのかなど、森康俊学長に朝日新聞「Thinkキャンパス」総合監修者の中村正史が聞きました。

2つのキャンパスを刷新

――関西学院大学は1995年に開設した神戸三田(さんだ)キャンパス(兵庫県三田市)をどう活用するかが長年の課題になっていました。2029年に新たに神戸市灘区に王子キャンパス(仮称)の開設を目指すことを、昨年に発表しています。キャンパスをどう再編しようと考えていますか。

三田の用地を取得する際は学内で議論がありました。慶應義塾大学が湘南藤沢キャンパス(SFC)を1990年に開設した流れもあり、西宮上ケ原キャンパス(兵庫県西宮市)の教員たちが新しく学際的教育を実現するフロンティアとして三田に打って出ようと、総合政策学部が開設されました。理学部も2001年に上ケ原から三田に移りました(翌年、理工学部に名称変更)。

近年は首都圏でもキャンパスの都心回帰の動きが強まり、受験生が大学を見る軸が変わっています。教育、研究に加えて、キャンパスへのアクセスや周辺のアメニティ(快適性)が求められるようになり、その点で神戸三田キャンパスは厳しい状況が続いていました。

そこで19年に神戸三田キャンパスのコンセプトとして「Be a Borderless Innovator ~境界を越える革新者たれ~」を定め、21年に理工学部を再編して、理学部、工学部、生命環境学部、建築学部を新設し、総合政策学部と合わせて5学部体制になりました。4月に記者発表しましたが、25年4月には、近接地に起業の拠点となるインキュベーション施設と学生寮(300人収容)、それにフィットネスジムのある商業施設を併設する「KSC Co-Creation Village【C-ビレッジ】」を開設します。欧米の大学のように24時間、研究に関われるようになり、また起業した卒業生たちを講師として招きます。

――王子キャンパスを開設する狙いは何ですか。

神戸市灘区の王子公園周辺は、関西学院の創立の地です。神戸市が再整備計画の中で大学誘致を募ったことに対して、23年4月に学長就任後、前学長から引き継ぐ形で、応募しました。今年度中には、神戸市と土地譲渡契約を交わす予定です。

王子キャンパスを開設予定の29年は、関西学院創立140周年にあたります。新神戸駅からタクシーでワンメーターという、これまでにない地の利と環境に恵まれています。海外の研究者も来やすく、世界に開かれる大学に飛躍する機会をこのタイミングでもらったと受け止めています。

神戸三田キャンパス(5学部)をさらに発展させつつ、西宮市にある上ケ原キャンパス(8学部)と聖和キャンパス(1学部)、それに開学の地に新しくできる王子キャンパスとなります。

――王子キャンパスの開設が29年4月なら、あと5年しかありません。

王子キャンパスの学生数の最終目標は4000人で、どういう教育組織にするのか、具体的に詰めているところです。

――それぞれのキャンパスの性格付けが必要ですね。

上ケ原キャンパスと聖和キャンパスは人文社会系、神戸三田キャンパスは理工系、王子キャンパスは学際系を考えています。王子キャンパスは留学生を2割(800人)にするのが目標です。王子キャンパスでは、東アジアをはじめ東南アジアや南アジアからの留学生向けに、英語で学位を取得できるような体制を目指していきたいと思います。

――キャンパス再編は学部の再編とリンクします。

学部再編にはポイントがあります。学際系の学部をどう整えるかが、各大学の課題になっています。一方で、ディシプリン(学問領域)が確立しており、歴史を積み重ねてきた分野をどのようにPRするかも大切です。

例えば、受験生からよく「経済学部と商学部では学ぶ内容がどう違うか」という質問を受けます。もちろん学ぶ内容は異なりますが、受験生にはわかりにくい。細分化した学問をどう束ねて、自分の将来に関わることとして理解してもらうかが大事です。

――政府が進めているグリーン(脱炭素)、デジタル分野の学部は考えていますか。

グリーン、デジタル系の学部を本学ならどう実現できるかも検討しています。理工学研究科はJAXA(宇宙航空研究開発機構)と連携大学院協定を結んでおり、宇宙に関わる研究を行っています。あくまで個人的な思いつきですが、気象学を冠に付けた学問分野ができないだろうかと考えます。工学部は、生成AI(人工知能)が社会に入り込んできたので、情報科学を切り出すことも時代の流れかもしれません。

理工学部を21年に4学部に再編しましたが、これを第一幕とすれば、これからが第二幕です。文部科学省のグリーン、デジタル分野への助成金にも申請することも含めて、本学の理工系の強みをどう発展させるか考えています。

他大学ではデータサイエンス系の学部設置が相次いでいますが、どの学部であれ、それぞれの対象に応じたデータ分析についての教育をさらに発展させる必要があると考えています。

志願者数が増加した理由は?

――次に入試戦略についてお尋ねします。関西学院大学の24年度の志願者は5万2624人で、過去最高だった1975年(5万4157人)に次ぐ数字となり、49年ぶりに5万人の大台を超えました。この理由をどう考えていますか。

 受験生ファーストの視点でいろんな入試方法を導入して学内併願をしやすくしたほか、試験会場を増やしたり、京都市内でも京都駅の近くに設置したりしたことです。志願者数は20年度(3万3209人)を底に増加に転じ、24年度は20年度に比べて58%も増えました。志願者全体も増えていますが、実志願者(複数学部の併願を1人と数える)も増えています。

――神戸三田キャンパスの理工学部を21年に4学部に再編したことで、志願者が増えたことが大きいのではないですか。

それもあります。神戸三田キャンパスの志願者は再編以降に増え、24年度は総合政策学部を含めた5学部で1万7328人と、20年度の理工学部と総合政策学部を合わせた8744人からほぼ倍増しています。

――関西学院大学は一時期、指定校推薦などの合格者が増え、一般入試が減ったことが批判の対象になりました。

私立大学の定員厳格化で指定校推薦の入学者が増えた時期がありましたが、20年度から一般入試の入試改革もあり、志願者数は増加しました。現在は一般選抜の入学者比率が54%になっており、推薦入学者が多数を占める状況はなくなっています。

――国の入試改革を通じて知識偏重型の入試が批判され、最近は総合型選抜や学校推薦型選抜の年内入試が広がっています。一般選抜比率を高めた意図は何があるのでしょうか。

一般選抜か年内入試かということが論点になっていますが、本学は多様性、多種多様な入試制度でいろいろなバックグラウンドを持った生徒に入学してほしいと考えています。総合型選抜も受験者を多面的・総合的に評価する選抜として優れていますし、本学は高校での探究活動を評価する「探究評価型入試」を他大学に先駆けて実施しています。バランスを考慮して一般選抜の割合を引き上げたということです。

――最近は幅広く学ぶことが求められていますが、関西学院大学は早くから副専攻や4年間で2つの学位を取得するマルチプル・ディグリー制度を取り入れています。

学生は基本的に所属学部の学びに加えて他学部の授業を履修できるようになっています。マルチプル・ディグリー制度(MD)は、本学が日本で初めて導入した画期的な制度で、例えば法学部の履修を3年で終えて商学部の学位も取るといったことができます。勉強が大変なのにもかかわらず、実際の修了者は複数分野専攻制(MS)を含めると毎年40~60人います。

――これからの日本の大学に必要なことは何でしょうか。

国公私を問わず、教員、職員とも細分化された専門的な役割を担うことが求められると思います。例えば、私の場合は一教員から学長の立場になり、今は学生に直接教えることはなくなり、マネジメントに専念しています。教員とか職員といった単純な区分ではなく、教員であれば、研究のみで教育に携わらない教員とか、教育力だけで採用する教員とか、専門分化する必要があるかもしれません。新しい大学の姿を教員、職員がそれぞれ自らの課題として考えていかなければなりません。

プロフィール
森 康俊(もり・やすとし)/1967年生まれ、大阪府出身。大阪市立大学法学部卒。東京大学大学院社会学研究科修士課程修了、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。関西学院大学社会学部教授、同大先端社会研究所所長、社会学部長などを経て、2023年4月から現職。

(文=中村正史、写真=MIKIKO)

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