■令和の大学を考える

いくつかの大学の頭文字をとって並べた大学グルーピング。「MARCH」「関関同立」など、一般的に定着したものもありますが、それ以外にも実はいろいろあります。様々なグルーピングを紹介しながら、成り立ちなどを教育ジャーナリストの小林哲夫さんが解説します。(写真=Getty Images)

大学の「グループ分け」を見る

代々木ゼミナールが2024年5月に進学資料としてまとめた入試情報の中に、「主要大学グループ」が紹介されている。【前編】の①~③に続き、これをひもといていく。

>>「早慶」「MARCH」「関関同立」… 大学グループの「通称」はどうやって作られた?【前編】

 

①早稲田大、慶應義塾大、上智大

②青山学院大、学習院大、中央大、法政大、明治大、立教大

③獨協大、駒澤大、専修大、東洋大、日本大、神奈川大

④国学院大、成蹊大、成城大、武蔵大、明治学院大

⑤工学院大、芝浦工業大、東京電機大、東京都市大、東京理科大

⑥関西大、関西学院大、同志社大、立命館大

⑦京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大


④ 国学院大、成蹊大、成城大、武蔵大、明治学院大
河合塾が、このグループに獨協大を加えて「成成獨國武明学」(せいせいどっこくぶめいがく)と呼んでいたことがある。MARCHほどは定着していない。なお、代田さんはこれに「日東専駒」を加えて獨協大と明治学院大を外して、「日東専駒成成神」(にっとうせんこませいせいしん)と呼んでいた。彼はさらにこんなグループを作って受験生に大学の名前を覚えてもらおうとしていた。

「関東上流江戸桜」(かんとうじょうりゅうえどざくら)。関東学園大、上武大、流通経済大、江戸川大、桜美林大

「流淑関白麗山上江」(りゅうしゅくかんぱくれいさんじょうこう)。流通経済大、淑徳大、関東学園大、白大、麗澤大、山梨学院大、上武大、江戸川大だ。

残念ながら、受験生の間で広まらなかった。

⑤ 工学院大、芝浦工業大、東京電機大、東京都市大、東京理科大
代ゼミは理工系単科大学の集まりとして5大学を並べたが、一般的には東京理科大を外して「東京4理工」と呼ばれることが多い。東京都市大が武蔵工業大と名乗っていたころから関係は密接で、現在4大学の間で「東京理工系大学による学術と教育の交流に関する協定」が結ばれている。各大学で開設する授業科目を他の3大学の学生が受講でき、単位認定されている。

⑥ 関西大、関西学院大、同志社大、立命館大
「関関同立」は関西ではすっかり市民権を得ている。

大学のグループ名は代田さんの専売特許ではなかった。「関関同立」と名づけたのは、大阪の夕陽丘予備校理事長を務めた白山桂三さんである。命名にいたる経緯を、同校の学校史でこう振り返っている。

「関学、関大、同志社、立命館、この4つの私立大が、関西では入試レベルも高く、人気もある大学なので、これを総称して“関関同立”と言うことにしようや。『大学へアタック』で、はやらせや」(『創立三十年 夕陽丘予備校史』1981年)

「大学へアタック」とは、大阪新聞が1970年に掲載していた受験関連の連載記事のことである(同紙は2002年に休刊)。関西の予備校、大阪の夕刊紙が発信した「関関同立」が、全国区になったわけだ。

⑦ 京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大
「産近甲龍」(さんきんこうりゅう)も関西の受験生の間でかなりなじんでいる。甲南大と佛教大を入れかえて「産近佛龍」(さんきんぶつりゅう)と呼ぶ人もいる。名づけたのは代田さんだ。ほかに関西圏の大学について、「摂神追桃」(せっしんついとう)、「神桃追帝」(しんとうついてい)(摂南大、神戸学院大、追手門学院大、桃山学院大、帝塚山大)と命名している。代田さんはこんなグループを作った。「六甲の龍谷峡の大螢光」。六甲の龍谷=甲南大と龍谷大、峡=京都産業大、大=大阪学院大、螢=大阪経済大、光=大阪工業大からとっている。漢詩のようにも聞こえる叙情的なネーミングである。

以上、大学グループをざっと眺めてみた。

もう一つ頻繁に使われる大学グループがある。今年、新聞一面トップにでかでかとこんな見出しが掲げられた。
「旧帝大合格 東京圏が拡大」(毎日新聞2024年4月3日)

1949年以前の旧大学制度において、「東京帝国大学」などという「帝国」が冠されていた大学があった。現在の北海道大、東北大、東京大、名古屋大、京都大、大阪大、九州大である。これらは「旧7帝大」とも呼ばれていて、①歴史と伝統がある、②人文社会科学理工医などそろった総合大学、③論文数や研究費のランキング上位、④国家公務員を多く輩出などの共通項がある。

これらの大学は受験生から何十年も熱烈な支持を得ていた。成績優秀な受験生が集まり、難易度が高い水準で保たれている。なかでも東大、京大の地位は揺るがない。

なお、筆者は地の文で「旧帝大」という表記は使わない。「旧帝大」という言い方はなくなってほしい、と思っている。大日本帝国、帝国大学は今は存在しない。「旧帝大」という名の大学はなく、いま「旧帝大」と呼ぶことで、その大学を権威付けさせることに合理性がない。大学間格差を助長させるだけだと考えるからだ。したがって、本稿ではカッコ書きで記した。

大学のグループは志望校選びの参考になる。難易度、地域、学部の構成が似たものが集まっているので、自分の学力、性格、将来の目的に合う大学をグループで探すのも手だ。もちろん、いま、800近くある大学のなかで、グループに分けられるのは圧倒的少数派である。グループにとらわれる必要はまったくない。自分が好きになった大学を選んでほしい。

最後にいまのご時世にぴったりの大学グループ名を紹介しよう。

「中東和平成立」中央学院大、東京国際大、和光大、平成国際大、立正大の5大学である。ある予備校職員が教えてくれた。残念ながら、受験生の会話には出てこない。パレスチナ問題を思うと、広がってほしい大学グループ名だ。

(文=小林哲夫)

>>【連載】令和の大学を考える

プロフィール
小林哲夫(こばやし・てつお)/1960年、神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。大学や教育にまつわる問題を雑誌、ウェブなどに執筆。『大学ランキング』(朝日新聞出版)編集統括。『日本の「学歴」 偏差値では見えない大学の姿』(朝日新聞出版・共著)ほか著書多数。

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