大学の研究力とは? これからの学生に求められる力とは? 筑波大学長と早稲田大総長からのアドバイス【後編】

2024/10/17

■学長対談 「リーダーが語る10年後の大学」

国立大学が法人化されて20年。日本の研究力は低下したのではないか、という指摘がある中、国は世界トップレベルの研究水準を目指して「国際卓越研究大学」制度をスタートしました。これからの日本の大学の研究力は、どうなっていくのでしょうか。また、これからの学生は、どのような資質を身につけるべきなのでしょうか。国立大学協会会長を務める筑波大学の永田恭介学長と、日本私立大学連盟会長を務める早稲田大学の田中愛治総長に聞きました。

大学の研究力は強化すべき

――国際卓越研究大学に応募した大学の中から東北大学が認定され、2024年度中に約100億円の助成が始まる見込みです。こうした国の取り組みについてはどう思われますか。

筑波大・永田学長(以下、永田学長):研究力は研究者の数と論文数が目安です。研究者が増えれば論文数も増えます。日本の研究力が落ちているのは、研究者の数が減ったことが全ての原因だと思います。研究は1年、2年では結果が出ません。しかし、増えているのは長期間、安定的に研究に取り組むことが難しい立場の非常勤、有期雇用です。

ドイツやスイスは、この10年で大学の経費が30パーセント増加しているのに、日本は増えていません。これは大きな投資をしなくてはいけないということで、その1つが国際卓越研究大学だと思います。国際卓越研究大学と並行して行われているのが「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」です。国際卓越研究大学に比べて金額は小さいですが、研究を一生懸命やろうとしている大学に出されていてよいと思います。

私立、公立、国立に関係なく、強い大学をより強化するのはいいとして、根本的な研究力強化のためには、これから伸びそうな大学の研究力も強化していったほうがいい。同じ大学ファンドを使い、大学院の博士課程の学生を経済支援しているのもいいことだと思います。

早稲田大・田中総長(以下、田中総長):国が設立した大学ファンドで研究費を支援するのは、非常に大事なことだと思います。大学院の博士課程に入る学生の数がこの20年で約4割減りました。このままでは日本の研究力が低下するということで、ファンドの運用益を使って支援することになったわけで、これはいい方法だと思います。ただ、私が海外の大学を見てきて2002年頃にやるべきだと主張していたことと、今、文部科学省がやろうとしていることはほとんど同じです。

 

海外留学は、大きな価値がある

——田中総長は長く海外を見てきて、日本の大学はもっと変わるべきだと思われたということですが、やはり学生は留学をしたほうがいいでしょうか。

田中総長:早稲田大学は短期留学を含めて、コロナ前には8350人の海外留学生を受け入れ、4600人の学生を送り出していました。2032年までに学部生は全員、少なくとも半年、できれば1年、海外で学ばせたいと考えています。これは大きな費用がかかりますが、そのぐらいのことをやりたいです。2040年までには、基本的に教員は全員、日本語以外で研究発信と教育ができるようにしたいと考えています。現在、政治経済学部には108人の教員がいますが、すでにそのほぼ半数は海外でPh.D.(博士号)を取っています。

永田学長:留学経験者のプレゼンテーションを見に行くことがありますが、留学する前と後では、学生が全然違います。物の見方が変わっているのです。それは日常の中ではわからないことで、「非日常」に身をおかないと、体得できません。ただ、親御さんにとっては経済的な問題が大きいので、留学する人への支援を文科省に交渉している最中です。

——これからの時代、学生はどういう力を身につけたらいいでしょうか。

永田学長:「決心」と「覚悟」を持つことですね。自分はこういう生き方をするんだと決めて、覚悟を持ってそこに向かうことです。決心と覚悟を持ったうえで、コミュニケーション力、英語力、専門力をつけるのが大事です。今の学生はそこがまだ弱いかなと思います。

昨年、筑波大学の開学50周年記念式典に、元福岡ソフトバンクホークス監督の工藤公康さん、ブライトンFC所属の三笘薫さんら卒業生を招きましたが、皆さんが「筑波大学に来たこと自体が人生のいちばんの冒険だった」と言っていました。冒険というのは、いろいろ準備はしても、これから何が起こるかはわかりません。自分のやりたいことのためには、決心と覚悟が必要です。

田中総長:答えのない問題を自分の頭で考える力をつけてほしいです。学生が社会に出て日々ぶつかる問題のほとんどに答えはありません。もう1つは、「しなやかな感性」です。自分と全く違う経験をしている人の感じ方や考え方をいかに理解するかということです。そのために必要なのは、日本の外に出ることです。外から日本を見ると人生が変わります。

それから、自分が面白いと思うことを追求してほしいです。出世するから、儲かるからではなく、やりがいがあって時間をかけてもいいと思うことをやっていれば必ず伸びるし、120パーセントの力が出ます。どんなニッチな領域でも、120パーセントでやっている人は絶対に光ります。「たくましい知性」と「しなやかな感性」を育んでもらいたいですね。

——最後に高校生の保護者へ向けて、アドバイスをお願いします。

永田学長:厳しいことを言うようですが、子どもを突き落とす覚悟がないとダメですね。親が一生、子どもの面倒を見ることはできないので、どこかで手を離さないといけません。本当の意味で子どもから精神的に離れないとダメです。それは親自身が、自分の経験からわかると思います。

田中総長:限界を決めたら、そこまでしか伸びません。お子さんの上限を勝手に設定しないほうがいいと思います。なにかを押し付けたり、こういうものだと決めつけたりしないでほしい。子どもは興味があることに対しては、やる気になればどんどんやるので、可能性を閉じないようにして伸ばしてあげることが大事です。子どもがやりたいこと、関心のあることをどこまでも追求させてあげてください。

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写真左から朝日新聞「Thinkキャンパス」中村正史・総合監修者、早稲田大学の田中愛治総長、筑波大学の永田恭介学長、朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長

>>筑波大学長と早稲田大総長が語る、入試改革の必要性 「共通テストは年内に」「全科目を受験すべき」【前編】

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永田恭介(ながた・きょうすけ)/筑波大学学長。専門は分子生物学、ウイルス学、構造生物化学。東京大学薬学部卒、同大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)。米国留学後、国立遺伝学研究所分子遺伝研究部門助手、東京工業大学(現・東京科学大学)大学院生命理工学研究科助教授、筑波大学基礎医学系教授などを経て、2013年から現職。国立大学協会会長などを務める。

田中愛治(たなか・あいじ)/早稲田大学総長。専門は政治学。早稲田大学政治経済学部卒、米国オハイオ州立大学大学院政治学研究科博士課程修了。Ph.D.(政治学博士)。東洋英和女学院大学助教授、青山学院大学教授、早稲田大学政治経済学術院教授、International Political Science Association(世界政治学会)President(会長)などを経て、2018年から現職。日本私立大学連盟会長、日本私立大学団体連合会会長、全私学連合代表などを務める。

(文=仲宇佐ゆり、写真=今村拓馬)

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早稲田大学の田中愛治総長
早稲田大学の田中愛治総長

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