就活の面接、対話型AIで練習 理系学生は3Dアバターと「技術面接」も

2024/07/22

■特集:令和のキャリア教育・シューカツ事情

就職活動の企業との面接では、大学時代にやってきた活動をわかりやすく語ることが大切です。そこで、対話型AIを使って面接の練習する学生が増えてきています。中央大学では、OBが開発した「生成系AIによる就活面談練習システム」を導入し、理系学生の面接練習に活用しています。(写真=中央大学の就活面談練習システム「Chu活〈チューカツ)ボット〉の画面、中央大学提供)

「研究内容の深掘り」が必須

就職活動では、就活生の能力や人柄を知るために面接が重視されています。中央大学理工キャリア支援課の五十嵐星汝(せいな)課長は「理系と文系では対策がやや異なる」と話します。

面接では、企業側はコミュニケーション力や協調性を重視する傾向があります。文系学生の面接では、志望理由や自己PR、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)といった質問が多く、面接担当者はそのやりとりを通して学生の資質を判断するのが一般的です。

これに加えて、理工系学生が技術職や研究開発職への就職を志望する場合は、専門分野や研究内容についても聞かれる傾向があります。こうした理系特有の面接は「技術面接」として知られています。
「学部生はまだ研究が本格化していない時期なので、これから取り組みたい研究テーマや、これまでに学んだ内容について質問されることが多いようです。一方、大学院生の技術面接では、研究活動のことを主に質問されます。技術系の面接担当者が深掘りしてくるので、しっかり対策をする必要があります」(五十嵐課長)

中央大学では、その対策の一つとして、「技術面接セミナー」を実施してきました。企業の研究開発分野で第一人者として活躍している先輩や、責任者ポストに就いている理工学部・研究科出身の卒業生が面接担当者役となり、模擬面接を行います。

画期的な時計の長寿命化を実現し「科学技術分野の文部科学大臣表彰」で科学技術賞を受賞した、赤尾祐司先輩による技術面接指導の様子(左)と、技術面接セミナーにおける模擬面接の様子(右)(写真=中央大学提供)

「本番に即した練習ができるだけでなく、面接後に直接指導が受けられるので就活生には好評です。ただ、日程や回数が限られているため、対応が十分とは言えません。また、面接に慣れていない学生は、卒業生の面接を受けても緊張してよくわからないまま終わってしまうこともありました。そこで2024年4月から、面接に不慣れな学生の初期対応として、生成系AIを使った就活面談練習システム『Chu活(チューカツ)ボット』を、理工学生を対象に導入しました」(同)

技術面接をよく知るOBが開発

「Chu活ボット」は、23年に同大学大学院理工学研究科を修了後、会社勤めをしながら副業として知人とAI関連企業を立ち上げ、その主任研究員も務める水谷林太郎さんが開発しました。AI技術を組み合わせることによって、3Dアバターの面接担当者を相手に、模擬面接を受けることができます。

「Chu活ボット」には、2つの大きな特徴があります。1つは、志望理由や自己PR、ガクチカといった一般的な質問内容だけでなく、技術面接に対応できること。2つ目は、一方的に質問を投げかけるのではなく、質問に対する学生の回答を傾聴しながら、対話を進めるようにプログラムされていることです。回答に合わせて、アバターがその内容を深掘りする質問を次々と繰り出していきます。

デモ動画では、例えば次のように会話が進められていきます。

就活生:学んできた知識を生かして、システムエンジニアとして、社会のインフラとなるようなシステムを作りたいと考えています。

Chu活ボット:具体的にどのようなシステムを作りたいと考えていますか。

就活生:私が特に興味があるのがチャットボットです。なぜなら私は大学院でマルチモーダル対話システムの研究をしてきたので、その知見を生かせるのではないかと考えているからです。

Chu活ボット:その研究で得られた知見を、どのようにチャットボットの開発に生かしたいと考えていますか。

面接が終了すると、すぐに「コミュニケーション力」「問題解決力」「知識獲得力」「組織的行動能力」「創造力」「自己実現力」「多様性創発力」の各項目の結果がフィードバックされます。さらにコミュニケーション力であれば、傾聴力、読解力、記述力、提案力、議論力と項目を細かく分け、それぞれが5点満点で評価されます。

そして「異なる分野の専門家との交流やコラボレーションの機会を増やす」「新たな技術やトレンドに対する情報収集を強化し、それを自身の知識やプロジェクトに適用する方法を考える」といった次にすべきアクションを示してくれることも、Chu活ボットの大きな特徴です。

面接終了後のフィードバック画面(YouTubeチャンネル「チャットボット開発室 Chatbot Development Lab」から)

こうしたフィードバックや面接の対話履歴は、すべてテキストデータ化されるため、振り返りにも役立ちます。

五十嵐課長は「本学では、学生のコンピテンシー(=社会で活躍するために必要な力)として『コミュニケーション力』や『問題解決力』といった7つのカテゴリーで31個のキーワードを設定し、各キーワードにレベル0からレベル5までの評価基準を設けています(理工学部では、これに学科別の『専門性』が加わります)。開発者の水谷さんは、この大学が作ったコンピテンシーとAI技術を組み合わせることによって、就活生にとって自己の振り返りが簡単にできる機能を盛り込んだシステムを生み出してくれました」と話します。

面接に慣れていない学生はまずChu活ボットで予行練習を行い、そのうえでキャリアコンサルタントや技術系で活躍している先輩リクルーターなどの模擬面接を受けることで、より効率的な面接練習が期待できるといいます。
「Chu活ボットは、聞かれたことにすぐに答えるスキルを高めることに加え、自分の弱点を強化するのにも役立ちます。今後は、現在は対面でしか利用できないChu活ボットのオンライン利用や、エントリーシートの添削サービス等の対応についても検討していきたいと考えています」(五十嵐課長)

民間のAI面接練習サービスも人気

AIを相手に採用面接の練習ができるサービスやアプリは民間企業からいくつか登場していて、それらを導入している大学もあります。

文系・理系を問わず複数の大学が導入しているのが、株式会社タレントアンドアセスメントが提供する対話型AI面接サービス「SHaiN(シャイン)」です。このサービスは、科学的根拠に基づく戦略採用メソッドをもとに、AIが人間の代わりに採用面接を実施するというものです。教育機関向けプランでは、回答内容が記載されたフィードバックレポートを提供してもらえるうえに、学生は自身のスマートフォンやタブレットを用いて、24時間365日いつでもどこでも面接の練習ができることから、福井大学、富山国際大学などが導入しています。

21年に面接評価サービスのない教育機関向けプランを導入した福井大学(2024年7月現在は評価サービスのあるプランを利用)では、学生から「質問に対して掘り下げた回答を何度も求められるため常に気が抜けず、とても緊張した。でも、面接結果のレポートによりフィードバックがあるので、自分の弱かった点を知り、本番までに十分な対策を取ることができた」などの感想が寄せられています。大学側は、この利用によって、学生がより自分を知り、より自信を持って厳しい就職活動に臨む一助となることを期待しているようです。

対話型AI面接サービスSHaiNの利用イメージ(写真=タレントアンドアセスメント提供)

最近は面接などでAIを使う企業が出てきているため、AIによる面接練習に慣れておくことは、実際の就活でも役立ちそうです。採用面接は学生にとっても自分のことを企業側にわかってもらう貴重な機会です。さまざまな練習手段をフル活用して本番に臨みたいものです。

 

>> 【特集】令和のキャリア教育・シューカツ事情

(文=熊谷わこ)

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