■特集:多様化する年内入試
最近の大学入試では、一般選抜よりも総合型選抜や学校推薦型選抜で合格するケースが増えています。「総合型選抜(AO入試)って、一芸入試みたいなものでしょう?」などと考えているとしたら、それはちょっと古い思い込みです。総合型選抜とはどんなものなのか、そして準備期間が短くても間に合うものなのか、解説します。(写真=Getty Images)
100日間での合格には、戦略が大事
総合型選抜と公募推薦に特化した塾、ホワイトアカデミー高等部で講師を務める竹内健登さんに聞きました。ずばり、100日間で総合型選抜の合格を勝ち取ることはできるでしょうか。
「結論から言えば、正しい戦略があれば、100日間で間に合います。もちろん多くの条件がありますが、短期間での挑戦は十分に可能です」
ホワイトアカデミー高等部では、高校3年の6〜8月にかけて入塾する生徒も多く、多くの親子が同じように「まだ間に合いますか」と尋ねるそうです。
「この時期に駆け込んでくる人の半数は、適切に対策すれば合格できるポテンシャルのある人たちです。事前に大学の資料などを読み込んでいて、子どものレベルも理解したうえで来るからです。一方、残りの半分は、そのままではちょっと難しいという人たちです。しかし、このうちのさらに半分は、戦略的な取り組みが実れば合格できます」
では、「戦略」はどのように立てればいいのでしょうか。そこには2つのポイントがあると竹内さんは言います。その1つ目は「行きたい大学・学びたい学問」ではなく、自分の得意分野やこれまでに積み重ねてきた実績を評価する入試を選ぶことです。
「例えば、慶應義塾大学文学部の自主応募推薦入試は、現代文が試験の大きな比重を占めます。そのため、現代文が苦手な子よりも得意な子のほうが勝率が高いわけです。ほかにも、国際系学部は選考に占める英語力の比重が大きいですし、理工系であれば理数系科目試験の比重が大きいです。また、理工系は工作・実験経験も高く評価します」
低倍率学部・学科で勝負するのも手
では、もう一つのポイントとは何でしょうか。
「大学卒業後の就職を一つのゴールと定めるなら、文系の場合、学部による差はほとんどありません。そのため、コスパよく入れる学部・学科を選ぶのも、一つの策です。例えば、上智大学のポルトガル語学科やイスパニア語学科などは、学校推薦型選抜の倍率が1.0倍を切っています。大学の知名度は高く、語学は就活の大きな武器になるので、出口の選択肢は広くなります」
倍率以外で合格の可能性を上げるには、小論文やレポート、面接などがメインとなる総合型選抜や学校推薦型選抜を選ぶことです。これらは塾などを活用することで短期間でのレベルアップが期待でき、短期間での逆転合格が可能になります。逆に避けたほうがいいのは、評定平均や英検などの要件が高いものや、自身が行っていない課外活動の実績を重視するもの。言わずもがなですが、これらは短期間ではどうにもならないからです。
理系学部の場合も同様で、それまでに取り組んだ実験の結果や、数学・物理オリンピックへの出場経験など、基礎に加えて専門性や過去の実績がより求められる大学・学部は、100日程度では対策が難しくなるようです。とはいえ、そこまでの実績を求めない大学も多くあるのも事実です。そういった大学の場合は数学・物理・化学などの筆記試験を課すことが多いため、もともと理数系の科目が得意な子であれば100日で十分に合格を狙うことが可能です。
「ただし、文系・理系を問わず、大切なのは大学や学部がどんな学生を求めているかを知ることです。過去の出題内容を調べるだけでなく、どんな受験生が合格しているかを知り、求められる人物像を想像することが大事です。これは、就職活動における企業研究と同じですね。総合型選抜にはたいてい面接もあるので、コミュニケーション力の有無も影響します。これも就活とよく似ています」
「二兎を追う者は一兎をも得ず」
竹内さんが親に対して「絶対にやめてほしい悪手」と言うのは、「総合型選抜がダメだったら一般選抜も」と、通常の受験勉強を並行させることです。
「これをやってしまいがちなのは、一般選抜の模試の合格可能性がD判定以下の受験生の家庭です。『一般選抜では難しそう』と考えて総合型選抜への挑戦を決めたはずなのに、その準備に集中せず、子どもに一般選抜の受験勉強も強いてしまう。覚悟を決めて方法を絞らないと、どちらも失敗することになりかねません。『二兎を追う者は一兎をも得ず』です。もし総合型選抜で落ちてしまった時のことを考えるなら、一般選抜でなく、11月からの公募制推薦(学校推薦型選抜の一つ)をおすすめします。総合型選抜と同じ試験形式の大学が多いため、ほぼ同じ対策で挑むことができますよ」
一般選抜が当たり前だった時代に、日々の勉強を積み重ねて受験した保護者世代は、子どもにも「今の努力」を求めてしまいがちです。しかし、総合型選抜で重要なのは「これまでの実績」を大学に見せることです。
総合型選抜で合格するのは、大学が求める評定平均を満たしたうえで、プラスアルファの力や意欲、学問への情熱がある受験生です。竹内さんは「合格した生徒たちを見ると、上位大学では、より優秀な人材が選抜される結果になっています。『あわよくば』とか『一発逆転』は難しく、選考プロセスとしてはとてもよく機能している入試だと思います。だからこそ、戦略が重要なのです」と話します。合格のための戦略には、子どもの特性や実力、やってきたことを見極めたうえでの志望校選びも大切です。
「総合型選抜は、背伸びしなければきちんと評価される方式でもあります。自分の得意分野や経験が生かせる大学・学部を戦略的に選び、相手を研究することで、受かるべくして受かるのです。そう考えれば、100日での挑戦も十分に間に合うものだと言えるでしょう」
(文=鈴木絢子)
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