【大学トレンド】「スマホが学生証に」「入学式の出席確認はQRコードで」…キャンパスライフを変えるDX最前線

2024/03/27

コロナ禍で大学のオンライン授業やリモートワークのニーズが一挙に高まり、デジタル技術を用いたDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されるようになりました。授業だけではなく、大学の様々な手続きでもデジタル技術の重要度は増し、キャンパスライフは変化しています。(写真=追手門学院大学提供)

スマホにすべてが

追手門学院大学では、学生生活が便利で快適になるスマホアプリ「OIDAI(オイダイ)アプリ」を2023年9月にリリースしました。このアプリによって、学生はスマートフォン一つで時間割や教室を確認したり、補講・休講・教室変更の通知や大学からのお知らせを受け取ったり、メモやToDoを残せたりと、学生生活に必要なあらゆる情報に簡単にアクセスできるようになりました。スマホがあれば、手のひらの中で大学情報のすべてを見ることができます。

OIDAIアプリのイメージ

心理学部3年の倉田茜梨さんは、「アプリの使い勝手は想像以上」と絶賛します。

便利なのは、いろいろなシステムにシングルサインオン(一度の利用者認証で複数のサービスを利用)できるようになったことです。これまではリポートを提出するとき、レジュメを受け取るとき、休講情報を見るときはそれぞれのシステムにログインする必要がありましたが、アプリなら一度の認証ですべてにアクセスできます。また、キャンパスから最寄り駅までのバスがいつ来るかがすぐにわかる時刻表機能も活用しています。日々のことなので、アプリの効果はかなり大きいと感じています」

「実は、当初はアプリを使うつもりはなかったんです。大学が作ったアプリなんて本当に便利なの?と、なんとなく信用できない気持ちがありました」と倉田さんは言います。

しかし、周囲の友達から「思ったよりも使いやすいから、入れたほうがいいよ」と勧められ、半信半疑でアプリをインストールしました。今は毎日愛用していますが、それゆえに改善を望む点もあります。

「学食の日替わりメニューが、その日に行ってみるまでわからないんです。4月から4年生になりますが、おいしくて大好きな食堂に卒業までにたくさん通いたいので、アプリで日替わりメニューがわかるといいです。授業がなくても大学へ行く理由になるかもしれません(笑)」

こうした食堂に関する学生の要望は、すでに大学側に届いていて、食堂での利活用も検討されています。

QRコードで入学式に

CXデザイン局の渡辺圭祐事務局長は「従来のプラスチック型の学生証の代わりとして使えるQRコード『OI-PASS機能』を用いて、さらなる進化を目指します」と話します。

「現在は授業の出席確認などをプラスチック型カードの学生証で行う大学が多いですが、このカードを他のシステムでも使うには、専用の機器やシステムを設置する必要があります。一方、QRコードならスマホのカメラなどを介していろいろなシステムと容易につなげられるので、証明書発行機や授業の出席を管理する際にも使えます。今後は、学内での決済や図書の貸し出しなどにも導入を検討していく予定です」

DXを推進する大学の姿勢を感じてもらうため、同大学では入学式の出席確認もQRコードの読み取りで行います。「ピッ」とスマホをかざして大学生になるという、新時代の儀式です。

スマホのカメラなどを介していろいろなシステムとつなげられる

「学生ファースト」で

渡辺事務局長は、大学のDXを進めるに当たって直面する課題を三つに分けて説明します。

「課題の一つ目は、本来は学生ファーストであるべきなのに、改革が学生のためではなく、教職員のためのものになってしまいやすいことです。『学生に対応すること』が当たり前の仕事なので、今までは『学生に感謝される』ことを価値として追求していたかもしれません。この考えに軸足を置いたままでは真の学生ファーストにはなりません。学生が窓口に相談に来たら、職員はもちろん全力でサポートします。でも本来は、困りごとが発生しないのが一番なんですよね」

二つ目は、教務や学部などが細かく分かれた縦割り組織の中で、さまざまなシステムが乱立していたことです。同大学ではまず職員のマインドチェンジにじっくり時間をかけたうえで、各部署の若手・中堅職員がCXデザイン局に集まって統合的なデータベースを整備するなど、全学一丸となって一元化を目指しています。「学生はアプリから学内のあらゆる困りごとについてのFAQを閲覧できるので、困りごとの8割は窓口に来ることなく解決されるようになっていきます。これにより窓口では、本当に困っている学生の相談にしっかり時間をかけることができます。学生支援課の職員からも、相談の内容や求められるサポートがより深いものになってきたという声が上がっています」

学生の成績や就活をデータ分析

三つ目の課題は、教育現場のデジタル化のメリットであり、懸念でもあります。

今後は保護者の方もアプリを使えるようにすることで、学生の成績や授業の出席状況などを共有することも可能です。またアプリを使うことで膨大なデータが集まるため、例えば学食でバランスのいい定食メニューを食べている学生ほど成績が優秀などと、学食のメニューと成績との相関なども分析できるかもしれません。

ただし、思想や信条が表れる図書館の貸し出し履歴は保護されるべきだし、学生の行動や成績情報をどこまで保護者と共有するかという課題もあります。これまでなかった技術で想像以上のデータを集められるので、未知の課題が出てくるのは当然のことです。

 だからといってDXを進めないという選択肢はもはやないでしょう。メリットのほうが圧倒的に大きいからです。成績優秀者や就職活動が順調な学生の行動傾向などは、有益なデータとして分析し、学生に還元していきたいと思います

追手門学院大学茨木総持寺キャンパス

大学のDXが学生生活にもたらす効果は実にさまざまです。例えば、立命館大学では、京都・大阪・滋賀のそれぞれのキャンパスをVRでリアルに体験できる「VRキャンパスウォーク」を公開し、自宅から遠くてオープンキャンパスに行けない高校生が、リアルに現地を歩いているような体験ができるシステムを取り入れています。九州大学伊都キャンパスでは、アプリを使った予約でキャンパス内外に37カ所あるどのバス停からでも乗車できる、オンデマンドバス「aimo(アイモ)」を導入。AIがアプリのオーダーを分析して、複数の学生が乗り合わせた場合にも最適なルート・順番で学生を目的地まで送り届けています。

このような環境で過ごした学生たちは、卒業後、DXに関して「周回遅れ」ともいわれる日本の現状を変えてくれるかもしれません。

(文=鈴木絢子、写真=追手門学院大学提供)

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