■私の就活体験記
小中高生のなりたい職業ランキングで上位に入るのが、ゲーム業界の仕事です。とはいえ、入社希望者が多く、ゲームが好きという熱意だけで採用を勝ちとるのは難しいことです。大学で映像制作を学び、憧れのゲーム業界への就職を目指して、ポートフォリオ作成や面接対策などでキャリアセンターをフル活用した女性がいます。ゲームの開発や販売を手がけるセガに2024年に入社した就活体験を紹介します。(写真=株式会社セガのデザイナー・原瑞葵さん、セガ提供)
夢はジブリからゲーム制作へ
2024年にセガに入社した原瑞葵(みずき)さんは、武蔵野美術大学造形構想学部映像学科の出身です。幼いころからジブリ映画の影響を受けて育ち、アニメーションを勉強したいという思いから、映像制作について広く学べる同大学に進学しました。しかし、入学した20年はコロナ禍が広がった年で、1年次のほとんどの授業はオンラインになりました。家にいる時間が長くなり、どっぷりとハマったのがゲームでした。
「それまでもゲームはしていましたが、ライト層でした。家にいることが多くなったタイミングで、父のお下がりのPS4®(プレイステーション4)をもらったこともあり、『ファイナルファンタジー』シリーズや『Detroit: Become Human』『UNDERTALE』などのゲームをするようになりました。そうした中でゲーム作りに携わりたいという思いがどんどん強くなり、将来の夢をアニメ制作から方向転換しました」
映像学科では、実写映画やアニメーション、CG、メディアアートなど、映像制作について幅広く学んできました。しかし、ゲーム制作の授業はありませんでした。
「3DCG(3次元の画像を生成するゲームやアニメーションなどで活用されている技術)の基礎を学べる授業があったので、その知識に加えて、YouTubeなどで独学で勉強して、3DCGを習得していきました」
毎週のように、キャリアセンターに通う
就職志望先をゲーム業界に絞り、3年次の5月ごろから就活を始めました。積極的に利用したのが、大学のキャリアセンターです。
「キャリアセンターが開催する進路・就職ガイダンスや業界・職種研究会、就職対策講座など、さまざまなイベントに参加して情報を収集しました。その後もエントリーシートの添削や、ポートフォリオ(作品集)の作成支援、面接対策など、毎週のようにキャリアセンターに足を運びました」
キャリアセンターが運営する「ムサビ進路ナビ」という就活プラットフォームも活用しました。これは、求人情報をはじめ、就活に関するさまざまな情報を得ることができるシステムです。
「先輩たちの就活体験も知ることができます。エントリーシートはこんなことに気をつけて書いたらよかったとか、面接ではこんなことを聞かれたとか、さまざまな情報を残してくれていて、こうした情報を参考に自分なりに分析していきました」
6社のインターンシップに参加
3年次の8月から翌年2月ごろまでに、ゲーム業界6社のインターンシップにも参加しました。そこで得られた経験も大きかったと言います。
「1カ月間の長期のインターンシップでは、グループで企画の原案を作るなど、初めてゲーム制作を体験することができました。インターンシップはオンラインが多かったのですが、セガは実際のオフィスで体験できたので、自分自身が働くイメージをよりはっきりと持つことができました」
セガのインターンシップでは、ポートフォリオ作成のためのセミナーのほか、原さんが作成したポートフォリオを添削してもらえる機会もありました。実績や技術を示すポートフォリオは、クリエーター系の職種を希望する場合に欠かせないものです。
「大学で映像作品について幅広く学んだことは自分の強みだったのですが、制作した作品をポートフォリオにすると、『一番やりたいことがわからない。やりたいことをもっとアピールしたほうがいい』と言われました」
原さんが志望していたのは、「キャラクターモデラー」。2Dで作成したキャラクターを3Dにモデリング(形成)する作業をする人のことです。そこで3DCGの作品がメインになるようにポートフォリオを作り直し、それからは就活もうまくいくようになりました。
「私はセガの人気キャラクターであるソニックが好きでした。360度カッコいい造形なのはもちろん、ハリネズミの要素と人間らしさみたいなものが絶妙なバランスで取り入れられているところに魅力を感じていました。私も生き物の要素を抽出してキャラクターデザインをしたことがあったので、セガではそうした経験も生かせると感じ、この会社に入りたいと思うようになりました」
採用の決め手とは?
原さんの最終的な目標は、「世界のだれかの『ベスト・オブ・ゲーム』になるようなゲームを届けること」です。就活の面接では、その目標をどうしても達成したいという思いを伝えました。セガ人事部の辻麗奈さんは、原さんを採用した決め手は「高い基礎画力とモノづくりへの貪欲さ」、そして「心地いいコミュニケーションが取れること」と話します。
「原さんはデザイナー職での採用ではありますが、ゲーム作りはチームで行うものです。プランナーが作成した仕様書をもとにゲームが作られますが、セガではデザイナーやプログラマなどからもそれぞれの専門領域の視点からゲームをより面白くするために提案をすることがあります。ですから自分が考えていることを言語化して相手に伝える力が求められます」
セガの採用は、総合職と開発職(プランナー、プログラマ、デザイナー、サウンド、技術職)に分かれています。原さんは大学時代に独学でゲーム制作を学びましたが、ゲーム会社側はどの程度のスキルを求めているのでしょうか。人事部の辻さんは次のように話します。
「職種によりますが、例えばデザイナー職で、原さんのようにキャラクターモデラー志望の場合、大学でデザインの基礎を学んでいれば、3DCGのようなスキルは入社してから習得できると考えています。プログラマはプログラミングの経験は必要ですが、それはゲームではなくてもかまいません。またセガにおいて職種問わず重視している点は、ゲーム・エンタメが好きなこと。変化を恐れず新しいチャレンジを楽しめること。自分なりのこだわりを持ち、情熱を持ってやり抜く力を持っていることです」
原さんは大学時代、コロナ禍でのスタートだったこともあり、部活やアルバイトはせず、ひたすら作品づくりに没頭していました。
「いつも何かを作っていました。映画制作では、脚本、監督、撮影なども経験しました。大変ではありましたが、作品づくりを通して最後までやり遂げる力が身についたと思います」
自分の興味のあることや大学で学んだことを生かして、キャリアセンターや企業のインターンシップを積極的に活用したことが夢をかなえられた要因といえそうです。
(文=中寺暁子)
【写真】コロナ禍でゲームの魅力にどっぷり 大学のキャリアセンターをフル活用して、セガに就職
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