■特集:大学新時代
「デジタル・グリーン子ども学科」「グリーンデジタル情報学科」など、「デジタル」「グリーン」と名のつく学部・学科の新設が相次いで予定されています。その背景は? そこでは、 どんなことを学ぶのでしょうか。さらにはこれらの学部・学科を選ぶ際の注意点までを、教育ジャーナリストの小林哲夫さんが解説します。(写真=Getty Images)
「デジタル」「グリーン」がトレンド
昨今、新設学部・学科に「デジタル」「グリーン」という名前をよく見かけるようになった。
その理由の一つとして、この2分野について国からの支援を受けられる、という背景がある。国からの支援とは、①まとまったお金をもらえる、②最先端分野でお墨付きを得られる、ということであり、大学にすれば実利、評価の面でありがたく、名誉な話だ。
2024年6月、文部科学省は第2回大学・高専機能強化支援事業(成長分野をけん引する大学・高専の機能強化に向けた基金)として、85大学などへの支援を発表した。この「成長分野」がデジタル、グリーンである。文科省は支援についてこう説明している。
「デジタル・グリーン等の成長分野をけん引する高度専門人材の育成に向けて、意欲ある大学・高専が成長分野への学部転換等の改革を行うためには、大学・高専が予見可能性をもって取り組めるよう、基金を創設し、安定的で機動的かつ継続的な支援を行う」
もう少しわかりやすく説明すると、デジタル分野は生成AIなどコンピューターの最先端技術を活用できる、グリーン分野はSDGs(持続可能な開発目標)に掲げられている環境や食糧問題を解決する。文科省はこれらを成し遂げる人材を育てる大学を支援するということだ。
今回の事業で、「学部再編等による特定成長分野(デジタル・グリーン等)への転換等」が支援対象として選ばれた大学の多くはデジタル、グリーンどちらかの名称を掲げている。また、デジタルとグリーンの2つのワードをくっつけた学科も登場している。「デジタルグリーン」「グリーンデジタル」である。これらは学問分野として定着するだろうか。受験生の心に響くだろうか。
「デジタルグリーン」で何を学ぶ?
いくつかの大学でデジタルとグリーンを並べた学部・学科の設置を予定、計画、検討している。その教育内容を読み解いてみよう(いずれも26年以降の設置予定で仮称)。
大正大(東京)は、情報科学部グリーンデジタル情報学科、デジタル文化財情報学科の設置を予定しており、次のように説明している。
「地域の環境(生活、地域、防災・減災)や生物多様性などを志向するグリーンインフラに加えて、ビジネスの視点から社会の持続的な成長まで志向するグリーンビジネスを基盤とする学び(グリーンデジタル情報学科)や、文化財や自然遺産のデジタルアーカイブに関する最新技術の他、それらを次世代へと継承していくための学び(デジタル文化財情報学科)を展開」(大学ウェブサイト)
環境問題について、AI技術を活用したビジネスの観点から解決する、と読むことができる。たとえば地球温暖化対策としてCO₂削減のためさまざまなデータを集めて活用し、環境問題政策を打ち出すわけだが、当然、環境に関する専門性、システムエンジニアとしての技量が求められる。ハードルは高い。
白梅学園大(東京)は、子ども学部デジタル・グリーン子ども学科を設置予定だ。
「本学を拠点にエコシステムを形成し、地域社会におけるGX・DXの推進を持続可能にする。人材育成の特色に、本学の強みである次世代育成と子育て支援の観点を入れ、現世代の理系分野の人材創出に加え、次世代の理系人材確保も視野に入れている」(大学ウェブサイト)
ポイントは「エコシステム」「GX・DXの推進」「理系人材確保」となる。GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは、省エネやエネルギー転換などで低炭素化を図り、クリーンエネルギーを目指すことだ。DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、さまざまなビジネス分野でのデジタル転換で、いまや大学では当たり前のように使われる言葉だ。子どもたちを教えるにあたって環境問題に目を向け、デジタルに強くなること。そのためには理系の知識が必要となる。かなりの知識、技術が求められる。
三条市立大(新潟)は工学部グリーン・デジタル学科の設置を考えている。
「デジタルやグリーンの知識を活かし、地域課題を解決するために未来志向で社会に価値を実装できる人材を育成するため、工学部に『グリーン・デジタル学科』の設置を検討するものです」(大学ウェブサイト)
三条市立大は機械工学、電気工学などを得意とし、地元・燕三条で盛んなものづくり分野での技術者、設計者を養成する。地場産業の担い手が期待されるなか、環境とAIに強い人材を育てようとしている。
新潟薬科大は応用生命科学部グリーン・デジタル学科の設置を計画しており、こう説明する。
「農学系の『応用生命科学部』を基盤に、農・食・バイオ関連分野におけるDX化やGX化をリードする人材を育成します」(大学ウェブサイト)
農学発展のために優れたシステムエンジニアの養成を訴える。習得すべき知識や技術は多い。
選ぶなら教員と教育目標をチェック
大学は「デジタルグリーン」という教育、研究分野について、しっかり準備できているだろうか。
デジタルグリーンを教えるにあたって、AIの知識にたけたシステムエンジニアでありながら、環境問題などに詳しい専門家という「二刀流」が求められる。実際、このような教員はそう多くない。また、新しい学問分野ゆえにカリキュラム、教育内容が十分に確立されているとは言えない。
一方で、社会からのニーズは高く、魅力ある学問分野であることも間違いない。
しかし、悲しいかな、デジタルとグリーンという最先端トレンドをくっつけただけのところも現れかねない。過去には流行を追いかけて新設学部・学科をつくったが、看板倒れで受験生から評価されず、短い期間で募集停止となったケースもある。
では、デジタルグリーンまたはグリーンデジタルを掲げる学部・学科をどう見極めたらいいのか。授業名だけでは中身はわからない。教員のキャリアを知っておきたい。たとえばエンジニア経験の有無などだ。また、教育目標がどこにあるかをチェックしよう。学生をエンジニアとしてどの水準まで高めてくれるか、環境や食糧などのテーマについてどこまで問題意識を持たせてくれるか、などである。
もちろん、学生にもデジタルとグリーンの「二刀流」が求められる。高度な専門知識を習得し、最先端技術を身につけなければならない。ハードな勉強、実習が求められる。パンクしなければいいのだが、大学も学生も相当な覚悟が必要だ。
デジタルグリーンという学問分野が発展すれば、環境、食糧、人口、貧困などさまざまな問題の解決が期待できる。デジタルグリーンは世界の救世主になる可能性を秘めている。そのために大学はこの新しい学問分野をしっかり準備してほしい。学生は勉強してほしい。世のため、人のためにも。
(文=小林哲夫)
プロフィル
小林哲夫(こばやし・てつお)/1960年、神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。大学や教育にまつわる問題を雑誌、ウェブなどに執筆。『大学ランキング』(朝日新聞出版)編集統括。『日本の「学歴」 偏差値では見えない大学の姿』(朝日新聞出版・共著)ほか著書多数。
【写真】「デジタル」「グリーン」学部を新設する大学が増加 その背景や理由とは?
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